ペースが15年も早まった 「日本の少子化のペースが当初の推計より15年も早まっているのは、そもそも政府の推計が甘すぎたから。出生数は3年連続で、前年比5%以上減少しています。このペースで減っていくと、15年後には出生数が30万人を下回ってしまう可能性もある。危機的というよりも、危機そのものです」 シリーズ100万部を突破した『未来の年表』著者で、人口減少対策総合研究所理事長の河合雅司氏がそう警鐘を鳴らす。 2024年に生まれた日本人の子供の数は68万6061人と、70万人を下回ることが大きく報じられた。国立社会保障・人口問題研究所(社人研)の推計によると、2024年の出生数は75万5000人。 68万人台になるのは2039年と予測されていたので、少子化のペースは15年も早まっているというわけだ。 死亡者数も急に増えた 実は、「出生数が70万人を切った」という報道ばかりが先行し、メディアが取り上げない驚異的な数字があると河合氏は指摘する。 「2024年の死亡者数が160万人となったのです。社人研の推計では149万9000人でした。160万人台になるのは2032年のはずだったので、予想よりも8年早まったということです」 生まれる数が減る一方で、亡くなる数も急速に増えた。つまり、日本人を減らすふたつの要因が悪化したのだ。 死亡者数が増えた原因はいくつも考えられるが、ひとつはコロナ禍の影響ではないかと河合氏は推察する。 「コロナウィルス自体では、そこまで多くの日本人は死にませんでしたが、感染を必要以上に怖がって、ほとんど外出しない高齢者たちが相当数いた。基礎体力を落とし、歩行が困難になった人もいる。 基礎体力が衰えると様々な病気にかかりやすくなるし、人との触れ合いが少なくなって精神面への悪影響もあった。コロナ禍が少なからず影響して、死亡者が増えたのかもしれません」 結果的に1年間で90万人を超える人口減となり、毎年100万人ずつ減る年が予想より早く到来するのは間違いない。そしてこのペースで人口が減れば、2070年頃には日本人は半減してしまうという。 いまだに「分配」と「分散」政策ばかり 河合氏が続ける。 「日本政府は2030年代初頭までがラストチャンスだとして、異次元の少子化対策と称して莫大な予算を投じることにしたが、ラストチャンスでも何でもない。単に意気込みを語っているだけです。 与党はもとより、立憲民主党、日本維新の会、国民民主党など野党も人口減少対策を打ち出せていない。あっても社会保障に矮小化され、いまだに『分配』と『分散』政策を打ち出すばかりです。 人口が減っても経済成長するためには、ビジネスモデルを変えて、海外に売れるような高付加価値型の産業を人口集積地の中につくっていくことが不可欠なのに、地方への移住促進策を打ち出しているんです」 先月、河合氏は委員を務めている『新しい地方経済・生活環境創生会議』(内閣官房)で、「都会の人口を地方に流してもなんの解決にもならない」と訴えたという。 「政策の効果をまったく顧みず、目の前の選挙の対策ばかり考える。政治家は、人口の多い東京圏から人の流れをつくれば地方の人口減少は止められると言うばかり。それは、昭和30年代の高度経済成長期の成功モデルを温存したい既得権者や、変化を嫌う高齢者の票を獲得したいからでしょう」 集住に向けた決断を 分配と分散ではなく、集約と投資に尽力することがこれからの日本には必要だという。 「集積の経済の究極の形がいまの東京ですが、このモデルは破綻しかけています。ましてや地方は東京とは違う成長の軸を『集約』と『投資』によって立て、その強みで海外にものを売っていくしかありません。 人口20万〜30万のエリアに特化型の企業をつくり、海外と直接貿易して、得た利益を地元に還元すれば、スーパーや薬局など暮らすのに必要な商品やサービスを担う店舗が残る。いますぐ、集住に向けた決断が必要になります」 河合氏が考えるひとつの方策は、中核となる地方都市と周辺の人口集積地を結んでいくこと。たとえば人口24万人の山形市を中心とし、周辺の市で山形市圏をつくる。山形市の中心に人を集め、隣町である上山市は上山市民2.7万人で人口集積地を、天童市は天童市民6万人で集積地をつくり、それぞれを結んで一体的な圏域を形成する。 「私が提唱しているアイデアは、高速道路のサービスエリア、パーキングエリアを街の集約化のために活用すること。鉄道は廃れていきますが、毎日物流トラックが通っている高速道路はなかなか廃れません。配送業の置き配場所や、病院も役所もその近くに集結させればいい。高速道路なら自動運転のクルマも走らせられやすい」 そんな新しい考え方を打ち立てる河合氏が最後に語る。 「過去の成功モデルを守りたい人々に忖度して、痛みを伴う新しいアイデアも出そうとしない保身的な政治家たちによってこの国はつぶされていく。このままいけば、日本は『第二の敗戦』を経験することになってしまいます」 迫りくる参議院選挙では、日本の人口減少問題と真剣に向き合い、斬新かつ効果的な政策を打ち出してくる政党はあるだろうか。 日本の若者の「建築業界離れ」がかなり深刻に…「労働時間は長く賃金も低い」厳しい実態