5月後半から6月上旬の話題を席巻したのが備蓄米です。小泉進次郎農相が日々登場し、国民に安く米を渡す！と勇ましいことを言い、メディアが取り上げ続ける。大阪のイオンでは、5キロ税込2138円の米を求めて開店前から1000人が行列を作り、4800袋が約4時間で完売。購入者の「助かりました」などの声が報じられました。 【写真を見る】備蓄米が山積みのドンキをドヤ顔で闊歩する小泉進次郎農水相 　もはや、令和の徳川吉宗とか米将軍ならぬ米大臣とでも呼ばれることが狙いでは、と勘繰るぐらいのヒーロー然とした振る舞い。でも正直、米価より2023年以降の電気代高騰の方がキツくありませんか？ 　それまで月1万円ほどでしたが、今では1万6000円ほどに。オール電化の広い家に住む5人家族の知人は9万円に上ったそう。 コメを求めて大行列…… 　備蓄米については、行列する客の整理にあたる店員が「最後尾」のプラカードを掲げるなど、人気テーマパーク顔負けの状況に。これを見ると「貧しい国になったな……」と感じます。2300円ほど安い分、風味が劣化したものに、前日夜から大行列。「進次郎サマ〜、ありがとぉ〜ごぜぇますだ〜」的な光景かと。 　父親の純一郎氏が05年の総選挙で、諸悪の根源が郵便行政にあるとし、郵政民営化を訴えて大勝利した歴史を思い出します。「JA悪玉」論から「JAをぶっ壊す！」闘争に昇格させて進次郎氏が旗を振る事態になれば、次の参院選で喝采を浴びるでしょう。裏金問題にパーティー券問題と、自民党に逆風が吹いていた中、空気を変えかねません。 イラスト・まんきつ 　従順なる国民を動かすことなど、本当にチョロいもんです。2000円で米を放出すれば、行列ができることなど分かってたはず。 　20年、コロナ騒動勃発直後にマスクや消毒液をわれ先にと買い求める行列ができ、吉村洋文大阪府知事が“イソジンなどのポビドンヨード入りうがい薬がコロナに効く”と言うと、ドラッグストアの棚からうがい薬が瞬時に消えました。 　危機と品薄というワードがそろえばなんでもかんでも売れる国。いっそ各企業は銭ゲバ専門家にカネ払って「これからオリーブ油が枯渇する」（←調理油メーカーの場合）とか、論文でも書かせれば図に当たるかも。 　ところで郵政民営化の話ですが、05年の選挙直前に〈なるほど!!　郵政民営化ってそうだったんだ通信〉なるパンフレットが新聞折り込みで配達されました。 　その数、1500万部。表紙はテリー伊藤氏と竹中平蔵氏の顔写真とイラスト、吹き出しのセリフです。 　テリー氏が郵政民営化はよく分からないから説明して、とお願いし、竹中氏が郵政民営化がわれわれの暮らしを元気にする、と答えています。内容は二人の対談に加え、郵政民営化のメリットの説明、各国の民営化後の状況解説などです。 　このパンフレット制作は、零細広告代理店が1億5614万円で随意契約しましたが、本来は入札制にすべきはずのものです。 　はい、これ備蓄米の「随意契約」で思い出した一件です。なぜ思い出したかといえば、このパンフレット全8ページのうち4ページを私が編集・執筆したからです。ちなみにギャラは35万円。どんだけピンハネされたんだよ！　米は古びても記憶は意外に古びません。 中川淳一郎（なかがわ・じゅんいちろう） 1973（昭和48）年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』など。 まんきつ 1975（昭和50）年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』（扶桑社）『ハルモヤさん』（新潮社）など。 「週刊新潮」2025年6月19日号 掲載