おしゃれに老いる、素敵に老いる、小さくて快適な暮らしのための、スッキリする断捨離。ところでお金は？　住まいは？　親の介護は？　お墓はどうしよう？ 日本でしばしば話題になる「老い支度」だが、ドイツ人はどうしているのか？　合理的で節約を重んじているのか？　親子関係はどのようなものだろう？ 日本とドイツにルーツを持つサンドラ・ヘフェリンが、実際のインタビューをもとに綴る実用エッセイ、 『ドイツ人は飾らず・悩まず・さらりと老いる』 より、一部を抜粋・編集してお届けする。 『ドイツ人は飾らず・悩まず・さらりと老いる』　連載第22回 『「教授」の肩書を隠し64歳にして日本へ留学したドイツ人女性…彼女が幸せに生きるために手放したものとは』より続く。 ウクライナ難民に自宅を提供 家のスペースに余裕のあるベアーテさんは、2015年に内戦から逃れたシリア難民の男性を、自宅に数ヵ月住まわせたことがあると言います。 「あの頃は末娘がまだ同居してたから、話を聞きつけた元夫からすぐに電話が来たわ。『若い女の子がいる家に男性を泊めるなんて、間違いが起きるんじゃないかと心配でたまらない』って。元夫はアルジェリア人で、基本的にアラブ人の男性は、同じアラブ人の男性をあまり信用していないの。もちろん彼の言うことなんか聞かないわよ。その後もシリアの男の人を家に泊めたわ。何も問題はなかった」 末娘は5年前に家を出ており、今は広い家に一人暮らしのベアーテさん。「口コミ」でやって来た日本人がホームステイしていたこともあれば、ロシアによる侵攻後、難民となったウクライナ人女性を迎え入れたこともあるそうです。余っているスペースを人に提供するのは、ベアーテさんにとって合理的であり自然なことなのです。「ボランティア」や「博愛精神」という言葉を使うことなく、日常の一部として、さらっと「難民を自宅に泊める」と話していました。 「昔から知っている人か」「友達か」という観点からではなく、戦争などで「生活の根幹を揺るがされるような困難な状況にいる人」に対しては、知らない人であっても気軽に手を差し伸べる。この行為は、非常にドイツ的というかヨーロッパ的な感覚だと私は感じました。 「明日死んでもいい」と思える今日を生きたい ベアーテさんと女性エンジニアの仲間たちが「バーべーキューをしよう」とメンバーの家に集まった時のこと。ドリンクや食材もそろい、さあ、庭で焼き始めましょうというタイミングで、一同はかたまりました。「火を起こしたことがある人！」と聞いたところ、20人いたエンジニアの女性のうち、誰一人、やったことがない……。 「私たちは普段は男性と対等に働いているつもりだったけれど、考えてみればバーべーキューの火起こしはいつも『男性』がやっていたのよね」 この出来事で「やはりドイツはカップル社会だ」と落ち込んだわけではなく、「女性全員、火起こしができない」と判明した途端、みんなで大笑いしたと言います。 結局、ベアーテさんを中心に数人で火起こしをし、見事成功して大盛り上がり。 「これで火起こしに関しても私は経験者になったし、もう何も怖いものはないわ！」 ベアーテさんに「あなたにとっての幸せとは何か」と聞くと「明日死んでもいいと思えるような生き方をすること」と即答でした。 「何かを逃してしまった、何かをやっておけばよかった。そんな気持ちをもたないことが一番ね。今の時点で人生を振り返ると『後悔』は多少あるんだけど、全体を見ると満足だし、とくに仕事に関しては大満足。60代になっても仕事を続けられること、自分の得意分野でボランティアができていること、子どもたちが自立して元気なこと、すべて幸せ。 若い人とかかわるのも楽しいわね。近所に住む娘の夫は、父親のいない家庭で育ったから、自分に子どもができて、自分が父親としてどうふるまったらいいのか、かなり戸惑っているの。ロールモデルがいないから当たり前よね。このあいだ本人がその戸惑いについて私に話してくれて、ああ私に相談してくれるんだわ……ってなんだか嬉しくなっちゃってね。私は男ではないのにね（笑）」 『「やっと手に入れた自由」…「カップル社会」を生きてきたドイツ人女性が離婚して手に入れた“おひとり様”生活』へ続く。 【つづきを読む】「やっと手に入れた自由」…「カップル社会」を生きてきたドイツ人女性が離婚して手に入れた“おひとり様”生活