遂に捉えた凶暴ヒグマ「OSO18」の全貌!…撮影成功のカギは「襲った牛に執着する習性」だった

道東を恐怖と混乱に陥れた「牛を襲うヒグマ」の正体とは? ハンターの焦燥、酪農家の不安、OSO18をめぐる攻防ドキュメント『異形のヒグマ OSO18を創り出したもの』。 追うハンター、痕跡を消すヒグマ、そして被害におびえる酪農家の焦燥をつづり、ヒグマとの駆除か共生かで揺れる人間社会と、牛を襲うという想定外の行為を繰り返した異形のヒグマがなぜ生まれたのか、これから人間は変貌し続ける大自然とどう向き合えばいいのか。『異形のヒグマ OSO18を創り出したもの』から抜粋・再編集してご紹介! 山の神を「怪物」に変貌させたのは大自然か、それとも人間か? 『ヒグマ「OSO18」捕獲のため「新たな作戦」が始動…長年かけて改良された「新式の罠」の仕組み』より続く 住居の近くで牛が襲われた 赤石が戻ってきた。 「現場どうでしたか?」 「うーん、ひどく食われてたね」 「食われてましたか。1頭だけですか?」 「うん、1頭だけ」 「まだ近くにいる可能性ってあるんですか?」 「いるんでないかい、そばに。まだ近くにいるんじゃねえの」 襲われた牛は、東阿歴内牧野で殺された牛と同様に、腹だけが食べられていた。腹に開けられた穴は空洞になり、中身は食べつくされていた。 付近の土が剥き出しになったところには、それらしき足跡が残されていたが、状態の良いものがなく、大きさの判別は難しかった。 牧場主の類瀬は、住居からわずか200mの地点で牛が襲われた事実に恐れをいだいていた。 「もっと山の中ならよかった。さすがにあんな家の見えるところで……」 類瀬牧場は、国有林に接している。いつまた森からヒグマが現れるかわからないと、類瀬は残された牛たちを牛舎に引き揚げていた。 藤本は死体を数日間放置し、何か反応がないか様子を見るように類瀬に伝えた。 「今晩戻ってこなかったら、来ないと思うんだよね。とりあえず、一晩置かしてもらって」 「またほかの牛たちを放しても、被害ないよとは言えないでしょう?」 「うん。いつまたここに戻ってくるかわからない。場所わかってるから。あいつは見て歩いてるから」 この日、藤本は、現場への立ち入りを厳しく制限した。現場周辺の人間の匂いを最小限に抑えたうえで、牛の死体をそのまま残そうと考えたのだ。これまでの被害現場では、多くの人間が被害現場に出入りしたため、OSO18が現場に戻ってくることはなかった。人間の気配をなくすことで、OSO18の警戒心を解くことができるかもしれない。再来すれば、行動パターンをつかむことができる。そういう作戦だった。 跡形もなく姿を消した死体 翌朝、再び電話が鳴った。前日、連絡をくれた本多からだった。 「死体がなくなったぞ」 死体がなくなった……? 一体どういうことなのだろうか。 類瀬は忙しいということだったため、すぐに本多にお願いをし、案内してくれるよう頼んだ。 本多の自宅まで行き、軽トラックに同乗させてもらった。前日、類瀬に連れて行ってもらった牧草地の奥まで入っていく。 前日、死体が横たわっていた地点に辿りついた。しかし、確かにそこにあったはずの死体は、跡形もなく、きれいさっぱりと姿を消していた。 「今朝、様子を見に来たら、なくなってたのよ」 辺りの牧草に目を向けると、うっすらと死体を引きずった跡が残っていた。牛1頭分の幅だけ倒れた牧草の跡が、森のほうへと続いている。OSO18は現場に戻ってきていた——。 跡を辿り、林まで到達すると、そこに生い茂る笹も同じ幅の分だけ倒れていた。林は下り斜面になっており、下のほうまでずっと跡が残されていた。斜面の下には、沢が流れている。どうやら牛はそこまで引きずられていったようだった。 現場に人間の匂いを残さなければ、通常のヒグマと同様、OSO18は獲物に執着する。藤本の読みは、的中したらしかった。 カメラがとらえたOSO18の姿 ハンターの同行なしでこれ以上笹の奥に進んでいくのは危ない。本多とともに、ひとまず引き返すことにした。この日は、標茶町役場職員と猟友会のハンターたちで、沢の調査が行われた。牧草地と林の際から100m近く斜面を下ったところに、前日に殺された牛の姿があった。前日よりもさらに捕食されていたが、かろうじてまだ身体は残っている。藤本の指示の下、死体に向けて、トレイルカメラが設置された。 人間の気配を感じずに、OSO18が安心して牛に執着しているいま、焦って行動に出て警戒させるわけにはいかない。この機会を利用して、これまで謎に包まれていた見た目の特徴や習性をつかむことが先決だと判断したのだ。捕獲するには、まずその実相を明らかにしなければならない。 カメラが決定的な姿を捉えたのは、その4日後だった。 夜10時、OSO18とみられるヒグマが、カメラに捉えられた。 そして牛をむさぼり食い始めた。深夜まで、2時間40分間も続いた。 OSO18は、決して楽しむために牛を襲っていたわけではなかった。 間違いなく、食べるために牛を襲っていたのだ。 『4年間で一度も目撃されなかった「忍者グマ」OSO18の驚きの移動ルート…実は地元独自の「地名」が伏線だった!』へ続く 【つづきを読む】4年間で一度も目撃されなかった「忍者グマ」OSO18の驚きの移動ルート…実は地元独自の「地名」が伏線だった!

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