抑うつ、見捨てられ妄想など。認知症の人が抱えやすい精神的な症状を理解する

認知症の人の介護はトラブルが多く、一筋縄ではいかないものです。さまざまな問題をかかえこみ、経済的にも悩みがつきません。ときにはつらさのあまり、介護をギブアップしそうになるでしょう。 しかし、認知症の人がすんでいる世界を理解すれば、介護をしやすくなるかもしれません。認知症の人は私たちの常識の基準とは少しずれている世界に生きていますが、どんな行動にもその人なりの気持ちや考えがあります。ただ、気持ちをうまく言葉にできないだけです。そして、その気持ちを理解する手がかりはあるのです。 この連載では、 『認知症の人の気持ちと行動がわかる本』 (杉山孝博監修、講談社刊)のエッセンスから、認知症と介護について、正しい知識と情報についてお伝えしていきます。認知症の人の思いやじょうずな介護の方法、利用できる社会制度・サービスを知れば、介護がぐっと楽になるはずです。 今回は、認知症になったときの精神的な症状について見ていきましょう。 認知症の人の気持ちと行動がわかる 第9回 『高齢者につけこむ詐欺や火の不始末。認知症の人が起こしやすいトラブルを未然に防ぐには』 より続く。 人が変わったようにイライラする 日常生活に支障が出てくると、本人の気持ちはささくれ立ち、怒りっぽくなってきます。まるで人柄が変わったようになることもあります。 以前は穏やかだった人が怒りっぽくなった、以前の性格がより際立ってきたなど、人柄の変わり方はさまざまです。 その背景には、自分の感情を表現できないいらだちや、自分自身をかたちづくってきた経験や知識の忘却による喪失感などが考えられます。 もの忘れが増えたり、判断能力が衰えたりすると、日常生活が格段に難しくなります。本人にしてみれば、これまでどおりにいろいろなことができなくなって「困った」と思っています。「なぜこんなふうになったんだ」「どうしてできないんだ」と憤りを感じ、どうしてもできないイライラが言動に現れるのです。 ●周囲の気づき ・怒鳴るようになった ・ようすがおかしい ・気遣いがなくなった ・失敗を人のせいにする ・がんこになった 認知症の人は一般常識が通用する「理性の世界」から遠ざかり、「感情が支配する世界」にすんでいるといえるでしょう。周囲にいる相手が敵か味方か、安心して気を許せる相手かどうかを本能的に判断し、友好的に接するか威嚇して遠ざけるかといった態度を決める、動物の世界に似ています。 認知症の人の感情は老いるどころか、むしろ以前より研ぎすまされているといえるでしょう。相手の「快」「不快」にも敏感だと考えられます。そのためには、良い感情を持ちつづけられる環境が望ましく、介護者をはじめ周囲の理解や協力が必要でしょう。 認知症への焦りと抑うつ、孤独感から自殺願望も 介護を受け、人に食事や排泄の世話までしてもらわなければならない自分の姿を、認知症の人は、あたりまえのことと受け止めているわけではありません。 人には自尊心や羞恥心があります。いくら自分ではできないこととはいえ、人前で裸にされたり、排泄物の世話まで任せたりすることは、赤ん坊ではない「いい大人」にとって、これほど恥ずかしく情けないことはありません。 認知症の人は、「なにもできない自分」を自覚しています。排泄の失敗もわかっています。「汚いからさわらないで」と言えることもあれば、始末をする家族の後ろで目に涙をためていることもあります。「また失敗してしまって、家族に申し訳ない」。日々、そんな思いをかかえながら、耐えがたい羞恥心と自尊心の痛みに必死で耐えて、介護を受けているのです。 認知症の人にとって、理想の自分と現実とのギャップは、言いようのない自分への怒りや悲しみの原因になっています。 認知症には新しいことから忘れていく特徴があり、昔の記憶ほど鮮明に思い出すことができます。いちばん生きがいを感じていた時代に戻ってしまうことが多く、男性の場合はもっともバリバリ働いていた現役時代、女性の場合は恋愛や子育てで、自分がもっとも輝いていた時代が多いようです。 老後も元気に働いている自分を思い描いていた人にとっては、過去の自分を思い出すのはつらいものです。「情けない」「こんなにバカになってしまった」と涙がこぼれます。 焦りと抑うつ、孤独感から自殺願望を抱くことがあります。先の見えない認知症との闘いに疲れ、苦しさから解放されたい思いも混じっています。「死にたい」と言われると、つい「なにを言ってるの」と受け流しがちですが、本人の「死にたいほど孤独だ」というSOSだと受け止めることが大切です。 「一緒に〇〇しようか」などと気をそらせたり、孤独感を払拭するような声がけをしたりするのもいいでしょう。また、自殺企図を止める薬物療法もあります。 見捨てられ妄想 認知症の症状のひとつに「見捨てられ妄想」があります。認知症の人は、失敗が多く「家族に迷惑をかけて申し訳ない」という気持ちがあるうえ、失敗をくり返す自分は「家族に見捨てられたら生きていけない」と不安を募らせます。 それが家族に見捨てられるという妄想を生み出すのです。認知症の人は、介護に熱心な家族や介護者に囲まれていても、「私を見捨てる相談をしている」「嫌われている」と思いこむことがあります。 見捨てられ妄想がこうじて、その気持ちを第三者に訴えることもあります。「家族がいじめる」「食事に毒が入っている」などの被害妄想は、本人と周囲の人の人間関係を混乱させます。本人が訴える内容は、明らかに事実とは違うことが大半ですが、本人にとっては深刻な現実です。 それに対して「バカなことを言うな!」などと否定すると、ますますかたくなな態度になりかねません。「この人も私をいやがっている」というネガティブな感情だけが残ってしまいます。 そんな認知症の人に対応するには、まず訴えをよく聞くこと。 本人の訴えの裏側にある「家族の一員として役立ちたい」「わかってほしい」「見捨てられたくない」という思いをしっかり受け止めましょう。 会話を増やすなど、本人の心の安定をはかることで、被害妄想は減っていきます。配膳などの簡単な家事をお願いして、家族や施設の一員としての役割をもってもらうのも、いいでしょう。 また、認知症の人の話をやんわり受け流すようにします。むきになって否定したり、怒ったりしないことが大切です。共感しながら話を聞き、介護者を攻撃することがあれば、話題を変えたり、一度その場を離れたりするとおちつく場合もあります。 周囲に説明しておくことも必要です。 認知症の人が、ありもしない事実を話すことを「作話」といいます。ところが、認知症の人は一見しっかりしているため、近所の人には作話だとわからないでしょう。 もし、近所に悪いうわさや誤解が広がってしまったら、その後の人間関係を悪くしないためにも、近所の人や親せき、ヘルパーさんなどには、本人の病状をきちんと説明しておくのがいちばんです。おちついて対処していけば、周囲の理解や協力が得られるようになり、いずれ誤解も自然にとけていくはずです。 『入浴やリハビリは面倒で嫌だけど、車の運転は続けたい。認知症の人にありがちな「困りごと」への対応』へ続く。 【つづきを読む】入浴やリハビリは面倒で嫌だけど、車の運転は続けたい。認知症の人にありがちな「困りごと」への対応

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