［戦後８０年　昭和百年］沖縄＜下＞ 　７１０人——。 　戦後、沖縄で爆発した不発弾で犠牲になった人の数だ。降り注いだ米軍の砲弾や爆弾は、日本本土（１６万トン）を上回る２０万トンに及び、なお約１９００トンが残る。すべて処理するのには、さらに数十年が必要だ。 血に染まり「お母さん」とうめく声 　ようやく戻った日常は、＜バーン＞という破裂音とともに暗転した。終戦翌年の１９４６年夏、石垣島の青空に響いていた子どもたちの歓声が悲鳴に変わった。当時小学３年だった田本徹さん（８７）（沖縄県石垣市）が恐る恐る目を開けると、わずか１０メートル先で土ぼこりが立ち上り、その中で級友が倒れていた。 　むき出しの不発弾にまたがり、無邪気にたたいて遊んでいたらしい。血に染まった小さな体で「お母さん」とうめく声が聞こえた。仲がよかった２人の男の子は死んだ。沖縄戦の日々を思い出し、心は乱れた。 　田本さんの三兄は少年兵部隊「鉄血勤皇隊」に動員されて戦死。母と妹は日本軍の命令で逃れた山中でマラリアに感染し、命を落とす。乳飲み子だった弟も母を追うように息を引き取った。自身も低空で迫る米軍機から機銃掃射を受けた。足元で＜パチパチパチ＞と弾がはじける音と、パイロットと目が合った記憶は鮮明だ。 　不発弾は今も人々の暮らしに影を落とす。昨夏、沖縄本島南部にオープンした会員制スーパー「コストコ」の工事現場からは、５発の不発弾が見つかり、開業が遅れた。 　今でも不発弾が発見されたというニュースを見るたびに田本さんはこう思う。「爆弾が完全になくなるまで、沖縄の戦争は終わっていない」 皮膚が焼ける音 　右頬と左目の下、そしてあごに残るやけどの痕は、多感な少年の心に深い傷を残した。 　７５年５月、小２だった知念正義（まさとも）さん（５７）（沖縄県南城市）は、「煙が上がっている。見に行こう」と友達に誘われ、海岸に行った。突然、爆発音と火柱にのみ込まれた。真っ赤に燃えた金属片が顔に張りつき、皮膚が焼ける「ジュッ」という音を聞いた。「痛い、痛い」と叫びながら用水路に顔を突っ込む。お気に入りの黄色のシャツは、蜂の巣のように穴だらけになった。 　知念さんは医師から「この傷は残る」と告げられた。鏡でケロイド状の痕を見るたびに涙があふれた。数回に及ぶ整形手術など治療に数百万円を要した。 　半世紀が過ぎて痕は薄れたが、心のうずきは消えない。「戦争は長い年月、人を苦しめる」。言葉には自然と力がこもる。 「悲惨な事故なくす」 　沖縄に全国初となる陸上自衛隊の不発弾処理隊ができたのは７４年だ。この年、那覇市で幼児ら４人が死亡、３４人が重軽傷を負う事故が起き、社会を震撼（しんかん）させた。 　「安心して暮らせる島をこの手で取り戻したい」。唯一の沖縄出身の隊員で、１０００回を超える処理経験を持つ大宜見朝也１曹（４６）の願いだ。 　激戦地だった本島南部の豊見城（とみぐすく）市で生まれた。高校の同級生の弟は不発弾の事故で片方の目を失明。「地元に貢献したい」と危険な任務に手を挙げた。 　手榴（しゅりゅう）弾から大型の爆弾まで。多いときは１日６回の緊急出動をこなす。現場に入るときの緊張感や恐怖心に慣れることはない。それでも「一発一発を安全に処理して、沖縄から悲惨な事故をなくす」と自らを奮い立たせる。