【DX推進による業務効率化】相模鉄道が運用を開始した「移動制約者ご案内業務支援サービス」のすごい実態

現在話題の「DX推進による業務効率化」は、鉄道業界でも進められている。鉄道現場を支える業務は、機械化が進んだ現在も人の力に頼る部分が多い。それゆえ、デジタル技術を活用して業務の効率化をさらに進める動きがある。 本年5月1日、それに関する一つの動きがあった。相模鉄道(以下、相鉄)が「移動制約者ご案内業務支援サービス」の運用を開始し、駅係員が持つスマートデバイスと、ホームドアのICタグを初めて連携させたのだ。 なぜこのような動きがあったのか。なぜ相鉄だったのか。それらの謎に迫ってみた。 車いすや白杖を使う人の乗降を介助するサービス まず、今回相鉄が導入した「移動制約者ご案内業務支援サービス」を説明しておこう。これは、車いすや白杖を使い、移動の際に社会の配慮が必要な人たち(以下、移動制約者)の列車への乗り降りを駅係員が助ける「乗降介助業務」を、デジタル技術を活用して効率化したものだ。開発には、日立製作所(以下、日立)が関わっている。 相鉄では、駅係員が持つスマートデバイスと、ホームドアのICタグを連携するシステムを、初めて導入した。移動制約者の乗車位置に関する情報を、乗車駅と降車駅の駅係員でより共有しやすくしたのがポイントだ。 相鉄のホームドアには、青いICタグが貼られている。これは、各乗降口の位置を識別するもので、近距離無線通信規格の1つであるNFCの非接触ICチップが埋め込まれている。駅係員がここにスマートデバイスをかざすと、その位置情報を読み取ることができる。 このICタグは、駅係員同士の情報共有に使われる。 乗車駅では、駅係員が移動制約者の乗車介助時に、スマートデバイスをICタグにかざす。すると、あらかじめ案内情報が登録されていない場合は、乗車位置が案内アプリに自動入力され、駅係員の入力を補助する。また、あらかじめ案内登録されている場合は、登録された乗車位置との正誤を判定し、誤乗車の防止に寄与する。 いっぽう降車駅では、駅係員が所定の位置に待機するときに、スマートデバイスをICタグにかざす。すると、登録されている待機位置の正誤を判定し、待機位置の誤りの防止に寄与する。これによって、スムーズな降車介助が可能になる。 なぜ、このようなICタグを導入したのか。日立に聞くと、駅係員のヒューマンエラー(人間の意図しないミス)によって、介助に要する時間が拡大するのを防ぐためだという。 ICタグが導入される前は、「乗降介助業務」がスムーズにできないことがあった。乗車駅の駅係員がスマートデバイスへの乗車位置の入力を誤り、降車駅に正しい情報が伝わらない、もしくは降車駅の駅係員が待機位置を誤ることがあったからだ。 もし、降車駅の駅係員が待機位置を誤ると、駅ホームで移動制約者を見つけるのに時間を要し、介助が遅れてしまう。大都市圏の鉄道では、列車の運行本数が多く、運転間隔が短いため、こうした介助の遅れが、列車の遅延やダイヤの乱れにつながってしまう。それゆえ、駅係員にとって「乗降介助業務」は、心理的・体力的な負担が大きい業務だった。 いっぽう、移動制約者にとっては、駅係員がスムーズに介助してくれると、安心して外出できるようになる。これが実現することは、移動制約者と鉄道事業者の双方にとって必要だった。 そこで相鉄では、ホームドアにICタグを設け、スマートデバイスと連携させた「移動制約者ご案内業務支援サービス」の運用を開始した。これによって、駅係員の乗車位置の情報伝達や、待機位置の確認が容易になり、移動制約者の「乗降介助業務」がスムーズにできるようになった。 相鉄で初導入したICタグ なお、スマートデバイスを用いた「移動制約者ご案内業務支援サービス」の提供は、相鉄が最初ではない。日立が開発した同サービスは、西武鉄道・小田急電鉄・九州旅客鉄道(JR九州)・京浜急行電鉄・京成電鉄・東日本旅客鉄道(JR東日本)・南海電気鉄道(以上、導入順)が先に導入している。ただし、同サービスをICタグとスマートデバイスを連携させて導入した鉄道事業者は、相鉄が最初である。 なぜ相鉄が国内初の事例になったのか。その問いに対して相鉄は、タイミングが重なったと言う。相鉄は、駅係員のヒューマンエラーによる伝達ミス等で、利用者が指定の電車から降車できないといった状況を防ぐことを検討していた。いっぽう日立は、ヒューマンエラーを防ぐためにICタグを活用した「移動制約者ご案内業務支援サービス」を開発し、同時期にその情報をリリースした。このため、相鉄がそれを導入するに至ったのだ。 なお、相鉄では2024年9月に、現在駅舎改良工事中の海老名駅を除く全駅でホームドア整備を完了した。ただし、相鉄によると、この出来事と「移動制約者ご案内業務支援サービス」の導入は別物で、直接的な関係はないだそうだ。 ホームドアがない駅でも導入可能 今回紹介した相鉄では、ホームドアの乗降口の横にICタグを設けた。駅係員がスマートデバイスをかざすうえでも、わかりやすい場所だ。 ところが国内には、ホームドアがない駅が多数存在する。たとえば東京都の鉄道におけるホームドア整備率は、都営地下鉄が100%、東京メトロが95%であるのに対して、JR東日本と私鉄(民鉄)では6割の駅にホームドアがない(東京都都市整備局「ホームドア整備の加速に向けた共同宣言」2025年2月10日付より)。 ホームドアがない駅にICタグを設け、「移動制約者ご案内業務支援サービス」を提供することは可能なのだろうか。日立に聞くと、可能だという。ホームの床面に貼るタイプのICタグをすでに用意しているので、ホームドアがない駅が存在する鉄道路線でも提供できるそうだ。 開発の背景にあった「Exアプローチ」 最後に、筆者が気になっていたことを日立に聞いてみた。「移動制約者ご案内業務支援サービス」が開発された背景についてだ。 2021年には、JR東日本が、「乗降介助業務」のための駅構内の放送を見直した。この放送は、乗務員や駅係員への情報伝達を目的としていた。しかし、障害者団体が「痴漢やストーカーの被害につながっている」として国に改善を求め、国土交通省が鉄道事業者に別の方法を検討するように促していた(同年9月7日付朝日新聞より)。 この出来事と、「移動制約者ご案内業務支援サービス」は、関係があるのだろうか? 日立に聞くと、「関係していない」との回答があった。「移動制約者ご案内業務支援サービス」の開発は、最初に導入した西武との協業をきっかけに始まったものであり、DX化の一環だったという。 この背景には、日立の「Exアプローチ」がある。これは、顧客とDXを推進する協創活動であり、デザインシンキング(デザイン思考)をベースとしている。デザインシンキングは、近年新しい価値の創造に有用な思考法の一つとして注目されている。 「移動制約者ご案内業務支援サービス」は、「Exアプローチ」の活用によって生まれた。西武は、デジタル技術の活用で、従来人手に頼っていた業務の効率化を図ろうとした。いっぽう日立は、西武と課題を共有し、「Exアプローチ」によって、システム化されていない鉄道業務を共同で分析した。その結果、「乗降介助業務」をシステム化することで高い効果が得られることが特定された。 以上のことから、日立が西武と共同で「乗降介助業務」をサポートするシステムを開発し、西武がそれを最初に導入したのだ。 より効率が高い鉄道運営の実現へ さて、今回紹介した相鉄の試みは、駅係員の業務の一部である「乗降介助業務」を効率化したものだ。その鍵がスマートデバイスとICタグの連携であることは、すでに述べた通りだ。 これは、鉄道全体で見れば、DXによる業務効率化の小さな一歩にすぎない。鉄道には、「乗降介助業務」以外の業務が多数存在するからだ。 ただし、今回紹介した工夫を積み重ねることで、鉄道全体の業務効率は徐々に上がる可能性がある。今後その動きがデジタル技術の活用によって加速し、より効率が高い鉄道運営が実現することを期待したい。 「渋谷」&「新横浜」に地殻変動を引き起こした「新横浜線開業」の巨大すぎるインパクト!

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