家族が認知症だと診断されてしまったら。まず心がけたい、本人の気持ちへの「寄り添い」

認知症の人の介護はトラブルが多く、一筋縄ではいかないものです。さまざまな問題をかかえこみ、経済的にも悩みがつきません。ときにはつらさのあまり、介護をギブアップしそうになるでしょう。 しかし、認知症の人がすんでいる世界を理解すれば、介護をしやすくなるかもしれません。認知症の人は私たちの常識の基準とは少しずれている世界に生きていますが、どんな行動にもその人なりの気持ちや考えがあります。ただ、気持ちをうまく言葉にできないだけです。そして、その気持ちを理解する手がかりはあるのです。 この連載では、 『認知症の人の気持ちと行動がわかる本』 (杉山孝博監修、講談社刊)のエッセンスから、認知症と介護について、正しい知識と情報についてお伝えしていきます。認知症の人の思いやじょうずな介護の方法、利用できる社会制度・サービスを知れば、介護がぐっと楽になるはずです。 今回は、認知症と診断された本人の気持ちに寄り添ってみましょう。 認知症の人の気持ちと行動がわかる 第7回 『最近、もの忘れがひどい……。でも大丈夫かも?認知症は早期に治療すれば治る可能性アリ』より続く。 認知症の方の「なぜ私が」という大きなショック 覚悟して受診したとはいえ、医師から「認知症です」と告知されると、本人も家族も相当なショックを受けます。「やはりそうだったのか」というあきらめに似た思いと、「なにかの間違いではないか」と否定したくなる思いが交錯します。ほかにも、以下のような状態になりやすいとされています。 ●パニックになる 「施設に入るかデイサービスを考えて」など複数のことを言われると混乱します。判断力が落ちているため、不安や恐怖から冷静に考えられず、パニックになる人もいます。 ●もっと知りたい 不安から、病気について知りたがります。自分の状態や今後の見通しについても、医師や周囲の人に説明を求めます。しかし、説明を聞いても理解力が落ちていて、説明がよくわからないこともあります。 ●よかったと思う人も 不安や恐怖で心がいっぱい、わけがわからない状態より、はっきりわかってよかったという感想は多くあります。病名がわかれば対処法もあるだろうという期待もあります。その一方で、今後の生活への新たな不安や恐怖がおしよせてきます。 ●受け止めるまでに時間がかかる 認知症の初期には、今後さらに認知症が進み、死ぬまで家族に迷惑をかけつづけるのではないかと、自分の状況を想像することはできます。しかし、病気を受け止め、それでも生きていこうという段階に至るまでには、まだ時間がかかるでしょう。 「どうしていいかわからない」 私たちは、ある程度先の見える将来への安心感があるからこそ、穏やかに暮らしていけます。しかし、認知症の人の場合、ほとんどの人が、安心感は消失し、不安や恐怖がふくらんでいくといいます。自分自身の脳が急速に衰え、記憶力・判断力・知能などが徐々に失われていくのが感じられるからです。 自分の病気だけではなく、家族に迷惑をかけて嫌われるかもしれないという不安もあります。時とともにできないことが多くなり、先の見えない焦りや恐怖にさいなまれます。自分が自分でなくなってしまう不安から、自分を見失わないために必死で闘いつづけているのです。症状が少しずつ進むつらさは、本人にとっては、非常に残酷な時間との闘いともいえるでしょう。 部屋で背中を丸めてじっとふさぎこんでいる人も、一見おちついている人も、心にかかえた不安や恐怖は同じ。口に出さないからといって、平気でいるわけではありません。「とんでもないことを起こしたらどうしよう」「これからどうなるんだろう」「私など忘れられてしまう」「私は遠いところへ行ってしまう」などと考えているのです。 認知症の人がもつ恐怖感はひと通りではありません。「自分がおかしくなるといやだな」という自分への恐怖。さらに「ひとりぼっちが怖い」という孤独に対する恐怖、また、「ひとりでいて知らない人が来たらどうしよう」という他人への恐怖などです。 また、「穏やかな性格だったのに、怒りっぽく、いつもイライラするようになった」など、認知症になると「性格が変わった」と周囲の人から言われることがあり、本人も「別の人間になってしまった」と感じています。もの盗られ妄想も、この一例といえます。記憶障害に不安や葛藤がからまり、周囲に理解されない不安が鬱積していることの現れです。 本音では「誰かに助けてほしい」 認知症になると、家族や周囲の支援がなければできないことが増えていきます。しかし、支援の手がほしくても、周囲に迷惑をかけたくない気持ちから、本人は「助けてほしい」となかなか素直に言えません。そう言うには、相当な心の葛藤があるようです。 人前で「わからない」「できない」と言うのは、勇気のいることです。家族や周囲の人から「そんなこともわからないの?」と思われることは、本人にとって、非常に大きな屈辱や羞恥にほかなりません。 また、他人に体を触られたり、人前で洋服を脱いだりすることへの抵抗感から、入浴や身だしなみのケアをいやがる人もいます。本人は、「こんな姿を人にはみせられない」「誰にも迷惑をかけたくない」「恥ずかしいので人に言えない」「外にはとても出られない」などと思っているのです。 しかし、本音では「誰かに助けてもらいたい」と思っています。その気持ちに配慮して、支援を強要するのではなく、「それならやってほしい」と本人が納得できる範囲のサポートから進めていくといいでしょう。 家族ではなく、「支援がお仕事の人なら」と抵抗なく受け入れてくれる場合もあります。公的機関や介護福祉施設、介護ヘルパーなど、あらゆる制度をじょうずに活用して、本人にも納得のいく支援が受けられるよう、支援先をみつけておきましょう。 【前回の記事を読む】最近、もの忘れがひどい……。でも大丈夫かも?認知症は早期に治療すれば治る可能性アリ

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