エスカレーターの「右側空け」は親切ではなく“自己保身”…なぜ日本人はわずかな「急ぐ人」のために道を譲るのか

日本人らしい配慮  エスカレーターの「右側空け」は社会問題化すべきではないだろうか。大阪では「左側空け」が一般的だが、いずれにせよ非効率過ぎる。 【画像】片側空けの非効率さがよくわかるゲーム「ギャラガ」のプレイ画像  電車からホームに降りてエスカレーターに乗る人々は「急ぐ人がいるでしょうからね」と左側に並ぶ。そうすると何が発生するかといえば、エスカレーター左側への大行列である。そして、右側はガラガラで、急ぎたい人は長蛇の列の最後尾から右側へ行く。だが、大多数は左側の列に並んでいるのだ。  これって相当ムダではなかろうか……。右側に行く人にしても、その多くは「うひゃー、こんな大行列に並びたくないから、右側をガシガシと歩くほうがマシだわ」と判断するわけで、決してすさまじく急いでいる人は限られるはずだ。あくまでも、左側の行列に並ぶのがアホらしいから右側に行き、そこで立ち止まると急ぎたい人の迷惑になったり、奇異の目で見られたりするから右側で歩く、という判断だ。 片側空けは日本独特の習慣の一つだ  これは極めて日本人らしい配慮なのだが、右側に立って後ろから歩きたい人が来たら迷惑だから私は左側に行く、という考えが根底にある。交通各社はエスカレーターの「片側開け」はやめてくれ、とむしろ注意を促しているのだが。 急ぎたい人は階段を  ともあれ、他人からの目を気にする日本人は、急いでいてエスカレーター右側を駆け上りたい人から「チッ」と舌打ちをされたり、さらに身体をぶつけられたり、挙句迷惑人扱いをされたくない、という思いから左側に並ぶ。いや、よく考えて欲しい。最も迷惑なのは、この舌打ち野郎である。都会では少し長いエスカレーターには50人ほどが片側に乗る。その右側を数名がガシガシと歩き、進んでいく。こんな非効率なことがあるだろうか。  結局左側に並ぶ人々は、この数名のために1分〜2分の左側行列を甘受しているのだ。正直、「エスカレーターは2列で立ち止まらなくては罰金」などという条例ができたらこのバカげた慣習はなくなると思う。何しろ数名の「ワシは忙しいんじゃ、ほらほら愚民ども、右側を開けろ! はぁっ? 右側に呑気に立っている奴がおるんか? お前は邪魔じゃ」と身体をぶつけてその脇を通過する人間にこれまで配慮してきたからこそ、このエスカレーターの大行列がなくならないのだ。  しかも、大抵の場合、エスカレーターの近くには階段があり、急ぎたい人はこの階段を速足で登ればいいだけである。「エスカレーターの右側は急ぎたい人に空けておくべきである」という思想を持った自分勝手な人のせいで大多数が不利益を被っているのである。お前らは一目散に階段を駆け上がれ! としか思えない。欧米では商業施設等で次に入る人にドアを開けてまってあげる、という文化があるが、これとは違う。 いたたまれない感覚  これはあくまでも「親切」であるが、日本のエスカレーター片側空けはあくまでも「舌打ちされたくない」「非常識な人だと思われたくない」という、親切心とは真逆の「自己保身」である。実際、あなたが右側にいたとして、その時同じタイミングでエスカレーターに乗っている人達は、あなたの人生になんの関わりもない赤の他人である。なので、悠然と立ち続けてもいいのだが、日本人はこの1〜2分程度のいたたまれない感覚を極度に嫌がるのだ。  だが、「右側に立つあなたが正しい」と言いたい。エスカレーター自体は、2人が立つことを前提に設計されており、左側だけに人が殺到し、右側を歩く人を優遇することにはなっていない。実際、左側だけに負荷がかかるとエスカレーター自体の劣化も早まることだろう。  この「左側だけに人が殺到して行列ができて非効率になる」ことを表すゲームがある。ナムコが1981年に発売した「ギャラガ」というシューティングゲームである。このゲームは宇宙からやってきた悪者を打ち落とすゲームなのだが、開始時点では、FIGHTERという機体が悪者に対峙する。 非常識に付き合うのはあまりにも非効率  敵側にはボス的なキャラがいるのだが、これがFIGHTERに対し超音波的なものを発して捕獲する。捕獲された場合、プレイヤーはその捕獲されたFIGHTERを救出するのだが、無事救出できた場合は、2機で悪者に対峙することができるのだ。  こうなると非常に快適にゲームをプレイできるようになる。それまで1機でチマチマと敵を倒していたのだが、2機が横並びに合体すると各段に相手を倒す効率が高まる。これはまさにエスカレーターの「片側空け」に通じるものなのだ。とにかく人をさばく面で、エスカレーターの片側空けは効率が悪過ぎる。 「舌打ちされるのがイヤだ」「急いでいる人のためになりたい」といった理由で人々は左側に行列を作るわけだが、そろそろ「右側を歩く非常識人に優しくしないでいいんじゃない」という風潮を作るべきではないだろうか。エスカレーターの片側空けはあまりにも非効率である。急ぎたい人は階段を走れ。 中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう) 1973(昭和48)年東京都生まれ、佐賀県唐津市在住のネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』『よくも言ってくれたよな』。最新刊は『過剰反応な人たち』(新潮新書)。 デイリー新潮編集部

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