「恨みを持ちながら生きていくことを娘は望んでいない」 飲酒運転による危険運転致死傷から1年 熊本

熊本市の県道で、熊本市職員の女性が、飲酒運転の男の車にはねられ死亡した事故からきのう6月15日で1年が経ちました。懲役12年を言い渡された男は一審判決を不服として控訴しています。 【写真を見る】「恨みを持ちながら生きていくことを娘は望んでいない」 飲酒運転による危険運転致死傷から1年 熊本 女性の遺族は、この1年、娘を失った悲しみに耐えながら「娘の分まで生きたい」と、少しずつ前を向き始めました。 被害者の母 章子さん「この1年間、娘の千尋からの連絡がもうこないと思うと、寂しさと悔しさと 千尋の分まで頑張ろうと、どうにか今まで1年間過ごしてきたけど本当に辛いの一言」 大分県在住の横田邦祐(くにひろ)さんと章子(しょうこ)さんは2024年6月15日、熊本市の県道で飲酒運転の車に はねられ亡くなった千尋(ちひろ)さんの両親です。千尋さんは当時27歳でした。 一周忌の法要には、友人や職場の同僚など多くの人が参列しました。  被害者の父 邦祐さん「一周忌なんですけどね あんなにたくさんの人がきてくれて。尊敬しますね 我が子ながら」 事故は、千尋さんの人生と彼女を思う家族の将来を一瞬にして奪いました。 父 邦祐さん「引っ張って行ってくれてた子がいなくなって、船の船頭さんがいなくなったみたいなもの」 母 章子さん「親子だけど友達のような関係で、しっかりして、優しくて、私の子どもにはもったいないくらいの気が利く子だった」 事故当日(2024年6月15日)事故現場で―― 米満 薫 記者「歩道に設置されている地上機器をなぎ倒して軽乗用車は歩道に突っ込んだとみられます」 去年6月15日午前4時16分ごろ、熊本市中央区細工町の県道で、友人の女性と信号待ちをしていた千尋さんは、当時ホストだった松本岳(まつもと・たける)被告(24)が運転する車に はねられ死亡しました。 これまでの取材や裁判によりますと、松本被告は事故の数時間前、熊本市の繁華街にあるホストクラブに車で出勤し、缶チューハイを5,6本飲み、その後、知人女性に会うため熊本市と隣接する宇城市の間を往復していました。 そして事故を起こす直前、松本被告は居眠り運転をしてトラックに追突します。その車は交際相手から借りたもので、飲酒運転の発覚を恐れ、後ろ向きに逃走したのです。 周辺の防犯カメラはその異様な運転を捉えていました。 一見すると巻き戻しのようにも見える映像です。 松本被告は、走ってきた道を時速70キロほどで、バックで逃げていたのです。そのまま約240m進みます。 ※裁判での証言などを基に再現した松本被告の車の動き をCGで説明 直線道路の奥から、後ろ向きに走ってくる車。このとき千尋さんは、交差点付近で友人の女性と信号待ちをしていました。まず、車は、千尋さんがいる歩道とは反対側の歩道に乗り上げます。そこから車は車道を横切り、千尋さんの方へ。変圧器にぶつかり、千尋さんをはねた車は、信号機の柱に衝突し停車しました。 千尋さんは車と柱の間に挟まれました。 大分に住む父・邦祐さんが警察から連絡を受けたのは、事故から約7時間後でした。 父 邦祐さん「電話を受けて、え?と思った。至急来てくださいと言われて、みんなで迎えに行った」 大分からすぐにかけつけた両親。警察署の霊安室で変わり果てた娘と対面しました。 父 邦祐さん「これがちーちゃん(千尋さん)なんかなって。ただ立ち尽くすってこういうことなのかなと」 母 章子さん「泣く時間もなく、亡くなって痛いとも言えないまま。悔しいです本当に」 松本被告は裁判で、当時の心境を語りました。 法廷での松本被告「ただ逃げなきゃとしか思っていなかった。目いっぱいアクセルを踏んだが速いという認識はなかった」 衝突の瞬間について問われると 法廷での松本被告「窓の外の景色が横に滑っていくように見えた。柱に衝突したのは分かったがなにに当たったかはわからなかった」 4日間行われた裁判。事故当時とは変わり、丸刈りに黒のスーツ姿で出廷した松本被告。裁判中、証言に立った父・邦祐さんと目を合わせることはありませんでした。 父・邦祐さん「本当は僕はどうなってもいいから殴りに行きたかった。でもそんなことしたら家族に迷惑がかかる それを抑えるのが大変だった」 松本被告は弁護人に促され、遺族に謝罪を述べました。 法廷での松本被告「自分の愚かな行為で尊い命を奪ったことを本当に申し訳ないと思っている。一生償いの人生を送ります」 松本被告は、遺族に宛てた手紙でも、何度も謝罪の言葉を並べていました。 松本被告の手紙から「今の私には謝ることしかできません。本当に申し訳ございませんでした。今の自分の最大の願いは、いつか外に出られたら横田様の御仏前で直接、謝罪したいということです。今回のことを一生忘れず謝罪と償いをしていきたと思っております」 松本被告に対し、熊本地裁が下した判決は、検察側の求刑通り懲役12年。判決の後、邦祐さんたちは事故現場に行き、裁判の結果を千尋さんに報告しました。 6月5日、松本被告は、判決を不服として福岡高裁に控訴しました。 父 邦祐さん「いろんなことから逃げて 逃げる判断をして千尋を巻き込んで 今度は判決からも逃げるのかなと」 「控訴は加害者の権利」それを理解していても松本被告への疑念、怒りがこみあげます。それでも 母 章子さん「外に出てめそめそして暗い顔してても千尋は喜ばないし、今までの自分でいようと思って」 父 邦祐さん「恨みを持ちながら生きていくことを望んでいないと思う。この子はそういう子なので。そんなやつ相手にするなってそれが彼女の思いかもしれない」 千尋さんの命日。千尋さんがあの事故にあわなければ今年28歳、千尋さんが好きだったというヒマワリを28本手向け、手を合わせました。 父 邦祐さん「暗くなってたら娘に怒られるから。頑張って、頑張って、頑張って生きていくしかない」 毎日、娘を思い、過ごした1年。自慢の娘から怒られないよう、耐えながら、少しずつ、少しずつ前へ。

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