今月13日、石破首相は、参議院選挙の自民党の公約に、物価高対策として、「給付」を盛り込む方針を表明しました。当初、給付には“後ろ向き”の姿勢を示していたという石破首相ですが、苦渋の判断の裏側を解説します。 ■石破首相は給付に後ろ向きだった 与野党各党が、参議院選挙の公約を相次いで発表する中、今月13日、自民党は、最大の争点となる物価高対策として「給付」を掲げる方針を決定しました。 自民党は今年4月にも給付を検討したものの、「ばらまき」批判を受け取り、やめた経緯があります。 今回の「給付」決定に至るまで、参議院議員の声を受けた党幹部らから、“分かりやすい物価高対策”として、「給付」を求める声があがる一方、首相周辺からは、石破首相自身が後ろ向きの姿勢を示しているとの声が—— 「首相は給付に乗り気ではない。ただ、何もないワケにはいかないので、渋々やっている」(首相側近)「首相は給付なんてやりたくない、と思っている」(自民党幹部) 総理の後ろ向きな姿勢は、方針決定の2日前に行われた党首討論でも、にじみ出ていました。 国民民主党の玉木代表が、「還元すべき税収があるなら、選挙前にばらまくのではなく、納税者に減税でお返しするのが筋」と述べたのに対し、石破首相は「税収が自民党与党のものだと思ったことは一度もない。そのような侮辱はやめていただきたい」と色をなして、反論する場面がありました。 この発言について、首相側近は、「玉木代表の発言にキレたのは、『ばらまき』と言われたのが嫌だったんだ」と指摘しました。 ■給付4案からみる石破首相の「こだわり」 その石破首相が、最終的に、給付を受け入れる上で、一点、強いこだわりを見せたといいます。 ある党幹部によりますと、石破首相がこだわったのは、「“一律の給付はダメ”」という点。さらに、森山幹事長は、「総裁が強く言われたのは『育ち盛りのこどもに十分な食事をとってもらいたい、との思いから、こどもへの加算を実施したい』ということだ」と明らかにしています。 給付の方針が表明される6時間前。自民党本部には、石破首相と党幹部4人が集まり、公約についての会議が開かれました。党幹部からは「4つの給付案」が示され、決定した方針からも、石破首相のこだわりがみえてきます。 示されたのは、以下の4つの給付案です。 1:一律2万円 2:一律2万円、こども1人あたり2万円加算 3:一律2万円、住民税非課税世帯に1人あたり2万円加算 4:一律2万円、こども1人あたり2万円加算、住民税非課税世帯に1人2万円加算 最終的に、石破首相は、4つ目の案、「一律2万円、こども1人あたり2万円加算、住民税非課税世帯に1人2万円加算」とする決断をしました。 この決断の理由について、首相周辺は、「首相は、野党が主張する消費減税は、高所得者が優遇される“逆進性”ゆえにダメという以上、給付は“こどもや低所得者に手厚く”という思いが強かった」と振り返ります。 決断ののち、石破首相は周辺に「バラマキというのは、哲学のないカネの使い方であり、哲学があれば、バラマキではなく、政策になる」と振り返ったといいます。 ■決断の背景に、公明党の存在も 首相の「給付」の決断には、公明党の存在も影響したといいます。ある党幹部は、「首相は当初、積極的ではなかったが、公明党とのこともある。自民党の考えだけ、というわけにもいかなかった」と明かしました。 自民党が方針決定する一週間前の今月6日。公明党は、物価高対策として、給付額を明記せず「生活応援給付」を盛り込んだ公約を発表していました。 この公明党の発表について、別の自民党幹部は「公明党が、税収の上振れでは対応できない“給付額”を言ってしまったら困る、との懸念があった」と振り返りました。石破首相自身が「給付をやる」と早く明言しないと、給付額を巡って、自公の手柄争いになりかねないリスクがあったというのです。 参院選で自公の連携が必須となる中、党幹部らが石破首相に対して“公明党への配慮の必要性”を説いたことで、方針決定に至った側面もありました。 ■欲しかった“わかりやすい目玉政策” そして、給付決断の最大の理由は、“分かりやすい目玉政策が必要”との党幹部らの強い訴えがあったからだとみられます。 ある党幹部は、「給付には、マイナス評価がつきもの。給付を掲げず、戦う手もあった。でも、街頭で端的に訴えることがないのは、しんどい」と振り返りました。 給付の方針が最終決定する直前、東京都議会選挙告示日の第一声のニュースを見たある党幹部は、「結局、こっちは何もタマがない」と述べたといいます。前哨戦となる都議選で、野党各党の物価高対策が“消費減税”と紹介されたのに対し、自民党は、端的な政策を示せていない、と問題視していたのです。 自民党は、参院選の公約で新たに「国や自治体による入札価格の価格転嫁」や「医療・介護など公的に定められた賃金の見直し」、「企業の従業員の食事補助など公的制度の見直し」など、様々な経済政策をパッケージで示す見通しですが、「給付」に舵を切った最大の理由は、街頭演説でも伝わる、分かりやすい政策が欲しかった…というのが“本音”として聞こえてきます。 参院選では、どの政党が、説得力をもって、有権者に効果的な政策を訴えられるかが、勝敗のカギを握ることになりそうです。