パ・リーグが大きく勝ち越した6月第3週のセ・パ交流戦。この週も、あらゆる場面で判断の分かれ目があった。注目ポイントとして挙げたいのが、若手の抜擢とベテランの起用だ。チーム状況によって判断が分かれるところだが、若手、ベテランそれぞれで活躍を見せた選手がいた。今回は、彼らにスポット当てて、話を進めていきたい。【西尾典文/野球ライター】 *** 【写真を見る】躍動する若手選手と、復活を見せたベテラン選手 若手捕手がレギュラー争いに食い込む まず、若手で抜群の存在感を示したのが、明徳義塾出身で高卒2年目の寺地隆成(ロッテ)だ。4月18日の楽天戦で、プロ1号を含む2本のホームランを放つと、その後は代打でも結果を残して5月以降はスタメン出場が増加し、正捕手に定着しつつある。 ロッテの正捕手に定着しつつある寺地隆成選手 今月に入ってから少し成績を落としていたが、6月10日の広島戦では3安打を放ってチームの勝利に貢献した。 さらに13日のヤクルト戦でも2回の第2打席で勝ち越しの2点タイムリーを放つと、逆転を許した4回の裏には同点に追いつくソロホームランをライトスタンドに運び、2安打3打点の活躍を見せた。 直近6試合中5試合でヒットを放ち、38安打、4本塁打、13打点はいずれもチームで3番目の数字となっている。正捕手の佐藤都志也が極度に不振に陥り、6月13日のヤクルト戦で右足甲に死球を受けて、登録抹消となっただけに、今後も寺地がスタメンで起用される可能性は高い。現在の状態を維持することができれば、新人王争いに絡んできそうだ。 寺地と同じ捕手では、日本生命を経て入団したルーキーの石伊雄太(中日)の活躍も目立った。開幕直後から積極的に起用されながら、プロの投手に苦戦して5月8日に登録を抹消された。しかし、故障で離脱した木下拓哉に代わって31日には再昇格を果たすと、6月11日の楽天戦では5打数5安打の大当たり。チームの勝利に大きな役割を果たしている。 その後の4試合でも3試合にスタメン起用されていずれもヒットを放ち、課題だった打撃面で着実な成長ぶりを見せている。守備面でも11日の楽天戦で悪送球から失点を許すなどミスはあったものの、その強肩はチーム内で際立っており、貢献度は高い。木下の離脱はチームにとっては痛手だが、石伊にとっては大きなチャンス。このまま一気に正捕手定着を目指したい。 巨人の「若手育成」への意識が垣間見えた その他のチームでは、巨人で若手の抜擢が目立った。11日のソフトバンク戦では、中央大出身の大卒2年目、西舘勇陽が今季初先発。6回まで相手打線をわずか3安打に抑え込み、最終的にも7回を3失点と試合を作り、今季初勝利をマークした。 ルーキーイヤーの昨年は、開幕から10試合連続ホールドをマークするなど28試合に登板して20ホールド、1セーブという好成績を残した一方で、ドラフト1位で入団したこともあって、先発として育てるべきという声も多かった。 今年も4月は中継ぎで起用されていたが、二軍では先発で起用されて安定した投球を見せていた。一軍で結果を残したことで、先発定着に向けて大きな一歩となった。 また、結果は出なかったものの、三塚琉生の抜擢だ。2022年の育成ドラフト6位で、桐生第一から入団した三塚。3年目の今年は二軍で3割を大きく超える打率を残して、6月13日に支配下に昇格した。 6月14日のオリックス戦では、いきなり8番、指名打者で一軍初出場を果たしたのだ。パ・リーグを代表する左腕の宮城大弥を相手に3打席連続三振に倒れ、4打数ノーヒットに終わった。しかしながら、翌日のオリックス戦でも代打で起用されており、首脳陣の期待の高さがうかがえた。何とかチャンスをモノにして、一軍定着を目指したい。 若手の抜擢か、安定のベテラン起用か 一方、ベテランの活躍も光った。防御率4点台後半に沈んでいた岸孝之(楽天)は、6月12日の中日戦で7回を投げて、被安打3、無失点の好投で今季3勝目をマークした。40歳の大ベテランは、昨年まで4年連続でシーズン120イニング以上に登板している。今年も順調に投球回を重ねており、今後も先発の一角としてかかる期待は大きい。 野手では、35歳の田中広輔(広島)と39歳の大島洋平(中日)がまだまだ力があるところを示している。 田中は開幕から二軍暮らしが続いていたが、結果を残して6月7日に一軍に今季初昇格。今シーズン初先発となった12日のロッテ戦ではヒットと四球で2度出塁すると、翌日の日本ハム戦では3方向にきれいに打ち分けて3安打をマーク。サードの守備でも安定したプレーを見せており、まだまだチームの戦力となることを証明した。 大島も今年は代打での出場が多く、4月11日には登録を抹消されたが、5月6日には一軍に復帰。6月に入ってからは出場機会を増やし、10日以降にスタメンで出場した5試合中4試合でヒットを放つと、11日の楽天戦では今シーズン3個目の盗塁を決めた。今シーズンはここまで13安打を放っており、昨年の23安打を早々に上回りそうだ。 チームの将来を考えて若手を抜擢するのか、直近の勝利を優先してベテランの力に頼るのか難しい判断となるが、どちらの場合も選手に与えられるチャンスが有限だ。そういう意味で、6月第3週はアピールに成功した選手が多かった。残りのシーズンも限られた機会で、誰がチャンスをつかんで生き残るのか。 西尾典文(にしお・のりふみ) 野球ライター。愛知県出身。1979年生まれ。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行う。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。 デイリー新潮編集部