信用調査会社のレポート増加 政府の備蓄米が市場に出回り、5キロ2,000円前後での販売が始まったものの、コメ価格の動向はいまだに不透明だ。「東京商工リサーチ」や「帝国データバンク」といった信用調査会社でも、今年度からコメ問題に関するレポートがいくつか発信されるようになった。そこから見えてくる実相は……。 *** 【写真を見る】スタッフの耳打ちを華麗にスルーして… 我が物顔でドンキ闊歩のコメ視察「小泉農水相」 東京商工リサーチは5月4日、2024年のコメ農家(米作農業)の倒産と休廃業・解散が、統計を開始した2013年以降で最多の89件に達したと発表した。2022年の57件から2023年には83件と急増して過去最多を更新したが、2024年はそれをさらに上回ったのだ。 相次ぐ「コメ」レポート。そこから見えてくるものは… 同社は〈コメ不足で生産農家が苦境に陥る異常事態〉と指摘。〈不安定な価格推移や生産コストの上昇を早く止めないと、後継者問題が深刻なコメ農家の倒産や休廃業を後押しすることも危惧される〉としている。コロナ禍での飲食店休業などによって需要が減退して価格が下落傾向だったのに、今回は「コメ不足」報道が買い占めを呼び、需給バランスが崩れた。不作と在庫不足によって、価格高騰へとつながった。 米穀店の休廃業・解散も2年連続で増加 一方、帝国データバンクは2024年度(2024年4月〜2025年3月)までの米穀店の休廃業・解散が88件に達し、コロナ禍以降では最多を更新したと4月6日に発表した。コメ不足で仕入れ量が確保できなかったほか、大幅な価格高騰や価格引き上げの難しさが影響して業績が悪化した米屋が目立ったと解説し、経営者の高齢化なども影響し〈2025年度も閉店・廃業や倒産が増加する可能性が高い〉と指摘している。 従前、コメ販売の自由化で大手スーパーとの販売競争が激化したことで苦境にあった米屋だが、近年は全国的なコメ不足によって仕入れ量が確保できず、また高騰する仕入価格を販売価格に転嫁できないまま、休業や廃業が相次ぐ事態に陥っている。 在庫を高値で売り抜けた店も一時的には売上が伸びたが、新米の仕入れコストが想定以上に上がり、収益力は大幅に低下。2024年度の米屋の損益状況では、25.2%が前年度から減益、22.4%が赤字に転落、合計で約半数の47.6%が業績悪化に直面している。「売るコメがない」という状況は、米屋の休廃業・解散に拍車をかけている状況だ。 弁当製造業やカレー店にも苦境が 影響はコメを作る農家や販売する米屋にとどまらず、コメを使って商売をする事業者にも広がっている。 東京商工リサーチが全国の主な弁当製造業227社の売上高を調べたところ、2022年に8,425億円だった売上は2024年には9,386億円まで伸びた。ところが利益は2022年の90億8,300万円、2023年の106億8,600万円から、2024年には72億5,400万円へと大きく減少。価格転嫁の値上げや弁当など高付加価値商品の開発など企業努力を続けているものの、〈コメなど食材価格の高騰や製造コストの上昇は値上げ分を上回っているようだ〉と東京商工リサーチは指摘する。 都心などでは店内ランチが1,000円超えも珍しくない今、弁当は「割安感」が売りだった。だが、駅弁などを除けば「900円の壁」が一つのボーダーとされる、そこを超えられるかが課題に。この壁について東京商工リサーチは〈度重なる値上げにより、(割安感による人気の)傾向が限界を迎えているかもしれない〉としている。 帝国データバンクが注目したのはカレー店だ。2024年度のインド料理店などを含むカレー店の倒産(負債1,000万円以上)は13件と、前年度の12件に引き続く高水準で、過去最多を更新した6月5日に発表した。〈個人営業など小規模店の廃業や閉店を含めると、実際にはさらに多くのカレー店が市場から撤退したとみられる〉としている。 もちろん、コロナ禍以降のデリバリーやテイクアウト需要が落ち着き、他業態との競争が再燃したことも要因に挙げられるが、〈これまで安定的に安値で入手できたコメ価格が急上昇するなど、原材料高〉が中小カレー店に大きな影響を及ぼしたという。 家庭で調理する際に必要な原材料や光熱費などの価格を基に、食卓に与える影響を可視化した同社の「カレーライス物価」によれば、2024年度は1食あたり365円となり、過去10年で最高を記録。なかでもライスの価格は、前年度の90円から131円へと急騰し、値上がり分の約4分の3をコメが占めていた。 パン屋の倒産は減少 コメ高騰に苦難する業界が多い一方で、パン屋の倒産が急減したことが東京商工リサーチの調べで分かった。今年1〜4月の倒産は7件で、前年同期の13件からほぼ半減。もともと高級パンブームの終焉や小麦粉価格の上昇で苦戦していたが、〈高騰するコメから、家計防衛のためパン需要が盛り返した可能性もある〉(5月11日)と分析している。 高級パン人気の沈静化に加え、小麦価格や光熱費の上昇も重なり、2024年の倒産は31件と過去20年で2番目の多さとなったが、コメの高騰を受けて状況は一変したという。東京商工リサーチは〈政府備蓄米の放出はあるが、しばらくコメ価格が元に戻ることは期待できず、パン屋のチャンスは続く〉とみている。 デイリー新潮編集部