《岩手・現役町長VS業者》事業者は「訴訟は不当」と訴訟合戦に…!「復興のシンボル」と呼ばれた「太陽光事業」の今

未来のエネルギーと称され、地方を中心に広がりを見せた太陽光事業。なかでも東日本大震災の被害が甚大だった東北エリアでは各地にメガソーラーが設置され、復興のシンボルと謳われている。一方、現場では地元住民と業者の間でトラブルが多発。昨年3月、総務省が行った太陽光発電導入の実態調査では実に4割を超える自治体で問題が起こっていることが明らかになった。 なかでも岩手県紫波町は現役の町長が地元岩手の太陽光事業者F社を提訴。さらにF社も反訴を繰り出す異例の展開へと発展している。 電力買い取りという国をあげての太陽光プロジェクトが始まって10年あまり。その鉄火場となった地方都市で今、一体何が起こっているのか。 前編記事『《岩手・現役町長が業者を提訴》「土地を戻して欲しい…」全国各地でトラブルが多発…!地方都市を襲う「太陽光パネル事業」の実態を追う』につづき、その実態を追った。 法廷闘争は異例の展開へ…! 岩手県紫波町の熊谷泉町長(76歳)が地元の太陽光事業者を相手取り、提訴したのは今年3月のことだった。 「今回、町長が求めているのは土地の賃借に関する契約解除。約束では20年期間で賃借契約となっていましたが、営農がきちんと行われていなかった以上、太陽光パネルをすべて撤去、また土地を原状回復したうえで土地を明け渡してもらう訴えになります」(紫波町関係者) 入手した訴状に書かれていたのは… 現代ビジネスが入手した訴状には、契約時に交わされた「前提条項」として次のように記されている。 〈F社が熊谷氏の承諾なく土地の用法または使用目的を変更したとき、または熊谷氏との信頼関係を著しく害する行為があった際は、熊谷氏はF社に何ら通知勧告を要することなく、賃借契約を解除できる〉 そのうえで、訴状では現状についてこう指摘されている。 〈原告(熊谷氏)の承諾を得ることなく、まもなく営農を放棄し、現在に至るまで全く営農を行わず、太陽光発電事業のみを実施している〉 〈被告(F社)が本件土地上で営農を一切していないため、現時点において、本件土地には雑草等が繁茂しており、本件土地のうちの農地については非農地化した状態となってしまった〉 この非農地化が条項に当たるとして契約解除を求めた。だが、これに返す刀を繰り出したのがF社だった。町長の提訴から1ヵ月あまり経過した今年4月、反訴状を突き付け、法廷闘争はお互い一歩も引かない泥沼の様相を呈していく。 業者が突き付けた反訴状の「中身」 F社の反訴状には農業担当であったO社が令和5年頃から経営状況が悪化から事実上業務が停止し、営農が行われていないことは認めたものの、経緯についてはこう言葉を返している。反論内容は概ね次のような内容だ。 ・営農が適切になされているかという点について反訴原告(F社)は紫波町農業委員会や経済産業省の担当者などと協議を行ってきた。各所から『営農が行われていない状況は望ましくない』との指摘を受けながらも状況が速やかに改善されるのであれば事業の一時停止などの処分には至らないであろうとの回答を得ていた。 ・そこでF社は営農の認定を得ている別会社に営農を行うよう依頼することとし、営農者の名義を変更し、体制を整えた。熊谷氏にもその旨について電話で説明し、承諾を得ていた。 ・しかし、熊谷氏は一転して営農については「知り合いの業者に一任している」と説明し、実質的な話し合いを拒否するようになった。F社としては熊谷氏のなかで何らかの誤解が生じていると感じ、その原因と考えられる知人業者は信用できず、また協議はまとまらないと考え、熊谷氏との直接交渉を行う必要があると判断した。 ・昨年10月に経緯を説明した書面を熊谷氏に送付。翌月には農業委員会を通じて熊谷氏との協議を行いたい旨を伝えたが、町長は「少し考える時間が欲しい」との連絡があり、実現はできなかった。 さらに町長が訴える契約解除の理由については、農地法の定義から町長の土地が非農地には該当しないこと、またすでに2027年までの賃料を町長に支払い済みであり、営農に関してもF社は対策を講じ、熊谷氏からも承諾を得ていたと説明。それを踏まえ、信頼関係が棄損されてはいないと契約の続行を求めた。 業者は取材に対して… お互いの主張が平行線を辿る法廷闘争にF社はどう思うのか。現代ビジネスが取材を申し込むと訴訟劇を認めたうえで以下の回答があった。 ——熊谷町長の提訴についてどのように受け止めていますか。 「この度の民事訴訟の提訴については大変不当なものであり遺憾に思います」 ——民事裁判でどのような主張を行っていくのでしょうか。 「上記のとおり大変不当な請求であると考えておりますので、司法の場で認められるように全力で当社の立場やこれまでの経緯などを主張していく所存です」 一方、改めて紫波町に町長の裁判について尋ねると「町長個人のことであることから、把握しておりません」との返答があった。また地元の農業委員会は当該の農地活用の経緯にについて「個別の内容についてはお答えできない」と答えた。 双方が提訴しあう異例の展開となった今回の太陽光事業トラブル。紫波町関係者はこう語る。 「そもそも農地活用がまともに行われていないにもかかわらず、許可を出していた農業委員会に疑問を感じます。太陽光発電事業を推し進める町長の土地だからこそ、運営にはより厳しい目を向けるべきではなかったか。町長だからこそ大事にしたくない忖度が働いたのではないかと言われても仕方がない対応です。加えて太陽光発電ビジネスで事業者に支払われる売電量の原資は再エネ賦課金といわれるもので、これは国民や企業の電気代に自動的に上乗せされている、いわば『電気の税金』です。決して電力会社が直接的に支払っている報酬ではありません。だからこそ太陽光発電事業には国、自治体、農業委員会などが細心の注意を払わなければならないし、事業者側も事実上の国民の血税をもらっていることを肝に銘じなければならないと思います」 復興のシンボルと位置付けられ、急速な拡大を見せた再生可能エネルギー業界。その副作用が今、日本各地でくすぶり始めている。 【最初から読む】《岩手・現役町長が業者を提訴》「土地を戻して欲しい…」全国各地でトラブルが多発…!地方都市を襲う「太陽光パネル事業」の実態を追う

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