37年間、書くことで生きてきたーー批評家の佐々木敦さんが、「書ける自分」になるための理論と実践を説き明かす『「書くこと」の哲学 ことばの再履修』(講談社現代新書/6月19日発売)。本記事では同書の冒頭「本書について」を発売に先行して公開します。 書くためのマインドセット 本書は「書くこと」について、従来とは少し異なる観点から、あれこれ考え(直し)てみることを提案する本です。二部構成の全16回の講義と3つの補講(最後の補講はあとがきを兼ねています)によって、ことばを書く/ことばで書くという行為を、ほぼゼロの状態から、あらためて問い直していきます。 まず第一部では、私たちが普段から使用しており、私も今こうして使っている「ことば(言語)」という道具にかんして、そのあり方と使用法をやや理論的に(といっても予備知識が要るようなものではありません)考えてみます。言語表現とは何なのか? 私たちはことばを用いて何をしているのか? ことばには何ができるのか? (何ができないのか?)といったことを、常識や観念にとらわれない仕方で、さまざまな角度から問うていきます。 続く第二部は、いわば実践編です。書き出す前の準備から、書き出し、書き継ぎ、書き続けて、書き終えるまでのワークフローを、各段階ごとに分けて論じていきます。何かを「書くこと」にかんする、かなり具体的な、でもやはり色々な意味で一般的なそれとは少々異なった考え方に基づくレクチャーです。 「少し異なる」「少々異なった」と書きましたが、ひょっとしたら少しでも少々でもなく、だいぶ、或(ある)いは、かなり、かもしれません。詳しくは本文に譲りますが、本書は「書くこと」のレッスン、書けるようになるためのメソッドやテクニックを指南するものではありません。上手な文章、伝わる文章を教える本ともかなり違います。そういう側面もありますが、この本の目的は、いうなれば書くためのマインドセットの再構築です。 書きたいのに書けない、書かなければならないのに筆が進まない、書いていてもつまらない、書いたけどダメな気がしてしまう、などなど、誰もが陥りがちな(私もたびたび陥ってきた)困った事態から抜け出すためには、たとえばこんな風に考えてみてはどうですか、というさまざまなアイデアを提示する、書く技術よりも前に、書ける状態に自分を変成させるための思考法を伝授する、だからマインドセットなのです。 断っておきますが、これはけっして精神論ではありません。一種の「自己啓発」とは言えるかもしれませんが、為せば成る、ではなく、いつのまにか成している、というか。本書に登場する、いささか変わった、もしかしたら突飛でさえあるかもしれない種々の考え方をインストールすることによって、ふと気が付いてみると、なぜだか「書ける自分」に変わっている。この意味では、書くためのマインドハックと呼んでもいいかもしれません。 「書くこと」は、考えること、思考することと深く結びついています。私たちは何かを書くとき、考えながら書き、書きながら考えている。この意味で「書くこと」には「哲学」が宿っています。本書のタイトルのゆえんです。 これはイントロダクションなので強気に出ておきましょう。私には長年の経験に根ざした自信があります。本書を読み終えたとき、あなたは必ず、以前よりも「書ける」ようになっています。 では、ページを捲ってみてください。 * 本記事の抜粋元、佐々木敦『「書くこと」の哲学 ことばの再履修』(講談社現代新書)は、読み終えると、なぜか「書ける自分」に変わっている!ーーそんな不思議な即効性のある、常識破りな本です。ご期待ください。 書くことは考えることーー あなたはなぜ「書けない」のか? 「現役の研究者」としては錆びついていないか? 「メディアの中の科学者」が発信する情報の信頼度はこうしてチェックする