【この先、島の憲法あり】掟が厳しすぎて島民はただひとり「長崎県・時間厳守の島」に潜入、 元島民たちは「住むところではない」と視線を伏せて…

忙しない日常と煩わしい人間関係から離れて、ひとり離島に暮らす男がいる。その島に来てもう13年になるというから驚きだ。なぜそんな生活をしているのか、そもそもどうやって生きているのか。男に会いに行ってみた。 「時間厳守の島」 極東の島国と言われる日本列島は、多くの島によって構成されている。無人島の数は無数にあるが、住民登録がたった一人の有人島となると数えるほどしかない。人の姿の全くない生活。たった一人の島暮らしとは、どういったものなのか。食料は? 水は? 生活費は? 肉体的にも情緒的にも人間関係が絶たれた状況で、果たして人は生き続けられるのか。 長崎県小値賀町「六島」は五島列島の北部に位置する面積0.69平方キロメートル、周囲3.1キロメートルの小さな島。令和2年度には住民登録数がわずか一人になったが昭和30年代には300名近くの島民が暮らしていた。 かつては港近くの集落から島の頂上に向かって段々畑や水田が広がり、サツマイモや裸麦や稲が栽培され、豊かな海から得られる海産物などで人々は生計を立てていた。江戸時代末期から明治期にかけては西海捕鯨の中継基地としても栄えたが、鯨の数の減少や捕鯨基地の廃止により捕鯨そのものが衰退していった。元島民の男性は、「島の形が鯨に似ていることからクジラ島という愛称で呼ばれていたんだ」と語る。 戦後、日本列島が高度経済成長に沸く中、教育や就職で島を出た子供たちは帰島しなくなり、六島には老夫婦のみが取り残される形となり、体力の限界になるに従い娘や息子たちに引かれて多くの島民が島を後にした。 六島を特徴付けているものとして、「時間厳守の島」「投票率100%の島」というフレーズがある。島の周囲は潮流が激しく6時間ごとに逆流する。明治の頃、出港時間遅れた船が転覆し犠牲者を出す惨事があった。以降、時間を守ることが島民の掟となる。投票日には島内の有権者全員が投票することも厳格に守られていた。 島民が守っていたのは時間や投票ばかりではない。厳しい環境の中、限られた資源を守り生活を永続させていくために日々の労働や結婚など生活の細かなところまで「六島憲法」と呼ばれた規則が島民に課せられていた。すべては厳しい環境下で島民が生存をするためであったが、時代に合わぬ掟は形骸化していき、さらに度重なる台風の直撃なども重なり、島民の姿は一人また一人と消えていった。 六島出身の島民に尋ねると… 六島へ行くには、まず佐世保港から高速船に乗り、五島列島北部に位置する小値賀島へ向かう。人口2000人ほどの小値賀島は、釣り人にとっては知る人ぞ知る憧れの場所。年間を通じてバラエティに富んだ魚が釣れる。高低差のある地形。米作りや和牛飼育やミニトマト、メロンの温室栽培、ブロッコリーの露地栽培が盛んである。島内のあちこちで、放牧された牛や植え付けられたばかりの幼い苗が風に揺れている。 港近くの宿には、離島好きが集まる民宿の壁面にはテレビ局やタレントなどの色紙が飾られていた。総理になる前の岸田文雄の色紙に並んでプロレスラー長州力のものも確認できた。 レンタサイクルで役場へ向かい、六島について聞くと、役場の職員は得体の知れない人間に対しても仕事の手を止めて挨拶をしてくれる。何を聞いても親切ではあるが、誰一人として六島のことに精通していない。唯一、郷土史を学んでいる職員が知っているかも知れないとのことだったが不在で、無駄足に終わった。 役所を出て自転車にまたがり、草木が繁茂し、入り組んだ小道の連なる集落内を走る。積み上げられた石垣の上で、鮮やかな色彩の小鳥が囀っている。曇天だが、肌に触れる潮風は爽やかだ。人通りの少ない小道の真ん中に身を横たえた猫は、こちらの存在に気がついても一切逃げず、闖入者に対し妥協を許さない厳しい視線を向けてくる。 猫と違って人懐こいのは住民たちだった。自転車で通り過ぎる際にも見知らぬ私に声をかけてくれる。立ち止まり、話し始めると、たちまち素性や目的など自然にこちらの情報を引き出される。「結婚してるのか」「仕事は」「何しにきたの」「名前は」「どこに泊まってる」「知り合いいるの」と、躊躇なくズバスバと、それも笑顔で質問が飛ぶ。 東京から来たと伝えると、「最近、東京はどんな塩梅なのか」「やはり栄えてるの」と、答えに困る質問をする男性がいた。今夜の食事の相談をすると、まるで自分のことのように悩んで、あちこちの友人に連絡をしてくれる女性がいた。全ての島民を肯定するわけではないが、こちらが意図しない雑談が心地よい。この島では、人と人との心の距離が近く、まるで我が事のように世話を焼いてくれる。 ところが、「六島にいく」と伝えると、なぜだか多くの島民たちは頭を傾げた。中には笑う人もいた。両親が六島出身者の島民もいたが、本人は子供の頃に行った記憶があるがよく知らないと答える。六島出身の島民にどうして人が減ったのか尋ねる。「いいところだが、どんどん人がいなくなって、住むところではなくなった」と視線を伏せた。わずかの距離にも関わらず遠い島……、そんな印象を強く受けた。 島に到着すると…… 翌朝、折からの悪天候の中、小型の町営船「はまゆう」が約四キロ沖合に浮かぶ六島に向けて出航した。海上には白波が立ち、速度を上げた小さな船体は弾むように前進する。何度も身体が浮き不安になるが他の乗客たちはスマホをいじったり、居眠りをしている。 「はまゆう」の目的地は野崎島。現在は無人島である野崎島には世界文化遺産の潜伏キリシタン関連遺産に登録された野首天主堂があり、その補修工事の技術者達だった。20分後エンジン音が静かになり船体の揺れが収まると、視界の効かない中、六島の波止場が目前に現れた。 下船する乗客は他にいない。視界の悪い雨降りの中タラップを降りると、傘もささずに一人の男性が立ち、こちらをじっと見つめている。小金丸梅夫さんその人だった。 見渡すと、波止場には乗り捨てられ蔦の絡みついた軽トラが一台ポツンとまるでオブジェのように置かれている。港には小型のヨットや漁船が停泊し、中には長期間動かされず放置されたまま船体を傾けたままの船も散見できた。 挨拶もそこそこに小金丸さんの軽トラに乗車し、車一台がやっとの細い急坂をエンジン音を唸らせてゆっくり登っていく。季節柄、草木が繁茂し車体は青草のトンネルを抜けるようにして公民館前に辿り着いた。平屋建ての公民館内は長机が中央に、炊飯器や食器棚、テレビなどが置かれている。小金丸さんの友人などが来た際に使用されたのだろう、鍋や紙皿、調味料の類も雑然と積み上げられていた。 【つづきを読む】『【住民たったひとりの島に潜入】「ロビンソン・クルーソーに憧れて…」離島で13年間孤独に暮らす男の「意外すぎる経歴」』 【住民たったひとりの島に潜入】「ロビンソン・クルーソーに憧れて…」離島で13年間孤独に暮らす男の「意外すぎる経歴」

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