「過半数の大人は新聞記事が読めない…」有名数学者・新井紀子氏が語る日本人の《シン読解力崩壊の驚くべき実態》

企業の現場で「業務マニュアルが読めない」「メールの内容が理解できない」といった驚くべき事例が報告されている。 「文章を正確に理解する力=論理的読解力」を測定するためのリーディングスキルテスト通じて明らかになったのは、想像以上に多くの社会人が“読めていない”という現実だった。 なぜこうした事態が起きているのか。 2017年にリーディングスキルテストを開発した国立情報学研究所社会共有知研究センターのセンター長・教授である新井紀子氏に詳しい話を聞いた。 「シン読解力」とは何か 新井氏が開発したRST(リーディングスキルテスト)とは、「教科書や辞書、新聞などで使われる『知識や情報を伝達する目的で書かれた自己完結的な文書』を読み解く力を測定・診断するツール」のこと。 新井氏は、この読み解く力を「シン読解力」と定義。国語の現代文のテストで問われる文学作品の行間を読む力や登場人物の気持ちを理解するといった従来の読解力とは区別している。 RSTは、オンラインでの50分のテスト。内容は以下の全7パターンの問題群から出題される。 1.  係り受け解析(文の基本構造を把握する力) 2.  照応解決(代名詞などが指す内容を認識する力) 3.  同義文判定(2つの文の意味が同一かどうかを判定する力) 4.  推論(論理的に推論する力) 5.  イメージ同定(文と図表などの非言語情報を正しく対応させる力) 6.  具体例同定(辞書の定義を用いて新しい語彙とその用法を獲得させる力と、理数的な定義を理解し、その用法を獲得する力) 「業務マニュアルが読めない人なんて、本当にいるのか?」と疑っている人もいるかもしれない。 その例となる「係り受け解析」の問題を紹介する(出典は2023年1月17日の日本経済新聞)。 Q 次の文を読みなさい。 ガソリン車からEVへの大転換「EVシフト」は、自動車部品の製造に欠かせない工作機械にとって、EV部品の増産に向けた設備投資や、新たな加工に対応するための機械更新といった大きな需要が期待できる機会だ。 この文脈において、次の文中の空欄にあてはまる最も適当なものを選択肢のうちからひとつ選びなさい。 大きな需要を期待できるのは(  )である。 �EVシフト �工作機械 �EV部品の増産 �設備投資 過半数以上の大人は新聞記事が読めない 正解は�工作機械。 「EVシフトは、工作機械にとって大きな需要を期待できる機会」と書かれているためだ。 最も多かった解答は�EVシフト。冒頭の主語に引っ張られて、「EVシフトに対する大きな需要が期待できる」と誤読してしまったことが要因として考えられる。 新井氏によると、中学生の正答率は6.6%、高校生は20.0%に対して、大人の正答率は24.4%。大人のほうが高かったとはいえ、大人の中で最も能力値が高い層でも正答率が5割に達しなかったという。 「みんな読めている」という感覚そのものが幻想にすぎないと、新井氏は指摘する。 「企業でのテスト結果を見ると、部署内では「問題なく読めているだろう」とされている人が、実際には中学教科書レベルの文章すら理解できていないことがよくあります。読解力には大きな個人差があり、その差が会社内で可視化されていないのが問題です」 読み飛ばしではなく、本当に読めていない コロナ禍以降に普及したオンライン会議でも、支給されたマニュアルを読まず「画面共有のやり方がわからない」と質問する社員が、あなたの会社でもいなかっただろうか。 「単なる読み飛ばしや不注意では?」と思う人もいるかもしれない。しかし、前述の問題を間違える人は、「本当にマニュアルに書かれている内容が読めていない」のだという。 「2024年度だけで59の企業、約1万3000人がRSTを受検したところ、業務マニュアルや説明書、メールの内容などを正確に読めないレベルの人が相当数いることがわかりました。 これは、中学2年生の平均を下回るレベルですが、一流企業であっても1、2割程度いることは珍しくありません。ただ、分散が大きく、そのレベルの社員がほぼいない企業もあります。 『うっかりして読み飛ばした』とは言い訳できないレベルで、読めていない人が多いことが判明しています。中学校の教科書もろくに読めていない人が業務マニュアルを読めているわけがありません。文字は読めるにもかかわらず、『文章の意味が理解できない』というのが、シン読解力について、もっとも重要なポイントなのです」 コミュニケーション能力とシン読解力は別物 こうした人材が在宅勤務をすると、生産性が著しく下がる。結果的に、リモートワークを廃止して出社に戻る企業も出てきたのは、シン読解力不足が原因かもしれない。 面接で「コミュニケーション能力が高い」と評価された人が、入社後に契約書を読めなかったという事例もあるという。 「会話力や空気を読む力と、説明文を正確に読み取るシン読解力はまったく別物というのが恐ろしいところです。社交的で話題も豊富な人がRSTを受けてみると、低得点を取ることは、珍しくありません」 後編記事『簡単な文章すら読めない社会人が大量発生したのは“ゆとり教育”のせいだった?…AI時代にこそ必須になる《シン読解力の重要さ》』では、シン読解力の低下を招いた“ゆとり教育”の問題点や、シン読解力を向上させるためのトレーニング方法などについて、引き続き新井氏に聞く。 【つづきを読む】簡単な文章すら読めない社会人が大量発生したのは“ゆとり教育”のせいだった?…AI時代にこそ必須になる《シン読解力の重要さ》

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