スマートフォンにもAI機能が実装され身近な存在になりつつある「生成AI」は、今後ビジネスの現場をどう変えるのか?現役の大学院生でAIスタートアップ『ライフプロンプト』を起業した遠藤聡志CEO(26)に聞いた。 【写真を見る】「時短効果18倍」「東大理�も合格」生成AIの“破壊と創造”【Bizスクエア】 1年で驚異の成長「東大理�合格」 2月ー。 東京大学の入学試験の全日程終了の翌日、【生成AIによる東大受験チャレンジ】が行われた。 このプロジェクトを手掛けるのは、遠藤聡志さん26歳。AIツールの提案‧開発を行う『ライフプロンプト』(東京・新宿区)を2023年に起業した若きCEOだ。 起業時から続けている「東大受験チャレンジ」に2025年は中国の「DeepSeek R1」が新たに参戦。アメリカの「ChatGPT o1」との直接対決となった。 問題用紙の画像を読み込ませスタート。 東京大学理科2次入学試験を、ChatGPTは約20分、DeepSeekは33分で解答。 1次試験+2次5教科の総合点は、▼ChatGPT⇒374点▼DeepSeek⇒369点となり、いずれも東大理科�類の【最低合格ライン368点】を上回った。 物理を採点した『河合塾』窪田健一講師: 「2次試験では河合塾のボーダー偏差値が72.5。1000人受験して上位10人に入ってC判定。A判定となると上位3人」 きわめて狭き門を突破した米中の生成AIだが、一方で“ある弱点”が強く印象に残ったという。 窪田講師: 「正しいグラフを選べというグラフ選択問題。これがAIはまだできない。人間はパッと9つのグラフを見た瞬間に『違いはここ』と分かるが、これが苦手。東大の入試問題は解けるのに保育園の子が解ける問題が解けない」 それでもChatGPTの物理の得点(60点満点)は、2024年「5点」⇒2025年「45点」。早過ぎる進化にAIツールを開発する遠藤さんは… 『ライフプロンプト』CEO遠藤聡志さん(26): 「AIはいろんな知識を学習していて何かと何かを組み合わせて新しいことを考えることができる。人間よりも組み合わせの数や“突飛さ”、例えば日本の何かとアフリカの何かを急に組み合わせることができたり可能性という意味では“AIの方が創造力がある”とすら言える」 AI導入で「その間に違うことができる」 イーコマース(電子商取引)に特化した販売・広告支援などのコンサルタント事業を手掛ける業界最大手の『いつも.社』(東京・千代田区)。 200人以上のスタッフを擁し“業務のAI化95%”を実現しているが、そのAI化を支えてきたのが遠藤さんたちの『ライフプロンプト社』だ。 業界に先駆けAIを導入した動機は何だったのだろうか。 『いつも.社』望月智之副社長(48): 「コンサルティングノウハウは財産であり、当社の最も強みがあるところ。これをどう強化してスタッフ200名が1000になっても同じようにできるかが非常に重要」 コンサルタントの山下奈保さん(22年度入社)は、クライアントに寄せられる「商品レビューの分析」で日常的にAIツールを使っているという。 山下さん: 「レビュー分析しようとなったら、すぐにツールにいってURL入れて押して。その間に違う業務をやることが多くて結構自然に使ってる。手作業でやると何時間もかかる」 AIツール利用で「売り上げ1位に」 ECショッピングで誰もが一度は目を通す商品レビュー。ネガティブなレビューが並ぶ商品は敬遠しがちだが、ここから「販売増」に結びつけたケースがある。 防虫剤や消臭剤でのヒット商品が多い日用雑貨メーカー『エステー』。 EC事業の売上が好調に伸びるなか、売れ筋商品の「無香性消臭剤」の販売が伸び悩んでいた。 EC営業部部長・郄野 豪さん: 「競合他社に非常に強いブランドがあり、後発で出したことで客の認知度も売り上げも劣るような状況だった」 エステーのケースでは「機能に特化した3つのAIツール」が活用されている。 ▼〔1〕商品の訴求すべきポイントを洗い出すツール ⇒消臭効果や持続時間・即効性などのアピール項目が商品ごとに出てくる ▼〔2〕レビュー分析ツール ⇒競合他社を含む数千ものレビューを約10分で収集・分析 ▼〔3〕画像やキャッチコピーなどを生成・提案するツール ⇒改善内容を具体的に提案 これらの分析結果から、エステーの無香性消臭剤には、「消臭効果」と「インテリア性」の訴求の弱さが見えてきた。 そこで、「消臭効果」については、「何の臭いに効くか」だけでなく「どこの場所の何の臭いか」まで明確に説明する画像に変更。 「インテリア性」では、ラベルを剥がせば部屋の景観を邪魔しないことを新たに訴求するなど改修した結果、現在は販売ランキングで1位をキープしている。 AI普及でビジネスの現場は? 生成AIのさらなる普及がもたらす変革とは… 『いつも.社』望月副社長(48): 「AIでページを作ったり分析したり、メールや広告を打ったりを自動化すると、おそらく“5分の1や10分の1”の時短になる可能性もある。そうするとメーカーやショップは商品の強みや打ち出し方を考えるところだけになってくるので、非常に良いことだと思う」 驚異の能力向上も「まだ完ぺきではない」 このように企業がAIを導入する動きについて、『ライフプロンプト』CEOの遠藤聡志さんは「業種を問わず危機感を感じていて、問い合わせも多くなっている」と話す。 遠藤さん: 「AIへの指示の仕方などを我々がお手伝いをしていて、この順番で分析をかけていくとか、この観点でデータを見ていくみたいなその辺りにノウハウが宿る。そこの言語化およびAI化っていうのをやらせてもらっている」 ーー業務の効率化は相当なものか 遠藤さん: 「何かを読み解くのに手作業なら数時間かかるところをAIなら10分に短縮できる。時間だけでなく精神的な効果もある。文字をひたすら読み続けるのは結構大変だけど、AIである程度ギュッとまとまった状態になる」 そのAIの進化は著しいものがある。 「AI東大受験プロジェクト」で見てみると、2024年はどの学部も不合格だったが、2025年は「理�・理�・理�・文�・文�・文�」と初めて全てに合格した。 【ChatGPT】 ▼物理(60点満点):5点(2024年)⇒45点(2025年) ▼数学(120点):2点(24年)⇒38点(25年) ▼英語(120点):106点(24年)⇒93点(25年) ▼総合(1次+2次5科目・550点):182点(24年)⇒374点(25年)/合格最低点369点 遠藤さん: 「習熟度も早いし、ここ1年で二つの大きな変化があった。1つは<AIに目がついた>みたいなところと、論理的に考える・計算するという<理数的な思考能力>が飛躍的に高まった」 ーー物理や数学は2024年は点数が悪い。こういう点が大きく改善した? 遠藤さん: 「物理は、例えば図表の問題で<図を見ながら現象を理解する>というのがあるが、それが全くできなかったものができるようになった。数学だと、途中式まで全部判定されるので、2024年は途中式で引かれて2点。2025年も答えはほぼ全部合っていたけど、途中式で引かれて3分の1ぐらいの得点率に。飛躍的に伸びたもののまだ完ぺきとは言えない状態」 AI社会の未来像と注意点 日本国内でも生成AIの利用は広がりつつあるが、業務の効率化で懸念されるのが「職が奪われる」ことだ。 アメリカではすでにそういう事例が出始めている。 ▼『マイクロソフト』⇒ソフトウェア開発のエンジニア中心に【世界で6000人強削減】 ▼『セールスフォース』⇒【1000人規模削減】AI販売要員は採用 ▼『アンスロピック』(生成AIクロード開発元)⇒ダリオ・アモデイCEO「AIにより初級者向け職種の【半分は消滅】、失業率は20%に」 ーーエンジニアの他に、どのような分野でAIでの効率化が? 『ライフプロンプト』CEO遠藤聡志さん(26): 「よく言われるのは事務作業やコールセンターなど。それ以外にも、いつも同じような仕事をしている、色んな文章を読んでいるとか、色んなまとめ方をしてるという“ルーティンワーク”であれば、どんどん効率化していくことができる」 ーー日本社会でAIの実装化を妨げているものはあるか? 遠藤さん: 「具体的に何ができるのかという実感がまだ浸透していない。AIに危機感はあるけれども、どう自分たちの業務が改善されるのかがわからないところが阻んでいるのかなと。『本当にコスト削減されるのかわからないと意思決定しにくい』みたいな話もよく聞く」 ーーAIの未来像と注意点は? 遠藤さん: 「ChatGPTとかの進化は、まるでサルが人間になったかのような、言語を扱えるようになったというところで、普通の同僚のようにAIと会話して仕事をしていくのが当たり前になってくるかなと思う。そうするとやはり新しいセキュリティや、AIが勝手に何かをしないよう制御することや、AIにどう権限を渡していくか、このあたりが課題になってくる」 (BS-TBS『Bizスクエア』 2025年6月7日放送より)