前編記事【売りたくても売れない田舎の「負動産」を処分する「奥の手」があった…国が始めた「新制度」のメリットとデメリットとは?】より続く。 「法務局からの問い合わせ」という落とし穴 相続土地国庫帰属制度の条文には、「境界が明らかでない土地」や「所有権の存否、帰属又は範囲について争いがある土地」は申請できない、とも書かれている。ただしこれについては、それほど心配する必要はないという。 「山林の土地だと、『山の中のあの辺りなんだけど』というように場所があいまいだったり、草が生えていて隣の土地との境界がわからなかったりすることも多いですが、そうした場合もすべてが却下されるわけではありません。 そもそも、所有者が相続土地国庫帰属制度を使いたいと思うような土地は、周りの土地も放置されているケースが多く、ほかの所有者とトラブルになることはあまりないと考えられます 首尾よく手続きするために何より重要なのは、土地家屋調査士の実務経験がある弁護士・司法書士・行政書士に相談することだ。 というのも、申請後には法務局からたびたび問い合わせが来たり、職員が現地確認に訪れたりするため、それに的確に対応できなければ、承認が遠のいてしまうのである。 「実地調査」でやることは? 「『草が生えていると地表が見えないので、草刈りしてください』、『どこに土地があるのかわからないので、実地調査に同行してください』といった法務局からの問い合わせには、原則として申請者本人や家族が対応しなければなりませんが、専門家が代わりに実地調査に同行してもいいとされています。 相続土地国庫帰属制度の申請にあたっては、必ず現地へ行って、土地の所在や境界について調べることになります。また、草刈り機や測量のための器械を使って、境界点を探すこともあります。 さらに手続きを進めるためには、土地の境界点周辺を写した写真が必要です。土地家屋調査士は、土地の筆界に関する専門的知見があり、こうした作業にも通じているので、安心です」 池田氏は、相続土地国庫帰属制度の承認申請書の作成を代行する場合、およそ30万円から受けつけているという。 話題の「引き取りサービス」って大丈夫? 冒頭の佐藤さんの実家のような遠隔地を、国庫帰属制度を使って処分するなら、現地へ出向くたびに交通費や宿泊費もかかる。空き家の解体やモノの撤去を業者に頼み、専門家への謝礼金も支払えば、あっという間に100万円、200万円を超える出費になることもあるだろう。 もちろん、将来にわたって固定資産税が浮く、自分の子供や孫に「負動産」を押しつけなくてすむ、といった利点はあるが、かといって、ポンと出せる金額でもない。 踏ん切りがつかなければ、さらなる奥の手もある。「山林引き取りサービス」を利用するのだ。最近は新聞などで広告を出している業者も増えているから、知っているが、なんとなく怪しいと感じている人も多いだろう。 税理士の佐藤和基氏は、買い手がなく、国庫帰属制度を使うことも難しい「負動産」を有料で引き取る事業を、2019年から開始した。 「人里離れた山林の土地や、コンクリートの頑丈な建物が建っている、擁壁の工事が必要といった理由で処分費用が1000万円を超えるような、処分が困難な土地の引き取り先を探しています。 これまでの引き取り先は林業会社やキャンプ場・サバイバルゲーム場の運営会社、自然保護団体などさまざまです。安ければ、30万円ほどの手数料で引き取ることができます。 最近は同様のサービスが増えていますが、税理士や弁護士が関わっていない業者には、料金だけ取って、土地の所有権移転登記をしない詐欺まがいのところもあります。 事前に契約内容や業者の素性をしっかり確認して、料金の支払いが移転登記完了後でも可能な業者に依頼するようにしてください」 「負動産」を手放すのは、決して一筋縄ではいかないが、いつかは必ずカタをつけなければならない。自分と家族の未来をよく考えて、早めに決断を下したい。 【こちらも読む】『【独自】最高級住宅街「芦屋・六麓荘」でご近所トラブル……移り住んだ中国系富裕層は、どんな「ルール違反」を犯したのか』 「週刊現代」2025年6月9日号より 【独自】最高級住宅街「芦屋・六麓荘」でご近所トラブル……移り住んだ中国系富裕層は、どんな「ルール違反」を犯したのか