売りたくても売れない田舎の「負動産」を処分する「奥の手」があった…国が始めた「新制度」のメリットとデメリットとは?

日本の国土はもう「負動産」だらけ 東京から新幹線、ローカル線、一日に数本しかないバスを乗り継いで約6時間。都内に住む佐藤俊治さん(仮名、72歳)が相続した実家は、山形県の山奥にある農家だ。3年前に父が亡くなってから、3ヵ月に1回のペースで帰省して後片付けをしてきた。 「家財道具だけでなく、農機具や古いトラクターも放置されていたので、処分するのに2年以上かかってしまいました。ようやく、残るは家の建物と納屋だけ、という状態にはなったんですが……」 周りは民家もまばらで、「山また山」という言葉どおりの田舎。じつは佐藤さんは、実家そのものだけでなく畑や、少し離れた山の中腹にある林、さらに隣町の山中にある一族の墓も相続したという。 「でもこの先、活用できる見通しは全くありません。林なんて、私もほとんど行ったことさえない。自分の代でなんとかしないと、とは思いますが、売るには土地の境界確定とか、建物の解体が必要だと本で読んで、いったいどのくらいカネと時間がかかるのか……と途方にくれています」 こうした、とんでもなくカネや手間がかかる、いわゆる「負動産」は、高齢化と人口減少で増加する一途だ。中には放棄する持ち主も少なくなく、国の調べでは、すでに日本の国土の20%以上が「所有者不明」となっているらしい。 事態を重くみた国が、2023年4月からスタートさせた新制度が「相続土地国庫帰属制度」だ。「負動産」を相続してしまったとき、一定のハードルをクリアすれば、国に引き取ってもらえるのである。 開始から約2年で、申請件数は3580件(今年3月時点)。そのうち、すでに引き取りが承認されたものが1486件、却下・不承認があわせて109件となっている。 始まってから日が浅いこともあり、まだ評価の定まっていない面もあるが、土地家屋調査士と行政書士の資格をあわせもち、この制度に詳しい池田卓司氏はこう語る。 「じつは私も、佐賀県にある父の実家などを処分するため、実際にこの制度を利用しました。5筆の土地を申請し、すべて承認されています。申請から承認まで8ヵ月〜1年ほどのケースが多いようです」 国に引き取ってもらえない土地の特徴 下の図に示したように、メリットとデメリットがある。まずメリットは、なんといっても、「負動産」の管理や固定資産税の支払いをしなくてすむようになることだ。もちろん、民間業者が買い取ってくれない土地も手放せるし、すべての相続財産をあきらめなければならない相続放棄とちがい、特定の土地だけ処分できる。 いっぽうデメリットは、最低でも20万円の負担金を支払わなければならないことや、くわしくは後述するが、準備だけで数十万円、場合によっては100万円以上の費用がかかるケースもあることが挙げられる。相続ではなく贈与で取得した不動産は対象外となる点や、共有名義なら、共有者全員で手続きしなければならない点も要注意だ。 「建物がある土地」は原則「却下」だが…? では、実際に申請をしたいとき、なにに気をつける必要があるのか。 まず、法務省が定めている制度の条文では、空き家や倉庫などの「建物がある土地」は却下要件とされており、原則的には建物を解体しなければならない。ただし池田氏は「事前に申請先の法務局に相談すれば、部分的に審査してもらえる場合もある」と言う。 「それ以外のモノがある場合はケースバイケースです。 たとえば廃車・トラクターなどの車両、木や竹などの植物は、制度の条文では『土地の通常の管理又は処分を阻害する工作物、車両又は樹木その他の有体物が地上に存する土地』は承認できないと書かれていますが、移動・処分する、植物なら伐採するなどの対応をすれば、審査を進めてもらうことはできます。 注意したいのは、敷地内に井戸や石碑などがある場合。これらは撤去するとき、お寺に頼んでお祓いや供養をしなければならないことがあるので、5万〜10万円ほど余分な費用がかかるかもしれないと考えてください」 建物の解体が求められた場合、一般的な木造民家(30坪)ならば、解体費用は100万〜150万円が相場とされる。なかなか悩ましい出費だ。 後編記事【30万円から「田舎の負動産」を処分できる「引き取りサービス」の実力とは?「詐欺まがい業者」を回避するための最重要ポイント】へ続く。 「週刊現代」2025年6月9日号より 【つづきを読む】30万円から「田舎の負動産」を処分できる「引き取りサービス」の実力とは?「詐欺まがい業者」を回避するための最重要ポイント

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