意外と気づかない「移動格差」の実態…”普通に”移動できない現実をどう考えるか

この世界には「移動できる人」と「移動できない人」がいる。 日本人は移動しなくなったのか? 人生は移動距離で決まるのか? なぜ「移動格差」が生まれているのか? 発売即重版が決まった話題書『 移動と階級 』では、通勤・通学、買い物、旅行といった日常生活から、移民・難民や気候危機など地球規模の大問題まで、誰もが関係する「移動」から見えてくる〈分断・格差・不平等〉の実態に迫っている。 (本記事は、伊藤将人『 移動と階級 』の一部を抜粋・編集しています) 障害と移動 私には普段車椅子を利用している知人がいる。訪れたことがない場所に行くとき、彼は目的地までのルートを事前に調べて出かける。エレベーターやトイレの場所、大きな段差の有無など、できる限り道中の状況を把握してから外に出る。地図を拡大し、衛星画像も見られるようになったのは便利な変化だという。ただし、どれだけ事前に調べていても、電車・バス・飛行機に乗るときは一人では難しい。なので、運転手や駅員、周囲の人に声をかけ、サポートを受けて乗り降りをしている。 もう一人、別の知人の例も紹介したい。彼女は、発達障害があり、精神疾患も患っている。障害や疾患の影響で、朝起きてはじめて、今日は鬱症状が激しいのか落ち着いているのか、身体が動くのか動かないのかがわかる。コロナ禍の社会の変化は、移動できない可能性を抱えながら暮らす彼女にとって、オンラインでイベントに参加したり、つながりが広がるきっかけが増えたりと暮らしやすくなる変化だった。ただし、美術館が予約制になったことは苦しかったという。予約制で決められた時間に行かなければならず、事前にやらなければならないことも増え、訪れるハードルが高くなったのが理由である。 身体障害がある、車椅子に乗っている、発達障害がある、精神疾患があると一口に言っても、人によって抱える困難や状況は異なる。ただし、それでも共通するのは、彼・彼女らが常に自分一人では移動できない可能性や、“普通に”移動できない可能性を抱えながら、朝起きて、家を出ようとしているという事実である。 「障害は世界を捉え直す視点」をテーマに、さまざまなプロジェクトを行うキュレーターの田中みゆきは、こう指摘する。 わたしが行き当たりばったりに出かけることができるのは、この社会がデザインされた対象にわたしが含まれているからだ。(後略) 障害のある人が、あらかじめ念入りに計画しなくても好きなときに新しい場所へ出かけることができるだけでなく、気分によってルートを変えたり、間違えたときに軌道修正したり、気軽に寄り道したり、といったことが可能になってこそ、公平な社会と言えるのではないだろうか。(田中:2024) 障害者の権利に関する条約 「障害」は、移動の自由と権利を考えるうえで不可欠なテーマである。なぜなら、移動格差が生じやすく、移動の自由や権利が蔑ろにされやすい問題が数多くあるからである。 2006年に国連総会で採択され、日本も2014年に批准した「障害者の権利に関する条約(障害者権利条約)」は、障害者の移動について次のような文章を盛り込んでいる。 第二十条 個人の移動を容易にすること 締約国は、障害者自身ができる限り自立して移動することを容易にすることを確保するための効果的な措置をとる。この措置には、次のことによるものを含む。 (a) 障害者自身が、自ら選択する方法で、自ら選択する時に、かつ、負担しやすい費用で移動することを容易にすること。 (b) 障害者が質の高い移動補助具、補装具、支援機器、人又は動物による支援及び仲介する者を利用する機会を得やすくすること(これらを負担しやすい費用で利用可能なものとすることを含む)。 (c) 障害者及び障害者と共に行動する専門職員に対し、移動のための技能に関する研修を提供すること。 (d) 移動補助具、補装具及び支援機器を生産する事業体に対し、障害者の移動のあらゆる側面を考慮するよう奨励すること。 英語で「パーソナル・モビリティ」と書かれた第20条は、まさに個人の移動全般に関する事柄が対象となっている。締約国には、障害者自身ができる限り自立して容易に移動するための効果的な措置をとることが求められる。 移動の確保は、障害者の社会参加にとって基本的な権利であり、特に運動器や感覚器に機能障害のある身体障害者にとっては重要な意味をもつ。しかし、現実には、令和になっても低くならない移動の壁がたくさん残っている。 他方で、現在では上記の条約が制定され、バリアフリー化により障害者を含む多様な人たちの移動が円滑でより障壁が少ないものにもなっている。こうした障害者の移動の自由と権利は、誰によって、どのように獲得されてきたのだろうか。 本記事の引用元『 移動と階級 』では、意外と知らない「移動」をめぐる格差や不平等について、独自調査や人文社会科学の研究蓄積から実態に迫っている。 【つづきを読む】この世界には「移動できる人」と「移動できない人」に大きな格差があるという「深刻な現実」

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