衆議院で議論が進む選挙制度改革のなかで、注目される「中選挙区連記制」とはどんな制度なのか。いまの小選挙区比例代表並立制が30年前に導入される以前は、定数が原則3〜5の中選挙区だったが、投票用紙には一人の名前を書く「単記制」だった。1994年に新しい選挙制度に変えることに調印した細川護熙首相(当時、日本新党党首)と河野洋平・自民党総裁(当時)はともに、当初から小選挙区制には疑問を持ち、中選挙区連記制を考えていた。最近は、若手、中堅議員にも支持が増えているこの制度は、いったい何を狙っているのか? 「連記制」は「与党と野党の候補に1票ずつ投票」も可能 田中秀征・元新党さきがけ代表代行(84)は、31年前の細川連立政権を支える8党派の一員(首相特別補佐)だったが、当時から中選挙区連記制を主張していた。著書「小選挙区制の弊害 中選挙区連記制の提唱」によると、例外的な3、4人区はあるが、原則は「5人区で2票」。有権者や議員らに予想される投票、行動として、次のような指摘をする。 (1)第一党に反省を求めるため、与党と野党に一票ずつ分けて投票することもある。 (2)(単記制と同じく)無所属候補の当選可能性が大きくなる。党や組織の援護を拒否する新人も出てくる。将来の指導者の可能性も (3)原発専門や温暖化防止専門の議員が出現する。 (4)同じ党の候補者は、お互いサービス競争を控え協力して当選を目指す可能性が高い (5)小選挙区制よりも、かえって「二大政党化」への流れが出現するのではないか 石破首相も中選挙区連記制を提唱していた 実は、石破茂首相も「月刊日本」(2024年6月号)で「いま私が考えているのは中選挙区連記制だ」と明言していた。 「全国に定数3の中選挙区を150作って、有権者は各選挙区で3人まで候補者を選ぶ」制度を提唱した。このシステムでは、有権者は、連立の組み合わせも選ぶことができる。連立の組み換えを起こすこともできる。 石破氏は首相になった後は、具体的な発言は控えているが、2025年正月(1月6日)の年頭記者会見で、「より幅広い民意が反映されることが重要だ。(小選挙区比例代表並立制の)約30年の歴史を踏まえ、党派を超えた検証が必要だ」と、新たな選挙制度の必要性を示唆した。 その1月下旬に、衆院議長の下に「衆議院選挙制度に関する協議会」が設置され、5月までに6回の協議会が開かれ、各国の選挙制度の研究などが進められている。 「今度ダメだったら、3年4年先になってしまうな」 細川護熙・元首相が1992年に起ち上げた日本新党の結成宣言のなかに、中選挙区連記制はあったという。その直後に細川氏は雑誌で対談して、当時の宮沢首相側近だった秀征氏と意気投合、秀征氏は宮沢政権の終わりとともに自民党を離党すると明言したそうだ。秀征さんはいまなお、一般の人向けに考えを話す「さきがけ塾」をたまに開いているというので、2025年5月の終わりに訪ね、聴衆に交じって聞いてみた、 ——参議院選で、今の与党が参議院でも「少数」となると、前回選挙制度が変わった30年前と同じような混乱状態になって、再び選挙制度が転換するチャンスが来るのでは? 秀征塾長 「いや選挙前にも、(選挙制度を)一気に変える環境にあると思う」 ——いや、会期末まで1か月もありません。何より、今の小選挙区比例代表並立制で当選してきた人たちは、自分の地位を脅かす選挙制度の変更には、そろって反対しますよ。 塾長 「いや、そうでもない。自民党では次の衆院選で負けると思っている人がいっぱいいるから。きっと通りますよ」「でもね、(首相には)相当な決断が必要になる。今度ダメだったら、3年4年先になってしまうな」「石橋湛山(終戦直後の首相)が言ったように、議会は、時代を救うすぐれた指導者を選ぶためにあるんだ。もう一度考えてほしい」 選挙制度に絶対はない。「改革できたとしても、20年後の制度見直し条項を忘れぬよう」。秀征塾長は、付け加えた。 (ジャーナリスト 菅沼栄一郎)