上層部の企み 被害額は4億円以上にも「中古車買取詐欺」の悪辣な手口

またしても起こった大規模な「買い取り詐欺」 中古車販売におけるトラブルが後を絶たない。今年1月には岩手県の中古車店で約20台の買取詐欺被害が発生した。さらに5月にはより大規模で、多くの被害者を出すトラブルが発生している。 渦中の会社は東京都板橋区に本社を構える『カートップ』である。同社は’21年12月10日に設立された比較的新しい会社だ。そんな新興会社で、被害者80人以上、総額4億2000万円以上という大規模なトラブルが起きているという。愛知県在住の被害者が、その実態を明かす。 「トヨタ・ヴェルファイアを売却しようと思って『MOTA』という一括査定サイトに申し込みました。『MOTA』は車名や走行距離、車体のカラー、車検時期などのデータを入力すると、車を見ずに10〜20の業者が入札を行います。そして、高値を付けた1〜3位までの業者だけがオーナーに電話をする権利を得てアポをとり、実車の査定を行うという新しい形の査定サービスです。 そこで2位の査定額より50万円も高くつけたのが『カートップ』でした。当然、買取契約をしました。車と書類を渡したのが5月15日。入金は5月23日と記されていました。しかし……入金を待っている間、5月19日に突然の破産手続き開始に関する受任通知が『カートップ』の弁護士事務所から出されたのです。19日に受任通知が出されるなら、少なくとも15日までに破産手続きが決まっていたはず。『なんだこれ! 計画倒産じゃないか!』と怒りが収まりませんでした」 この被害者は『カートップ』本社や担当者にも連絡をしたが繋がることはなかった。筆者の元には多数の被害報告が寄せられており、被害者グループラインを立ち上げた。現在は50名以上が参加している。 取材を進めていくうちに、その悪辣な手口が明らかになってきた。カートップと何度も競り合ったことがあるという中古車業者は、「2月ごろから相場よりも高い値段で買い取りしまくっていた」と証言。当時は実績と高評価のクチコミを集めていたのだろう。4月上旬までは入金が行われていたが、ゴールデンウイーク明けごろから未入金被害を訴える声がSNSにちらほら上がるようになった。 「億の金を集めて計画倒産するのが俺の夢」 登記簿を見ると『カートップ』の代表取締役は野呂佳成氏という人物が務めている。だが、野呂氏はほとんど姿を現すことはなかったという。出入り業者が明かす。 「電話で話をしたことはあるんですが、姿を見たことはありません。社長の番号にかけても違う声の人物が出たことが何度かあります。不気味ですね。実は『カートップ』の買取代金未入金の被害はいまに始まったことではないんです。始まりは札幌市を本拠地とする『カートップ』の前前身である『くるなび』という会社です」 『くるなび』の登記簿を見ると、設立は’12年8月となっている。代表取締役にはF氏という人物の名前が記載されている。しかし、実質的な経営は野呂氏が行っていたという。 「二人が犯罪紛いの行為を始めたのは、’10年ごろだと思います。当時は別の会社をやっていました。現在もあるネット掲示板にはその会社名で『買い取りしてもらったがお金が振り込まれない』という相談が残っています。当時から野呂さんの指示で買い取り車を回していたのがFさんです。その後、立ち上げた『くるなび』ではFさんの暴行事件があって融資を打ち切られたり、業者オークションを出禁になったり、未入金の被害者から民事で訴えられたりというトラブルが多数あったそうです。代表や会社名をその都度変えていますが、今回の『カートップ』もこの二人が関わっています」(中古車販売業者の関係者) 『くるなび』は車輌買取契約約款の不審な点をはじめ、難癖をつけて買取金額を減額したり、一方的に契約解除をしたりするなど消費者契約法に抵触する内容も多々あったという。’18年5月17日には適格消費者団体・特定非営利活動法人消費者機構日本より申入書が送られている。さらに野呂氏の側近であるF氏は、過去に驚くべき発言をしていたという。当時を知る、別の中古車販売業者が明かす。 「F氏はヤンチャな風貌で、取り巻きもそういった人間が多かった。当時から『億の金を集めて計画倒産するのが俺の夢だ!』と周りに吹聴していました。当時は何を言ってるんだ? と思っていましたが、今回の事件を聞いてゾッとしました。『カートップ』がまさに計画倒産じゃないかと。 さらにF氏は『くるなび』とは別に札幌市手稲区で中古車販売店を経営しており、非常に悪質な手口で月に80台ほど販売していたそうです。客とのトラブルが立て続けに起き、広告媒体との契約が焦げ付き始めた。そこで、トカゲの尻尾切りのように名義人を切り捨て、また新たな名義人を探す手法……といった方法で、8年ほど同店舗を経営していました」 各地の警察も本気の対応 今回のトラブルでは愛知県警と警視庁が詐欺罪での被害届を受理し始めている。実際に捜査によって所有者名義や所在地を確定している被害車もある。なかにはタイミングよく弁護士立ち合いのもとオーナーに返還された車両も数台あると聞いている。 カートップの公式サイト(’25年5月23日閉鎖)に、’25年4月オープン予定として紹介されていた埼玉県所沢市の新店予定地には、現在30台前後の車両が保管されている。被害者から買い取った車両も中には含まれているだろう。それらの車にはすべて弁護士による告示書が貼られており、移動をしてはいけない……などと書かれていたが、筆者が現場を訪れたときには地面に移動の形跡があり、告示書が剥がされて別の車に貼られていたものもあった。 筆者はこれまで数百台の詐欺的案件を取材してきたが、今回驚くのは警察の対応である。愛知県警ではいち早く被害届の受理を行い、警視庁も続いている。埼玉県警や千葉県警などは一部の警察で被害届受理を保留にしているがおそらく間もなく被害届受理にむかうのではないか。複数の会社で詐欺的行為を行い、数百名の車オーナーを苦しめてきた犯罪がしっかり解明されることを期待したい。 最後に、中古車売買でトラブルに遭わないためにはどうすればいいのか。まず現金(または目の前で口座入金)と引き換えに車を引き渡すお店を探すことである。これがもっとも安心なシステムだ。第三者機関が入金を確認してから買取店に書類と車を引き渡すシステムである「エスクローサービス(取引保全)」を導入する中古車店や一括査定サイトを利用すればますます安全性は高まるだろう。 一般的には車を引き渡した後、翌日〜5日以内が入金予定日として設定されることが多い。この点も知っておくと、トラブルに巻き込まれる可能性を下げることができるかもしれない。 取材・文:加藤久美子

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