昨夏の終わり頃から始まった米の品不足、価格高騰は「令和の米騒動」と呼ばれ、今も毎週月曜日に農水省が発表しているスーパーでのコメ平均価格が、大きなニュースとして取り上げられている。そこに風穴を開けたのが、失言で更迭された大臣の後任として農林水産大臣に就任した小泉進次郎氏だ。前回、環境大臣だったときには大胆な言動で人気も集めたが、風当たりも強かった。農水大臣となった小泉氏には、周囲にどんな風が吹いているのか。臨床心理士の岡村美奈さんが分析する。 【写真】「お父さんに似て相談することなく、自分で判断したものをマスコミに発表している」と発言する野村哲郎元農水相 * * * 令和の米騒動に取り組む小泉進次郎農水相に強力なサポーター?が現れた。自民党の野村哲郎元農水相だ。5月31日に鹿屋市で開かれた自民党・森山裕幹事長の国政報告会で、野村氏は小泉農水相に対し「お父さんに似て相談することなく、自分で判断したものをマスコミに発表している」と発言。党内手続きを経ず、党の農林部会に諮らずに方針を決めたと批判した。この発言は図らずも、絶好のタイミングで小泉農水相の発言を際立たせる結果となった。さすが元農水相、皮肉るタイミングが絶妙だ。 米不足と高騰にうんざりしていたが、小泉農水相による備蓄米の随意契約が発表されてからわずか数日で、大手スーパーなどの店頭に安い米が並んだ。備蓄米の味比べをメディア参加のもと行い、古い米はまずいという先入観を払拭し国民に安心感を与えた。安い米を求めて人々が長蛇の列を作り、手にした人の中にはメディアのカメラに向けて米袋を高々と持ち上げて見せた人もいた。それぐらい世間では安い米への期待が高いのだ。 人はとにかく確実で安心が好きだといわれる。これまでのように手に入らないということは避けたい傾向が強い。だから安い米が手にはいるとわかれば、買えない、手に入らないという苦痛を避けるため、どんな苦労も惜しまない。先行きを心配する声もあるが、どうであれ世情は今、小泉氏に傾いている。そういう国民の気持ちや感情を野村氏は理解できなかったのだろう。これでは「米を買ったことがない」「米は売るほどある」と失言して更迭された江藤拓前農水相と同じだ。 彼らがものを言えばいうほど、自民党の体質は古い、農水族と呼ばれるような政治家たちのやり方や考え方は時代に合っていないということを、広く国民に向けてアピールするだけだ。自分たちの立場や評判が悪くなる「ブーメラン効果」に陥っているということに、ご本人たちは気がつかないらしい。 “大臣が変わればこんなに変わるのか”“政府だってやればできるではないか”などの声があちこちから聞こえてくる。そんな声は野村氏の耳には入らなかったのか、聞きたくなかったのか。国政報告会ではさらに「森山先生なんかに相談に来ていないと思う。終わりましたら、森山先生からチクリとやっていただかないと、今後が心配」とも言っていた。森山幹事長の顔を立てるつもりだったのだろうか。それとも会場へのリップサービスなのか。ネットで報じられた情報によると、他の場所でも似たような発言をしていたらしい。会場の笑いを誘うかもしれないが、メディアで報じられ本人の評判は落ちていく。 小泉農水相は1日、野村氏の発言に対して「農林部会長だったのでルールは存じ上げているつもり」と発言。さらに「大臣がやることなすこと1つ1つ党に諮らなければいけないと言ったら、誰が大臣になったってスピード感を持って大胆な判断はできない」と反論。備蓄米が売り出された絶妙のタイミングで誰が聞いてももっともだと思える反論ができたのは、野村氏のおかげだろう。 そういえば江藤氏の失言があったからこそ、小泉氏は活躍の場を得たことになる。江藤前大臣は自らの失言で小泉氏抜擢につなげ、野村元大臣は批判や皮肉で小泉氏の株をあげていく。農水大臣経験者らの連携とバックアップはさすが、たいしたものだ。