テレビ東京『WBS(ワールドビジネスサテライト)』メインキャスターで、新刊『不器用だった僕がたどり着いた「伝え方」の本質』を上梓した豊島晋作氏は、レオナルド・ディカプリオにインタビューした際、他のメディアには語られなかった「本音」を引き出すことに成功したという。ディカプリオはなぜ、豊島氏にだけ本音を語ったのか、その秘密を明かしてくれた。 「会話の占有率」をつねに意識しよう 会話を始める段階で最初にやるべきことは、相手が「話したい人」なのか「話を聞きたい人」なのかを見極めることです。 もちろん会う目的が取材やインタビューであれば、はじめから自分が聞くという役割は決まっています。ただ、商談などで取引先と会う場合や、特に目的なく相手と会話をしなければならないときなどは、その見極めが大事です。 まずは一言二言、会話を重ね、相手が「話したい」「聞きたい」のどちらのモードなのかを探ってみることが大事です。 あくまでひとつの目安ですが、こちらの質問に対し、相手が自分の話をすぐに始めたり、話を広げたりする場合は、「話したい人」である可能性が高いといえます。一方で、こちらに質問してくる場合や、こちらが質問しても回答が短い場合などは、「聞きたい人」であることが多いでしょう。 私としては、この見極めに注意を払う一方、とにかく自分が余計なことを話さないようにする意味でも、仕事かプライベートかを問わず、相手は8割以上の確率で「話したい人」だと思うようにしています。 ほとんどの人は「他人の話を聞きたい」という願望よりも、「自分の話を聞いてもらいたい」という願望の方が強いからです。 もっとも初対面の会話は、自分が話す「自己開示」と、相手の話を聞く「傾聴」の割合が最初は半々であることが多いかもしれません。 そして会話が進むにつれ、相手の話す割合が6〜7割に増えそうな感じであれば、その流れに任せてしっかり傾聴して聞き役に回り、相手に気持ち良く話してもらいましょう。会話の占有率は、相手が7割以上、こちらは3割以下に押さえて傾聴するのがいいと思います。 ただ、こちらが相手に乗せられて、つい長い話をしてしまう場合もあります。こちらが何か伝えるべき内容があるわけでもないのに、いつの間にか、自分の会話の占有率が8割を超えたら要注意です。あなたは話しすぎかもしれません。 相手の話を聞きつつ自分が何かを伝えなければならない場合でも、「伝える」は最大でも7割は超えないようにします。つまり、少なくとも3割以上は相手の話を「傾聴」するというバランスは維持したほうがいいでしょう。 往々にして相手に良い印象を残すのは、「相手が話をたくさん聞いたとき」ではなく、「相手が気持ち良く話せたとき」だからです。 いずれにせよ、相手が大事な人であれば、ただ無意識に会話を続けるのではなく、自分と相手の会話の占有率がどのくらいの割合なのかを常に意識することが大切です。 相手が話したいことの蛇口をひねる 例えば、ある業界全体を大変なシステムトラブルが襲ったとします。近年、銀行や公共交通機関、飲食店など、様々な業界でサイバー攻撃やシステム障害がいくつもニュースになっています。 けれども、これから打ち合わせをする相手の会社だけはなぜか無事だった。そうした場合、相手はそのトラブルについて話をしたいのではないかと推測します。「自社だけはトラブルから守られた」という成功体験になっているかもしれません。 なので私ならば、「御社はなぜ無事だったんですか?」とまず最初に聞くでしょう。すると相手は、「他社とは異なるクラウド環境を使っていたのが功を奏しました」「サイバー攻撃への対策は、しっかりやっていました」といった、自社の強みや工夫を誇らしげに話してくれるかもしれません。 あるいは、「事業が成功した」「昇進した」「子どもが生まれた」など、ビジネスやプライベートにかかわらず、相手にうれしいことがあったならお祝いの言葉をかけ、共に喜ぶ。 「仕事でミスをした」「離婚した」など、つらいことがあったなら、相手のつらい気持ちをそのまま受け止め、こちらも悲しむ。もっとも、他人の悲しみは簡単に推し量れないので難しいのですが、相手の感情に共感して聞くことが大事です。 このように、相手が本当に話したいこと、いわば“蛇口”を見つけてひねることで、話があふれ出てきます。 ここで必要なのは、単に決まり切った質問をするだけではなく、相手が本当に話したいことや、これまで語られてこなかった部分に目を向けることです。 例えば、桃太郎へのインタビューで考えてみましょう。鬼を退治して村に戻った桃太郎に「ヒーローインタビュー」するような場面です。 おそらく、桃太郎自身が話したい内容は、「どうやって鬼を倒したのか?」「鬼に勝てた理由は何か?」になると思います。桃太郎としては自らの命をかけて戦った物語のハイライトであり、一番自慢したいところだからです。なので、まずはそこを聞きましょう。 「桃太郎が本当に話したいこと」を聞く ただ、こうしたインタビューや質問があまりに多く続くと、桃太郎は「またこの話か」とうんざりし、「もっと他のことも聞いてほしい」と思うようになるかもしれません。 あるいは、「鬼ヶ島に渡るための船の調達」が実は一番大変だったので、そこを聞いてほしいと思っているかもしれません。もっと意外な話をしたいと考えている桃太郎もいるかもしれません。 さらにダークな話題では、おじいさんとおばあさんとの知られざる複雑な関係かもしれません。傷んだおにぎりを持たされたせいで、大事な鬼との戦いの直前におなかを壊して苦労した話。おにぎりを作ったおばあさんへの感謝と怒りがないまぜになった気持ちを語りたいかもしれません。 このダークな部分のコメントや事実関係を引き出すのは、聞き手の力量が求められます。桃太郎という人間を深く理解し、かなり深い部分から話を引き出す必要があるからです。 もし、それが成功し、「傷んだおにぎりを持たせたおばあさんを実は恨んでいるのですか?」と聞いて、桃太郎から以下のようなコメントをもらえたら成功です。 「もちろん、感謝はしてますよ。そもそも川を流れてきた僕を拾って育ててくれたんですからね。でも、あのおにぎりはなかった。きちんと傷まないように作ってくれたら、つまり衛生管理さえしてくれれば、もっと楽に戦えたと思うんですよね」 これはマスコミ的には「桃太郎がこれまで絶対に語らなかった本音 〜鬼ヶ島に持っていったおにぎりは傷んでいた!」というスクープ記事になるかもしれません。 つまり、聞き手として意識すべきは、「相手が何度も聞かれてうんざりしている質問」ではなく、「相手が本当は語りたいと思っていること」を見つけ出すことです。 そのためには相手の「どん底」と「天井」はもちろん、事前のリサーチを深めておくことです。それによって、誰もが知りたがる話よりも、本人にとって意外なポイントに光を当て、深い本音を引き出すことができます。 ディカプリオの本音をどう引き出したのか 過去に俳優のレオナルド・ディカプリオさんにインタビューしたときのことです。 彼は当時、株式市場を舞台にした映画『ウルフ・オブ・ウォールストリート』のプロモーションで来日していました。複数のテレビ番組のインタビューを受けている中で、WBSでは私が話を聞くことになったのです。 インタビュー場所は、東京都港区にある超高級ホテルのスイートルーム。世界的なハリウッドスターのスケジュールは分刻みで、与えられた時間はわずか13分でした。しかも、私の順番は他局の女性アナウンサーたちのインタビューの後、一番最後です。 そこで私は考えました。彼はすでに何回も日本メディアのインタビューを受け、疲れているかもしれない。「日本の印象は?」「映画のメッセージは?」といった定番の質問は何度も聞かれているはず。同じ質問では飽きさせてしまうし、時間も限られている。ならば、あえて別の角度から、率直に質問したほうがいい。 事前のリサーチでは、ディカプリオさんは政治的には熱心な民主党支持者で、環境問題に取り組む姿勢をPRしていました。もしかすると、政治的な見解を話してくれるかもしれない。それに、経済問題についての意見など、他のテレビ局はあまり聞かないだろう。そう思ったのです。 当時は、世界同時不況を引き起こした2008年のリーマン・ショックから数年しかたっておらず、米国の金融機関や株式市場の「強欲さ」が批判されていた時期。映画も株式市場やウォール街の強欲さを描いた作品でした。 であれば、彼にリーマン・ショックについて直接的に聞くのはありだと判断しました。 日本では芸能人に政治や経済の質問をするのはタブー視されがちですが、米国では必ずしもそうではありません。それに、私がキャスターを務めるWBSは経済ニュースがメインの報道番組です。だからこそ、経済的な視点から切り込む意義があるとも考えたのです。 そこで、彼に「2008年の金融危機について率直にどう思うか?」と聞くことにしたのです。 結果として、彼は大いに語ってくれました。時間は予定されていた13分を大きく超えて20分以上にわたり、最後はマネジャーなど関係者から中断をお願いされるほど。それは、彼があまりに長く話してくれたからでした。おそらく日本のテレビ局では最も長い時間をもらったのではないかと思います。 ディカプリオさんは、これまで金融危機は何度も引き起こされ、多くの人々の人生が破壊されてきたと語り、ウォール街に対しても批判的でした。そして「多くの関係者が適切に罰せられていない」といった痛烈なコメントも収録できました。 さらには、自分も株式投資をしていて、それがうまくいっていることは「皮肉だ」とも話してくれました。 限られた時間をどう効率的に使うか。相手がどんな気分や状況でこちらとの会話に望むのか。それらを考え、事前のリサーチを駆使した結果でもありました。 【もっと読む】和久田アナ&桑子アナの「後継者」としてNHK上層部が大注目…!タモリも絶賛するNHK地方局アナの意外な名前