実は日本の生命保険会社に「中国人営業」が増えていた…成績優秀者ばかりの意外な実態

生命保険の営業で好成績を上げる在日中国人たち 在日中国人の人口が増加するにつれ、日本人が知らないうちに、彼らだけの経済圏が次々と出来上がっている。たとえば、不動産、飲食、建築・リフォーム、ネット通販、美容整形、中古車販売、自動車修理などの業界に特に多い。 これらの業界に共通するのは、あまり日本語力を必要としないこと、中国人の需要が多く、すでにマーケットがあることだ。だが、筆者は最近、日本を代表する大手企業の中にも中国人社員がどんどん増加し、彼らのSNSグループなどを駆使して売り上げに貢献したり、独自の経済圏を作り上げたりしていることを知った。そのひとつは生命保険業界だ。 日本生命、第一生命、明治安田生命、住友生命、朝日生命……。これら大手生命保険会社(以下、生保会社)を始め、外資系など、どこかの生保に加入しているという日本人は多いだろう。だが、それは87万人を超えるほどの規模となった在日中国人も同様だ。そんな彼らに対して生保を営業している中国人社員が増加している。日本の会社だが、販売するのも購入するのも中国人だ。 ある日本人の友人が筆者に教えてくれた話によれば、「某生保会社の都内の支店では中国人社員が成果を上げているが、中国人社員が増えすぎた結果、社内で中国語が飛び交い過ぎ、中国語を話すのは禁止になった」というほどだ。そこで、筆者はある大手生保会社で働く中国人に話を聞いてみた。 40代の女性、王さん(仮名)は数年前、大手生保会社に就職した。中国で生まれ、留学で来日。卒業後は都内の中国系企業で事務をしていたが、結婚を機に退職した。数年前、中国人の友人から「生保で働いてみない?」と声を掛けられ、初めて日本企業に就職した。生保業界の経験も、営業の経験も皆無だったが、メキメキと営業成績を上げ、昨年、全国で5万人を超える社員のうち、上位400人だけが参加できるイベントに招待され、成績優秀者として表彰されるまでになった。王さんは言う。 「1年に1回行われるイベントで、営業成績の上位者だけが全国から招待される特別な大会なので、とても光栄なことです。選ばれる条件は、契約件数が多いだけでなく、解約が少ないことや損保など他の保険の販売実績も考慮されます。でも、行ってみてびっくりしました。その場にいた優秀社員の3分〜4分の1は中国人だったのです。さすがに全国の第1位は日本人だったのですが、トップ10に中国人が複数いて、まさかここまで生保業界に中国人がいるとは、と私も驚きました」 王さんによると、入社5年以内で、主に20〜30代が中心の若手社員が表彰される別のイベントもあり、そのイベント会場では、なんと約半数が中国人。まるで中国国内で行われているイベントのように「中国人だらけ」だったという。王さんがつとめる関東近郊の支店でも社員の4分の1が中国人。ほかに、上野、新宿、池袋など、中国人人口が多い地区に中国人社員も多いそうだ。 なぜ、生保業界にはそんなに中国人が多いのか。王さんの分析では「入社の敷居が低いこと」が要因のひとつとして挙げられるという。 王さんが勤務する会社では、学歴はあまり関係なく、日本語ができれば入社自体は難しくない。最初の2年間は基本給を保証してくれるため、もし営業成績がふるわなかったとしてもプレッシャーはなく、生保についてじっくり学ぶ時間がもらえるという。日本語を十分に話すことができ、比較的社交的な人ならば参入しやすい業界ではないか、と王さんは話す。もちろん、販売実績に応じて収入が増えること、自由に外出できることなども人気を集める理由だ。 日本で広がる中国人コミュニティを利用する 王さんの印象では、とくに中国人が増えたのはコロナ禍以降、つまりこの5年ほどだという。中国との往来がストップし、貿易などの仕事が激減。中華料理店など飲食業などが打撃を受けた。そんな中で、努力すれば収入増につながる生保業界で働きたいと考えた人が多く、王さんの支社でもここ数年、急に中国人社員が増えたそうだ。 王さんの顧客は数百人いるが、どのような営業手法を取っているのか。通常なら、学生時代の友人や知人、親戚、地域や以前の勤務先などの知り合いを糸口に営業していく日本人が多いが、王さんの場合は、最初から営業目的で会うことはせず、まず友だちになるところから始めるという。 「生保は一生にかかわる買い物ですし、その人の仕事や家庭、生き方によってプランは異なります。だから、自分のことを信用してもらうことが何よりも大事」だと王さんは考えた。 そのため、在日中国人のほとんどが使っているウィーチャットに生保に関する営業の話は一切書かないと決めている。たまたま知り合って、SNSで繋がっている人に宣伝しても意味がなく、むしろ、SNSで宣伝すると嫌われるからだ。 ただ、ウィーチャットは連絡手段としては非常に有効だと王さんは話す。日本人もXやフェイスブック、インスタグラムなどで繋がっているほうがメールアドレスよりも連絡を取りやすいが、ウィーチャットも同様だ。 筆者の著書でも以前紹介したことがあるが、在日中国人同士のコミュニティはSNSとリアルの両方で構築されていて、それが在日中国人同士のビジネスに相乗効果を生んでいる。 たとえば、中国の大学の日本同窓会、中国の出身地の同郷会、業界の勉強グループ、ゴルフなどの趣味のグループ、同じ団地に暮らす人のグループ、子どもの教育に関する情報共有のグループなどが無数にある。ほかに、在日中国大使館関係、春節時期に行われる東京・上野の「ウエノデ.パンダ春節祭」、東京・代々木で行われるチャイナフェスティバルなどの大掛かりな中国関係のイベントの実行委員会などのグループもある。 これらは、リアルとSNSの両方があり、リアルなイベント、食事会などで顔を合わせる機会があるが、その連絡、出欠などはSNSのグループで行う。まずSNSで知り合い、会合に行ってお互いの顔を見て人柄を知り、そのあとまたSNSを使って、次に個人的に会う約束をしたりするという循環型だ。 王さんの場合も同様で、ウィーチャットだけでは繋がりが薄い人もいるが、リアルに顔を合わせるうちに親しくなり、そこから「生保に興味がある人」を見極め、相談に乗ったりしているうちに顧客獲得につながるという。 在日中国人の半数以上が関東地方に住んでおり、上に書いた以外にもさまざまなコミュニティがあるため、「たくさんのグループに入っていれば、“入り口”は無数にある」と王さんは語る。 王さんが言う“入り口”とは出会いの場のことだ。王さんの顧客は9割が中国人で、残りの1割が日本人だ。むしろ、最近では日本人のほうが営業先の開拓で苦労することもあるのではないかと王さんは感じている。 移民が生保営業を担っていく未来 昔なら、生保会社の女性がオフィスに入ってきて、会社のデスクの上にパンフレットを置いていく、といった自由なことができたが、今ではそういう機会は減少した。オフィスビルに入るには厳しいセキュリティがあるし、飛び込み営業などもしにくい。人間関係が希薄になる日本では、誰かに生保を営業すること自体、ハードルが上がり、難しくなっている。 だが、在日中国人同士の場合は、日本に無数のSNSグループが存在し、出会いの場はむしろ日本人よりも多く、営業がしやすい環境が整っている。王さんによると、最近ではベトナム人の営業部員も増えており、ベトナム人も中国人と同様に、在日ベトナム人のSNSやコミュニティを駆使して営業して、成績がよいそうだ。 王さんだけでなく、中国人の営業担当者の売り上げ成績がよいのは、中国人が生保好きだからなのだろうか。そう王さんにたずねてみると「そうではない」という。 中国では「死」や「病気」についてなど縁起の悪い話は嫌われる傾向があるため、「万が一、病気になったら……」などの表現は禁句だそうだ。それよりも中国人が好む「貯蓄型」を薦めるようにしているという。日本で不動産を購入する中国人が多いが、生保というより貯蓄の感覚で購入する人が多い。また、生保に入っていると税金の控除があることを説明すると興味を示す人が多いそうだ。 ここまで書いてきた通り、生保業界に中国人社員が多いことは日本ではほぼ知られていない事実だ。だが、彼らにしてみれば、周囲に同業の中国人が多いため「中国人同士の顧客の取り合い」もあるそうだが、王さんはそれにはできるだけ関わらないようにしているという。 また、中国人社員が増えていることにより、冒頭に書いた通り、「会社内で中国語禁止」といったことは他の支社でも行われているのか。王さんによると、王さんの支社ではそのようなことはないが、中国人社員の営業成績がよいことで支社全体の売り上げも上がり、支社長は大喜びだという。 ある支社では、顧客に提案する際のプランについて、支社長が中国人に頼み、中国語に翻訳したプランを作成し、社員に配布するといった気配りをしているところもあるそうだ。業界として「中国人が多い」とは大っぴらにいいにくいかもしれないが、王さんは「現実問題として中国人社員が生保会社にかなり貢献していることは確か」だと語ってくれた。 母国にウンザリしている在日中国人が増えている…春節で日本の良さを再認識したワケ

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