近年の住宅価格の高騰とも相まって、「マイホームを買いたいけれど、高くてとても買えそうにない……」「でも老後のことを考えたらずっと賃貸というのも負担が大きそう……」と悩んでいる人も多いのでは。 人生の3大出費のひとつであり、誰にとっても無関係ではいられないのが「住居費」です。住居費とどれだけ賢く付き合えるかが家計の明暗が分かれるといっても過言ではありません。そこで今回は、人生100年時代の住居費との付き合い方を一緒に考えていきましょう。 「持ち家比率」は30年間ほぼ横ばい マイホームを買うべきか、買わずに借りるべきかを考える前に、まずは世の中全体の住宅事情をつかむところから始めていきましょう。 総務省が2024年に発表した「住宅・土地統計調査」によると、日本におけるいわゆる「持ち家」は3,387万6,000戸。これは住宅全体の約60.9%にあたります。 実はこの約60%という「持ち家比率」は1993年から2023年まで30年間、ほぼ横ばい状態にあります。バブル崩壊が始まったとされるのが1991年ですから、マイホームを買う人、買わずに賃貸に住む人の割合はバブル崩壊以降、ほとんど変わっていないということになります。 目の前のお得度は「どっちもどっち」 かれこれ20年以上、ファイナンシャルプランナーとして多くの相談を受けてきましたが、なかでも定番といえるのが「マイホームは買うべきか、それとも買わずにずっと賃貸でいくのがいいのか」という質問です。 どちらが金銭的にお得なのかを試算したいところではあるのですが、マイホームの場合には毎年固定資産税がかかりますし、メンテナンスや修繕も自分で費用して行う必要があります。住宅ローンを組んでいる場合は、変動金利であれば将来、毎月の返済額が増える可能性もありますが、住宅ローン控除を受けられるというメリットもあります。団体信用生命保険(団信)に加入しているのであれば、大黒柱に何かあった場合には残りのローンがまるっと免除されるというのも大きなメリットです。 一方の賃貸は、2年ごとに更新料がかかる場合が多く、昨今のように物価や土地価格が値上がりしている局面では、家賃がアップする可能性もあります。その反面、メンテナンスや修繕にかかる費用は大家さん持ちですし、火災保険料もマイホームより安くてすみます。それぞれにかかる費用や、かからない費用があるため、目の前の住居費だけを見るなら「どっちもどっち」だと考えるのが妥当と言えるでしょう。 老後を考えるとマイホームに軍配が上がる!? しかし、人生100年時代であることを踏まえると、最終的なお得度はマイホームと賃貸とで大きく変わってくるかもしれません。 というのも、ご存じのようにマイホームは住宅ローンさえ完済してしまえば、メンテナンスや修繕、マンションであれば管理費などを除けば、毎月のまとまった住居費はかからなくなります。一方、賃貸の場合、仮に65〜90歳25年間、毎月8万円の家賃がかかるとすると、8万円×12ヵ月×25年=2,400万円です。一般に老後までに最低でも2,000万円必要と言われますが、この試算に含まれている住居費は毎月約1万6,000円しかありません。つまり、賃貸に住み続けるとなると、この2,000万円の老後資金とは別に、住居費としても2,000万円を準備することが必要ということになります。 でも、これはあくまでも健康で長生きし、かつ、マイホームを買った人がそのまま購入したマイホームに住み続けることができればという前提での話です。実際に何歳まで生きるかは誰にも分かりませんし、常時介護が必要になり施設に入居することになるかもしれません。ですから、定年前後に住宅ローンを完済し、その後平均寿命まで生き、ずっとマイホームに住み続ける前提であればマイホームに軍配が上がる可能性が限りなく高いものの、明確な答えを出すのは不可能と言わざるを得ないのです。 一戸建てとマンションはどっちがお得? さて、「マイホームは買うべきか、それとも買わずにずっと賃貸でいくのがいいのか」という問いに続いてよく聞かれるのが、「一戸建てとマンションはどっちがよいのか」という質問です。 参考までにこちらもさきほどの総務省の調査を見てみると、一戸建てが2,931万9,000戸で全体の52.7%、共同住宅(≒マンション)が2,496万8,000戸で全体の44.9%と、一戸建てのほうが割合が若干多くなっています。でも実は、共同住宅の割合は、この30年間で約1.8倍に増加しているのです。特に東京都ではすでに70%以上が共同住宅となっており、今後数十年の間には、全国で見ても一戸建てと共同住宅の割合が逆転する可能性は十分にありそうです。 いずれにしても鍵を握るのは「価値の見極め」 「一戸建てとマンションのどちらがお得なのか」も、「マイホームと賃貸はどちらがお得なのか」という質問と同じぐらい、明確な答えを出すのが難しい質問です。 ただ、私のこれまでの経験からすると、マイホームを買うべきか、買わないべきかの答えを出せずにいる人は多いですが、一戸建てとマンションについては「どうせ買うならやっぱり夢の一戸建て」「絶対にマンションがいい」などとそれぞれの好みや理想のライフスタイルがはっきりしている場合がほとんどです。どちらがお得なのかを左脳で考えるのではなく、自分の好みや理想に素直に従うことが、「住宅」という、人生でもっとも大きな買い物の満足度を高めることにつながります。 とはいえ、マイホームを買う場合に絶対に外してはならないポイントがあります。それは、一戸建てを買うにしても、マンションを買うにしても、鍵を握るのは、その物件の将来の「価値」にしっかり目を向け、見極めるということ。 人生には変化がつきものです。一生住み続けるつもりでマイホームを買ったとしても、いつどのような変化が訪れて売却することになるかはわかりません。そういった場合に、売却価格よりも住宅ローンの残りのほうが多かったのでは売るにも売れません。 価格が高くても結局はお得になるケースも? また、例えば、購入価格が7,000万円の都心に近いマンションを将来6,000万円で売却できた場合と、都心から離れた5,000万円のマンションが将来2,000万円でしか売却できなかった場合を比較すると、7,000万円のマンションのほうが結果的に利便性も高い上、住居費も安くて済むことになります。 一戸建ての場合も然りです。一般的に「一戸建ては土地がついている分、価値が残りやすい」と言われますが、その土地に将来、どのくらいの価値がつきそうかは立地によります。これからさらに活性化していく可能性がある街なのか、高齢化とともに人口が減っていきそうな街なのか、保育園に入りやすいなど子育てがしやすい街なのかなど、街の将来性次第で売却時の価格が大きく違ってくる可能性もあります。 また、木造の場合には建物の価値が下がるスピードが早く、20〜30年でほぼゼロになりますが、コンクリート造の場合には価値の低下が比較的ゆるやかです。将来の価値も見越して考えると「木造のほうが建築コストが安いから」という一択ではなく、多少建築コストが高くてもあえてコンクリート造にするという選択肢も出てくるかもしれません。 人生100年時代の「住居費」との付き合い方 このように考えると、人生100年時代の今は、これまで以上に、長期的な視野を持って「住居費」と付き合っていく必要がある時代といえます。そしてそこには様々な「戦略」ともいうべき選択肢があるのも事実です。 例えば、時短勤務で給与が大きく減るくらいなら、家賃が高くてもあえて職住近接の賃貸マンションに住み、子どもたちが独立してから夫婦2人で住むコンパクトなマンションを買うという選択肢もありますし、価値の落ちにくい都心のマンションを買い、ローンを完済して仕事をリタイアしたら、そのマンションから家賃収入を得つつ、緑豊かな地方でのんびり暮らすという選択肢もあるかもしれません。 どれがお得でどれが損、といった明確な答えがないからこそ、自分や家族のライフスタイルや価値観としっかり向き合い、長期目線で「住居費」と付き合っていくことが大切といえるでしょう。 他人事ではいられない「空き家問題」のリアル