新型コロナウイルスの感染蔓延に対し、政府は担保なし、金利なしの「ゼロゼロ融資」によって資金を供給し、その間企業の倒産は急減した。しかしそんな「あぶく銭」はいつまでも続かない。 時代の変化に応じてビジネスモデルを変えられなかった企業は、円安、資源高、人件費の高騰などに見舞われ、たちまち資金繰りに窮することになった。そしていままた、破産、会社更生法・民事再生法適用など様々な形での倒産が急増している。 60年にわたって「倒産」の現実を取材・分析しつづけてきた日本最高のエキスパート集団が、2021~2024年の最新の倒産事例をレポートした『なぜ倒産 運命の分かれ道』から連載形式で紹介する。 企業倒産のワケ スペイン風邪(1918〜1920年)以来、100年ぶりのパンデミックを引き起こした新型コロナウイルスの感染拡大は、全世界の経済活動に多大な影響を及ぼしました。日本政府は徹底した行動制限を実施する一方で、中小企業を中心にきめ細やかな資金繰り支援を実施し、企業の倒産は大きく減少しました。 2023年5月以降、あらゆる制限が撤廃されて経済活動が本格化し、多方面で供給力を上回る需要の急拡大を伴い、欧米を中心にインフレが加速しました。日本でも同様に物価上昇の流れが続き、バブル経済の崩壊から30数年続いたデフレからの脱却が見え、物価上昇と賃上げの好循環が生まれる経営環境も整いつつあります。 ところが、ここにきて中小・零細規模の企業倒産が増加に転じています。 理由は大きく3つあります。 1つ目は、コロナ禍で打ち出された中小企業向け金融支援が順次、縮小・終了したことです。約45兆円にのぼる政府系・民間金融機関による実質無利子・無担保融資、いわゆるゼロ・ゼロ融資が実行されたほか、休業補償を目的とした各種補助金、助成金などの手厚いサポートに支えられてきましたが、売り上げが回復せず、返済計画の作成もままならず行き詰まる企業が増えています。 コロナ禍がなければ破綻していた可能性のある企業も一連の金融支援策で息継ぎできていた状況でしたが、業績は改善しないまま手元資金を使い果たしたケースが目立っています。 物価高に人手不足 2つ目の理由は、資金繰り支援がほぼ終了するのと同じタイミングで本格化した、物価高の影響による企業収益の悪化が挙げられます。 2022年のロシアによるウクライナ侵攻を機に、小麦粉、食用油などの世界的な需給が逼迫。半導体不足等の影響を受けていた製造業のみならず、食品をはじめ幅広い分野でインフレ圧力が高まりました。日本は欧米に比べて物価上昇は緩やかですが、アメリカの政策金利引き上げによる金利差の拡大で円安が進行し、輸入物価の上昇が国内産業に悪影響を及ぼしました。緩やかに賃上げが進んだとはいえ、物価上昇のペースに十分に追いついていないため、素材・原材料価格の上昇に対して価格転嫁が進まず、収益の改善しない企業が行き詰まってきているのです。 3つ目の要因は人手不足です。生産労働人口の減少が加速度的に進むなか、賃上げできずに人材が流出し、事業継続を断念するケースが目立ちます。経営者の高齢化が進む中での「後継者不足」も倒産の要因としてクローズアップされています。アフターコロナ入りしてからの倒産増加は、2008年のリーマン・ショックに端を発した世界的な需要消失による「不況型倒産」とは異なり、資金面、人材確保の面で企業間格差を広げ、企業倒産の増加がさらに加速しそうな気配です。 帝国データバンク 情報統括部長 藤井俊 『企業が倒産するリスクは常にある…帝国データバンクが分析する「諸行無常」を想起させる企業の経営事例とは』へ続く。 【つづきを読む】企業が倒産するリスクは常にある…帝国データバンクが分析する「諸行無常」を想起させる企業の経営事例とは