アメリカで広まる「労働者はAIに道を譲りなさい」の衝撃…“ホワイトカラー”から置き換えられるとの声も

どんな人間も他の人間に置き換えられる  5月11日のウォールストリートジャーナル電子版に「人間不要論」とでもいうべき記事が登場し、驚愕した。タイトルは「誰でも代替可能 上司が労働者に対する新しい考え方 ——自らを成長させ、文句はやめなさい、そしてAIに道を譲りなさい。CEOたちはもはや従業員を才能として称えなくなっている」だ。 【画像】“生成AI”イラストに猛反発 AI反対派がイラストを採用した側に送りつけてきた過激なメッセージの中身  これを読んでいくと、昨今散々言われてきた「AIに職を取られる」や「無能は去れ」といった考えがアメリカで勃興し、「従業員は宝」という考え方が古臭いものになっていることが分かる。この流れは将来的に日本にもやってくるだろう。 急速に身近になりつつあるA I  記事のポイントが3つにまとまっているが、【1】不安定な経済状況と、様々な力関係が変化する中、企業が従業員に求めるものは増大している【2】CEOの中には、従業員にもっと働くことと、文句を少なくすることを求める厳しい姿勢を取る者も出てきた【3】AIの進化で仕事のやり方は変化しており、トップの中には従業員に対し、そのやり方に対応するか、仕事を失うか、と選択を迫る者も現れ始めた。  最近まで“従業員は褒め称えるべき存在で大切にされる傾向があった”と述べたうえで、昨今は環境が変化したと説明。たとえば、一定の年数勤務した報酬としての休暇「サバティカル」を取れる権利がかつては勤続5年だったのを、8年に変更する会社も登場。自分の仕事がAIに置き換えられないと証明する必要性や、トランプ大統領が「どんな人間も別の人間に置き換えられる」と発言したことなども紹介された。 結局A Iでいいのでは  私は現在のトレンドを語り合う会議に2週間に1回参加しているが、ここ1年ほど、AIの話が出ない回はない。自分の仕事が置き換えられることを心配する声や、AIをいかに使うか、いかに的確な指示を出すかが重要だ、といった話に毎度なる。  つい最近まで、自動運転の影響が直撃するタクシー運転手やバス運転手などが、AIの進化によってなくなる職業として挙げられていたが、実際はホワイトカラーの方がAIに取って代わられる状況にあると記事では説明されている。だからこそAIを上回る価値を人間は生み出さなくてはいけないのだが、会議でもこんな話になる。参加者は広告業界の関係者が中心で、あとはメディア業界人だ。 「最近、『日本 経済成長』などとグーグル検索をすると、一番上にAIが読み込んだ文章が出てくる。この内容は検索の1番目に含まれる内容を含め、よくある回答がミックスされたものになっているが、これだけ見ておけば事足りる」と言う人がいる。  これに対しては、「まぁ、そうだけど、その一つだけの情報で企画書にその文言を入れ込むのは信ぴょう性が足りないので他のソースも見て人間が総合的に判断すべきでは」と、慎重かつ人間の存在意義を信じたい人が意見を述べる。するとこう来る。 「だったら、AIの出した回答をChatGPTに入れて、『もっと別のソースも含めてまとめてください。あと、データとしては、最新のものにしてください』とか指示をすれば精度が上がるから結局AIに頼っておけばいいのではないでしょうか」 ポジティブな話も紹介  さらに、会議ではSEO(検索エンジン最適化)についての議論にもなる。元々グーグルの1ページ目にいかに自社コンテンツが入るかの勝負をし、SEOの達人のような人物が重宝されたが、今やAIに選ばれるようなコンテンツをいかに作れるか、AIのアルゴリズムをどう解明するかの勝負になっているのでは、という話になった。  このように、AIをめぐる議論は、常に自分が本当に必要な人材かどうか不安になる要素を備えているのだ。では、これから先、どんな仕事が生き残れるのかといえば、建設業、配管工、電気・設備工事、ガラス屋、左官工、ブランド野菜・果物農家といったところが挙げられた。  ウォールストリートジャーナルの記事は結びの方で、スタンフォード大学のチャールズ・オライリー教授(労働管理が専門)の「市場環境が変われば仕事の機会は十分なものになる。そんな時、CEOたちは従業員がいかに重要かを語るようになり、従業員にとっては有利な状況が来る」とポジティブな話を紹介。 どんでん返し  しかし、記事の締めとして最後に再びどんでん返しが来る。HingeやTinder等のマッチングアプリを運営するマッチグループのスペンサー・ラスコフCEOが投資家にした話だ。同氏は、マネジャークラスの階級を少なくし、5人に1人を解雇すると説明したというのだ。アメリカで起こっていることは対岸の火事ではない。日産も世界で2万人を削減すると発表した。  それでも、人間は新たなテクノロジーが登場した後もなんとか仕事は作ってきた。かつて広告会社には、企画書をMacintoshのPCできれいに書き直してくれる「Mac屋さん」が存在した。1人1台のPCが付与されるようになり、彼らは姿を消した。ネットのファイル転送サービスの発展でバイク便の仕事も激減している。だが、Mac屋さんもバイク便のライダーも、その後、生き延びるために別の何かをしたはずである。  今は慌てず、オライリー教授のようにドンと構えておいた方が日々の仕事をするにあたりビクビクしないで済むだろう。 中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう) 1973(昭和48)年東京都生まれ、佐賀県唐津市在住のネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』『よくも言ってくれたよな』。最新刊は『過剰反応な人たち』(新潮新書)。 デイリー新潮編集部

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