2025年3月25日、旧統一教会に対して東京地方裁判所から解散命令の決定が出た。これは、長年にわたって起こり続けてきた悪質な霊感商法や高額献金などの被害は、教団の組織ぐるみで生み出されたことが司法の場で認められたことを意味する。 旧統一教会の信者だった筆者は、かつて教団が作成したマニュアルに基づいて、布教や高額商品販売の勧誘を行ってきた。【前編】では、布教のマニュアルについて記した。【後編】では、高額商品販売のマニュアルについて詳述する。記事中の筆者の指摘についての旧統一教会の回答も記載する。 【前後編の後編】 【多田文明/ジャーナリスト】 *** 【証拠写真】「統一教会」布教&高額商品販売マニュアル 勝利のポイント 壺や多宝塔といった商品は、私の信者時代(1987〜1996年)には、霊感商法の象徴として大きな問題になっていたので、着物や宝石、絵画などの高額商品にかえて販売するようになっていた。 旧統一教会の田中富広会長 月に一度、教団の関連団体が行う展示会がホテルなどの一室で行われ、そこにゲストを呼び込み、数十万、数百万円の商品を売りつける。 この時も、布教の際と同じようなマニュアルがあり、それをもとに販売活動をしていた。「勝利する為に」と題されたマニュアルは、タワー室(スタッフのいる部屋)と展示会場とを分け、タワー室は「霊界」で、会場は「地上界」と書かれている。ここを行き来しながら効率よく高額商品を契約させるように指示している。 「勝利のポイント」というマニュアルには布教の時と同じ、頂点に神の立場としての「タワー」があり、左下に「AD(商品説明アドバイザー)」(メシヤ)、右下には「担当者」(洗礼ヨハネ)、最下層に「ゲスト」と、まったく同じ図が書かれている。ちなみに、この図を教団用語で「天的四位基台」という。 話すべきこと 末端の信者にはゲストを展示会に連れ込む際に、相手の気持ちを購入へと確実に向けさせるために、話すべきことが指示されている。 「1. 招待制になっている」 「2. 時間が2〜3時間かかる」 「3. アドバイザーが説明してくれる」 「4. 私も買った。(すばらしい説明で見方がかわった)」 「5. 買ったらいいですね」 「招待制になっている」は、「あなただから特別に招かれた」という意識を植え付けるため、契約締結までにはある程度の時間が必要なので「2〜3時間」はあけておくように指示する。 ゲストを会場に連れ込んだら、アドバイザーといわれる人が、商品の説明や契約の話をするが、担当者はそれをサポートして買わせるように役割分担されており、自分が買っていなくても「私も買ってよかった」というウソの話をさせる。 契約のクロージングでは、「買ったらいい」と第三者目線でプッシュする。この他にも、ゲストを連れ込む際の動員チェック表には「本人の支払い能力」や、どのような宝石(ダイヤモンドなど)をもっているかの項目もあり、事前に財産状況を把握することにも余念がない。 このように、お金集めの活動の際にも、布教と同じようなマニュアルが存在していた。 元信者の証言 実は、それぞれの役割分担を明確にして契約させる手法は、現在の悪質なマルチ商法でも使われており、契約をさせるのに、非常に効率の良い手法なのかがわかる。それゆえに、多くの人が断り切れずに、多額のお金を出させられて、甚大な被害を生むことになったのだ。 信者を増やす布教活動は、教団にとって神の国実現のために絶対に行わなくてはならないことであり、2025年4月13日に、総工費500億円とも言われる「天苑宮」が韓国の加平にオープンして式典が行われたことからもわかるように、今も、人とお金集めの活動は続いている。 教団は、2009年のコンプライアンス宣言で「教団名を告げない形での布教はしない」としているが、取材のなかで、宣言以後も教団名を隠した伝道は続けられていたことがわかっている。 2023年に行われた、旧統一教会問題の国対ヒアリングのなかで、70代の元信者のAさん、Bさんが証言している。 Aさんは、2014年2月頃に統一教会とかかわり、2022年に脱会した。入信のきっかけは、統一教会だと身元を明かさずに一人の女性が尋ねてきたことだという。「家庭が幸せになるセミナーがあるのできてみませんか?」と誘われて信者となり、献金や物品購入で2500万円以上を払い、被害に遭っている。 1700万円以上の被害 Bさんも、2014年3月から統一教会とかかわり、2022年に脱会したが、「ある日、統一教会だと名乗らない女性が訪問してきて『悩み事、心配事はないですか?』と聞かれたので、二人の子供の結婚を願っていると話すと『家庭が幸せになる良い話がある』と誘われました。そこでは、子供たちが結婚して幸せな家庭を築くためには、まず霊界で苦しむ先祖の恨みをとく必要があると教えられました」と話しており、その後に1700万円以上を支払い被害に遭った。 特に1世信者はこの手法が染みついており、今後も教義に基づいたマニュアルの骨組みをもとにした形で、多くの人たちに対して組織的な勧誘を仕掛けて、多額のお金を出させる可能性は十分にあるといえる。 現在、高等裁判所に解散命令の審理は移っているが、マニュアルの存在や、元信者らの陳述書などを通じて、韓国本部の指示を受けた日本の教団が、組織ぐるみで布教やお金集めの活動をしてきたことは紛れもない事実であることがわかる。「信者らが勝手にやった」という詭弁はやめて、被害を与えた社会の前でしっかりと謝罪することが求められている。 【前編】では、布教のマニュアルについて記している。 *** 上記のマニュアルについて、旧統一教会に質問したところ、以下の回答が来た。 「当法人が公式的に作成したマニュアルはありません。当法人の信者個人が自らの経験に基づいて、伝道活動を行う新人の指導のため、そうした資料を作成した可能性はありますが、当法人は所持していません。一方、『着物や絵画などの高額商品の販売手法についてのマニュアル』について、当法人は物品販売等の収益事業は一切行っておらず、そうしたマニュアルを作成したことはありません」 教団名を告げない形での布教が、コンプライアンス宣言後も続いているのではないか、との指摘については、 「2009年のコンプライアンス宣言以降、当法人は教会施設での勧誘は当然のこと、信者らが自主運営するビデオ受講施設等においても、教育内容に当法人の教義(統一原理)を用いる場合、勧誘の当初からその旨を明示することを強く指導してきました。当法人は、そうした指導が順守されてきたものと考えています。なお、当法人に対して文部科学省が申し立てた解散命令請求に関し、同省が裁判所に証拠として提出した元信者らの陳述書の中に虚偽事実の捏造が複数含まれていることが発覚しています。貴誌が指摘する国対ヒアリング等における元信者の『証言』についても、精査すれば事実と異なることが多々あると思われます。元信者の『証言』を鵜呑みにするのではなく、客観的な事実を究明することが何よりも重要であると思料します」 多田文明(ただ・ふみあき) ジャーナリスト 2000年代よりルポライターとして悪徳業者の勧誘にのり、潜入取材してきた。それをもとに、著書『キャッチセールス潜入ルポ〜ついていったらこうなった』(彩図社)を出版して、テレビ番組化された。詐欺・悪質商法に詳しい犯罪ジャーナリストとして活動。1987年から約9年間、旧統一教会の信者だった経験をもとに、教団の被害実態についての取材を続けている。近著に『信じる者は、ダマされる。』(清談社Publico)、『人の心を操る 悪の心理テクニック」(イーストプレス)。電子書籍として『元信者が告発 統一教会解散命令の真実 政治の不作為がもたらした40年の闇』(CLAP)がある。 デイリー新潮編集部