「インターネットに耽溺し、殺人・解体願望が…」 スポーツ万能、成績優秀だった会津若松「17歳少年」は、なぜ実母の頭部を切断したのか

 2007年の5月15日、福島県会津若松市で、日本中を震撼させる事件が発生した。当時高校3年生、17歳の少年が実母を殺害、首を切断し、それを持参して警察に出頭。右腕も切断し、白色の塗料で着色、室内の植木鉢に挿していた。しかも、指は円のマークを形作っていた——異様過ぎる猟奇犯罪である。しかもその日は、母の誕生日でもあった。後に少年のアパートからは、残虐な本やマンガが押収されている。犯行の理由は「誰でもいいから殺したかった」。  事件発生当時、「週刊新潮」では、少年の周辺に取材し、その人物像を探っている。その後の報道も合わせ、狂気の原点を探ってみよう。【前編】では、犯行の詳細を記した。【後編】では、少年の来歴を詳報する。 【前後編の後編】 (「週刊新潮」2007年5月24日号記事の再録です。文中の年齢、役職、年代表記等は当時のものです)  *** 【写真を見る】実母を殺めた少年、そして被害者となった母親の素顔 ハキハキして気持ちの良い子  少年の心には、いったいどんな闇があったのか。 凶器となったのこぎり(写真はイメージです)  殺された母親は、2006年4月から福島県内の自宅近くの保育所に勤務。事件前日も普段通り、朝から午後6時半頃まで働いていた。おそらくは、仕事を終えた後に会津若松市内の少年のアパートを訪れたのだろう。実家には、地元の団体に勤める父親(50)と共に、父方の祖父母、少年の末の弟がいる。 「こんな事件を起こすなんて……。信じられません。すごくいい子だったという印象しかないんです」  そう話すのは、実家の近所の住民である。 「中学までしか知りませんが、私の家の前を通る度に“おはようございます”と挨拶してくれるんです。彼の弟2人もそう。みんなハキハキしていて気持ちの良い子でしたね」 スポーツ万能  少年はスポーツ万能で、幼い頃から地元のスキースポーツ少年団に所属していた。同少年団の関係者がいう。 「クロスカントリーなど様々な種目をやっていましたが、中学に入ってからは、ジャンプを中心に練習していました。少年団の中でも、ジャンプは選ばれた少年しか出来ない種目です。中学1年の時には、県大会で4位に入っています。がっちりしていて、いつもスポーツ刈りにしており、問題を起こしたこともない」 線が細くて  スポーツだけでなく、勉強も出来たという少年は中学卒業後、実家を出て会津若松市の名門進学校に入学した。同校の関係者が語る。 「もの静かで大人しい生徒でした。成績は中の上。数学が得意で科学部に所属していました。2年からは理系のクラスに進み、将来は国公立大学でコンピュータ関連のことを学びたいと考えていたようです」  1、2年時から頭痛や腹痛を訴えて学校を休むことはあった。2年時の修学旅行も不参加だった。そして、 「3年になった今年、始業式は4月9日だったのですが、それから事件まで5日しか学校に来ていません。担任が母親に連絡をすると“偏頭痛がするから休む”と本人が言っているとのことでした。決まった主治医がいたようで、母親は、5月9日か10日に、病院に行くと話していました」(同)  実際、母親は少年を連れて市内の精神科を受診している。  少年の母親の知人もこう話す。 「去年の冬、彼の末の弟さんの中学の行事があったのですが、お母さんは参加していませんでした。後で“どうしたの”って聞いたら、“長男が線が細くて、週末は一緒にいてやらないとダメなの”と話していました」 “引きこもり”に “ある不幸な事件”が事件の年の2月7日に起こっている。少年の実家近辺で、雪解けの影響と見られる土砂崩れが発生。実家が半壊してしまったのだ。幸い、死者は出なかったものの、 「(少年の)家は柱も折れ、それは酷い状態でした。辺り一帯の家がやられ、災害以降、十数軒が避難し、今なお仮設住宅で暮らしている住民もいます。少年の一家は、ちょっと離れたところの空き家を借り、そこで生活をしていました」(実家の近所に住む男性)  また、高校の同級生の証言によれば、 「昨年の夏祭りで、彼が舞台作りのアルバイトをしたとき、爪や髪が汚らしく伸び放題になっていました。どうやら“引きこもり”になっていたようなのです」  少年には一人の友人もなく、学校で会話を交わすことすらなかったという。  ***  事件後、家裁に送られた少年には、精神鑑定が実施された。そして、事件から10カ月が過ぎた2008年2月6日、医療少年院に送致されることが決定した。裁判長は「完全責任能力」を認めつつも、「比較的軽度なある種の精神障害があり」「再犯の危険性を減ずるには治療と教育が必要」と判断し、犯行の全容について、以下のように記している。 <少年はその問題性にもかかわらず、高い知的水準や運動能力を有しており、周囲から問題のない子として受け入れられ、母をはじめ周囲の大人による必要適切な介入を得られなかった。むしろ、少年は、中学2、3年生ころ、他者と距離を置き、表面的な反応で周囲からの刺激を回避できるようになり、問題性改善の機会をますます失った。  少年は、このころから対人技術の不全から来る不満等を発散させるため、視覚刺激のある死体写真や猟奇的漫画に接して興奮し、それが限局された興味の対象へ特化して、少年の中に殺人・解体願望が芽吹くようになった。少年は、高校進学による環境の変化の中で、その対人技術の不全などから友人を作ることに挫折した上、自己評価を低めていき、不満や寂しさなどを発散する場として、ますます、殺人・解体の空想に傾倒していった。  さらに、少年は、インターネットに耽溺(たんでき)するようになって、他者との現実的な接触のない昼夜逆転の生活を送るようになってしまい、最終的には不登校になった。そしてこのような生活は、少年の視覚刺激に対する興奮を一段と高め、情性の希薄さや共感性の乏しさを更に際立たせるとともに、少年は、将来への不安などから自棄的な気持ちを強めていった。  これらの要因が重なり合い、本件非行当時には、少年の中において、そのあらゆる不満、不安などのはけ口としての殺人・解体願望は飛躍的に高まり、ついには臨界点を越え、少年は本件非行に至った>  それから18年。少年は社会に復帰していることだろう。彼の闇は果たして消えたのか。そして、母を悼む気持ちは芽生えているのだろうか。今年で少年は36歳の年を迎えている。 【前編】では、犯行の詳細を記している。 デイリー新潮編集部

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