国民民主と維新、参院選候補者は熟慮して決めた? いつか見た名前が並ぶのは人材不足か有権者が「舐めプ」されているのか

 2025年7月に行われる予定の参議院議員選挙の立候補予定者が明るみに出るたびに、SNSでは賛否の声が飛び交っている。政権交代を実現してほしいという期待の声、意見の相違よりも知名度なのかという批判など、さまざまだ。選挙と政治の取材を続けているライターの小川裕夫氏が、国政の議席数減に悩む日本維新の会と、勢いにのっている国民民主党、与党である自由民主党が共通する「悩み」と、「舐めプ」な思惑への警戒についてレポートする。 【写真】有権者が「舐めプ」されている?「またこの人?」という候補者たち  * * *  2024年10月15日に投開票された衆議院議員選挙は自民党・公明党が大敗を喫し、衆議院で過半数割れとなった。それまで自民党と公明党の与党だけで法案を成立させることができたが、選挙後は他党の協力なしで成立させられなくなった。  国民民主党は「対決より解決」を謳い文句に支持率を伸ばし、衆院選では議席を4倍にまで増やした。そのため、永田町では自民党と公明党が国民民主党を与党陣営に引き入れようという話が絶えない。  衆院選で議席を4倍に増やした国民民主党が躍進し、勢いを感じさせることは事実だろう。しかし、議席数は28と多くはない。一方、野党第一党の立憲民主党は衆院選で98から148と50も議席を増やした。数字だけを見れば、立憲民主党の方が議席数を増やしている。  そのほか、れいわ新選組が3から9、参政党が1から3へと増やし、国政選挙に初挑戦した日本保守党も3議席を獲得した。  野党全体が大幅に議席を増やす中、野党で一人負け状態だったのが日本維新の会(維新)だ。与党大逆風にも関わらず、維新は議席を44から38へと減らした。それでも国民民主党よりも現有議席は多いのだ。 議員という職にしがみついている?  日本維新の会は紆余曲折を経ているものの、そのルーツは橋下徹大阪府知事(当時)が2010年に松井一郎氏や自民党大阪府連の議員たちともに立ち上げた地域政党の大阪維新の会だ。橋下府知事の強烈なキャラクターが人気を呼び、大阪維新の会および後継政党は大阪で絶大な支持を得てきた。その人気は橋下氏の後を引き継いだ松井氏にトップが交代しても変わらなかった。いや、むしろ高まっていたと言っていい。  その松井氏も2023年に大阪市長を退任して政界を引退。それでも維新は大阪で無類の強さを見せ、翌2024年の衆院選で大阪府内19の全小選挙区で全勝した。そのほか、滋賀県・京都府・広島県・福岡県の小選挙区で1ずつ当選者を輩出している。  この結果だけだと、維新は勢力を拡大しているように見えるだろう。しかし、滋賀県以東に目を向けると、小選挙区で当選者を出していない。以前から維新は大阪色が強すぎるので、東京をはじめ全国は通用しないと指摘されてきた。2024衆院選では、それが改めて浮き彫りになった格好だ。  そうした背景もあり、維新は関東圏での勢力の拡大にリソースを注ぎ込んできた。2024衆院選で参議院議員の音喜多氏を衆議院へと鞍替えさせてまで擁立したのは本人の野心もあっただろうが、東京圏での勢力を拡大したいという党利があったことは否めない。  今夏の参院選で、維新は音喜多駿氏を再び東京選挙区から擁立することを発表した。  議員の出処進退は本人の政治信条に基づくものだから、本来なら外野からあれこれ言われる筋合いはない。しかし、参議院から衆議院に鞍替えして落選。それから1年も経たずに参議院選へ立候補するという行動は節操がない。有権者からは、議員という職にしがみついていると受け止められても仕方がないだろう。  身を切る改革を強く打ち出す維新が、議員の職に固執するかのように映る候補者を擁立する。それに違和感を抱く有権者もいるだろう。維新内部でも異論が出たともいわれる。  維新は2022参院選で海老沢由紀氏を東京選挙区で擁立した。当選はできなかったが、最下位で当選した山本太郎議員に約3万5000票に迫る大健闘をしている。それを考慮すれば、再び海老沢氏を出馬させる案も検討されただろうし、ほかの候補者を擁立するという選択肢もあったはずだが、それでも音喜多駿氏を擁立した。そのあたりに、維新が人材不足に陥っていることを感じさせる。 候補者の選定・擁立に対して時間をかけて熟慮した形跡は?  人材不足感は、勢いを増す国民民主党にも見て取れる。国民民主党は参院選の全国比例に元維新議員だった足立康史氏と旧民進党で政調会長を務めた山尾(菅野)志桜里氏、さらに2019年の参院選で立憲民主党から全国比例で出馬して当選した須藤元気氏の擁立を発表した。これには長らく国民民主党を支持してきた有権者から疑問の声が聞こえてくる。  勢力拡大を急ぐ国民民主党が、多くの候補者を擁立して議席数を増やしたいことは理解できる。2024衆院選では名簿に記載された候補者が足りず、他党に3名分の議席を譲ってしまった。それは、せっかく有権者が投じてくれた一票を無駄にしたことを意味する。今回の参院選で、そうした事態は避けたい。  立憲も参議院議員を辞職して2024年の東京都知事選挙に臨んだ蓮舫氏を擁立するとの報道が流れた。報道が出た際、国民民主党の榛葉賀津也幹事長は「帰ってくるのはウルトラマンと蓮舫さん」と揶揄したが、その批判は国民民主党にもブーメランとして跳ね返ってきている。ちなみに、蓮舫氏の擁立報道が出たものの、今のところ立憲民主党から正式な発表はない。  維新や国民民主党が何も考えずに候補者を擁立しているわけではないだろうが、参院選が今夏に実施されることは以前から誰もがわかっていた。だから、衆院選直後からその準備を始めることができたはずだ。それにもかかわらず、両党の候補者の選定・擁立に対して、時間をかけて熟慮した形跡を感じさせない。  筆者は、これまで20年にわたって永田町を取材してきた。山尾志桜里氏が一年生議員だった頃に事業仕分けで舌鋒鋭く追及していた姿も、民進党の政調会長として時の人になった際にも取材をしている。  須藤氏についても、初登院時の姿や立憲執行部の意向に反して離党してれいわ新選組の街頭演説に登壇したこと、さらに東京15区の補選でも取材している。先述した維新から立候補予定の音喜多氏についても、東京都議時代から繰り返し街頭演説を取材してきた。  これらの議員のほかにも、落選して再起を図ろうと奮闘する元議員は何人も取材している。そうした多くの国会議員になりたいと考える人たちを見てきて、なにがなんでもバッジをつけたいという気持ちになることは理解できなくはない。  そもそもバッジがなければ、予算審議にも法案採決にも加わることはできないのだから、議員と非議員では持てる権限は天と地ほど違う。何はともあれ、議員にならなければ自分が求める政治を始められない。政治家を志すからには、少なからず野心も必要だろう。  とはいえ、そういった「とにかく議員になりたい」という私心を全面的に出されると、有権者は興醒めしてしまう。 政党の思惑  本来、選挙は政策競争でなければならないが、昨今の選挙は知名度競争に傾斜している。特に参院選の全国比例は知名度が物を言うだけに、その傾向が強くある。2022年の参院選でもタレント候補が当選し、「有名人というだけで当選した。国会議員として活躍は期待できない」と落胆した人は少なくない。  また、人(候補者)よりも政党で票を入れる風潮も根強い。与党だから、野党だから、はたまた維新だから、国民民主だからと政党名だけで盲信的に投票するなら、これまでの政治を支配していた組織票・団体票と変わらない。  これは維新や国民民主だけの話ではなく、与野党を問わず全政党に言える。1955年から長らく続いた与党2:野党1の構図による政治体制である「55年体制」が1993年に崩れる前後から、自民党は常に人材不足と言われてきた。一方、自民党以外では野党第一党が「政権担当能力がない」と批判されることはあったが、野党第2党、第3党の政党をそうした批判を受けることが少なかった。  自民党が支持率を急落させて政権担当能力が揺らいでいる今、野党への期待は高まる。それだけに野党第一党の立憲民主党はもちろんのこと、維新、国民民主党といった野党第2党・第3党にも期待が高まり、それに伴って優秀な人材が求められるはずだ。それにもかかわらず、維新も国民民主もこれまでの人を出そうとする。  ここで各候補者の評価はしないが、有権者や支持者から候補者の選定が雑ではないか?」と疑念を抱かれても仕方がないだろう。また、とりあえず候補者を擁立すれば票を入れてもらえると各党の執行部が思っているとしたら、それは舐めプ(=有権者を舐めた態度や行動)として厳しく批判されなければならない。  勢いに乗っている政党といえども、その人気はいずれ衰える。だから党勢があるうちに議席数を増やしたいという気持ちが強く、候補者の数をとにかく揃えようとする。新たな人材を探している時間を割くよりも、政治経験がある人をだそうとする。そうした横着は、期待を高める有権者の気持ちを踏み躙るものにならないだろうか?  今、有権者に問われているのは、政党の思惑を見極めることだろう。そして、政党に求められていることは時間をかけて候補者の選定に取り組み、有権者に納得して一票を投じてもらうことだろう。

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