5月23日(金)に放送した「ガイアの夜明け」(毎週金曜夜10時)のテーマは、「マイナカード狂騒曲」。 【動画】マイナンバーカード本格運用で浮き彫りになる光と影…医療現場の反発、救急の課題とは? 2016年1月より順次交付が始まった、マイナンバーカード。マイナンバーを証明する書類としてだけでなく、社会保障や税金、そして災害時の対応といった行政全般に関するデジタル運用、効率化を企図したものだ。 今年4月現在、全国で保有率は78パーセントに上る(総務省調べ)言わば一大国家プロジェクトだが、一時、個人情報のひも付け間違いが原因でトラブルが多発するなど、新たなシステムに対応できない一幕も。 そのマイナンバーカードが2025年に入り、いよいよ本格運用されるようになる。マイナ保険証、マイナ救急、そしてマイナ免許証…。デジタル時代の新ツールは、私たちの生活、そして経済にどのような影響をもたらすのか? 混乱なく活用することはできるのか? 最前線で取り組む人々の奮闘を取材した。 前市長が強硬に反対!名古屋市は遅れを取り戻せるか!? 2016年1月に交付が始まったマイナンバーカードは、国民の78パーセントが保有している。各所のデータベースとひも付けすることで、さまざまなサービスが利用可能に。 同じタイミングで、役所へ行かずに証明書を取得できる「コンビニ交付」も開始。 2025年5月現在、全国の約8割の市区町村が導入しているが、政令指定都市で唯一、名古屋市だけが対応していない。 前名古屋市長 河村たかし衆議院議員は、コンビニ交付だけでなく、マイナンバー制度そのものに反対してきた。「人に番号をつけてそれを管理して、自分の意見を言わないようになる。お金だけで言っても、コンビニで(証明書を)出せるようにするのに1億〜3億円ぐらいかかる」と話す。 しかし、4月中旬に番組が名古屋市役所を訪ねると、2027年1月のコンビニ交付導入に向けて、職員たちが動き出していた。 10年近い遅れを取り戻そうと調整に追われるのは、地域振興部住民課の村松宏樹さん。村松さんは「名古屋市として導入できていない現状は非常に歯がゆい。全力を尽くしていく」と話す。 マイナ保険証への一本化に医師たちが反対!医療現場に負担も… 一方、マイナカードの活用に反対する人たちもいる。去年12月1日、全国から多くの医師が集まり、両国駅(東京・墨田区)の前で街頭宣伝を行った。医師たちはマイナ保険証の一本化に猛反発し、「(今の)保険証が悪いことしましたか? 不便なことはありましたか?」「マイナ保険証が保険証として使えなかったらどうする? この時に役に立つのが今の保険証」と熱弁する。 しかし、町の病院を取材すると、マイナ保険証のメリットを感じている患者も。 「別のお医者さんに診てもらう時もちゃんと情報が伝わる。『この薬を一緒に飲んでもいい』という話も、(病院側が)見てくれる」「自分の今までの経過が(病院側に)分かるので安心」。 2021年10月から本格的に運用を開始したマイナ保険証。保険証の一本化には依然として消極的な声が多いが、3月からは運転免許証としても利用でき、4月には複数の銀行口座と一度にひも付けすることも可能に。今後はiPhoneにもカードの機能が搭載される予定だ。 賛否両論あるマイナ保険証だが、導入した政府の狙いは「マイナンバーカードを保険証代わりに使うことで、患者さんが受けられる医療の質が上がる。問診で患者さんにこれまでの受診歴を伺うよりも、実際のデータで出てくる」(河野太郎デジタル大臣 当時)。 受診歴や薬などのデータが病院や薬局に共有されることで、早くて正確な治療が受けられるというのだ。 マイナで“救える命”がある…救急隊に密着! 神奈川・平塚市にある総合病院「平塚共済病院」。この日、道路で倒れていたという男性が緊急搬送されてきた。しかし、男性は身元が分かるものをなにも所持しておらず、持病や薬に関する情報を手にいれる手段がなかった。医者はどのような処置をしたら良いのか分からず困り果てていたのだ。 30分後、ようやく男性の家族と連絡がつき、すぐ近くの平塚市民病院にデータがあることが判明。今回は事なきを得たが、このように時間をロスすることで状況が悪化してしまうこともあるという。 実は今、こうした救急の現場でマイナ保険証を活用する試みが始まっている。 その名も「マイナ救急」。救急隊専用のタブレットにマイナカードを差し込むと、名前や年齢などの基本情報はもちろん、受診歴や処方された薬、健康診断の結果まで、情報が一目で分かるシステムだ。 「川口市東消防署」(埼玉・川口市)。 救急隊員たちにマイナ救急の意義を体感してもらうため、各地の消防本部を回っている、消防庁 救急企画室の安藤 陽さんがやってきていた。 救急車が到着してから搬送先の病院に連絡するまでをシミュレーションをし、マイナ保険証がある場合とない場合で、かかった時間を比べようというのだ。 意識不明の患者と付き添いの家族が1人という設定でシミュレーションが始まるが、マイナ保険証がない場合、家族に処方薬や病歴の情報を聞かなければならないため、6分28秒かかった。 一方、マイナ保険証がある場合、「かかりつけ病院・既往歴・普段の血圧」などをマイナ保険証の情報からすぐに確認できた。搬送先の病院に連絡するまでにかかった時間は…4分34秒。約2分の時間短縮となった。 「救急現場は1分1秒で命の危険が大きく左右されるので、2分というのはすごく大きな意義がある」(安藤さん)。 政府はこの取り組みを2025年秋にも開始すると発表。4月から順次、全国720の消防本部で実証事業が始まっている。 「マイナ救急」平塚市 全国で最も早く実証事業を開始 現場で見えた課題とは このマイナ救急を、日本一早く導入するのが神奈川・平塚市。番組が「平塚市消防署本署」の訓練室を訪ねると、マイナ救急のレクチャーを受けるべく、専用タブレットを手にした隊員たちが集まっていた。 指導役は、平塚市消防本部 消防救急課の宇佐美雅史さん(40)。2021年から22年まで消防庁に出向し、マイナ救急の企画立案に携わった経験を買われ、抜擢された。 宇佐美さんは「患者さんから聴取できなかった情報はたくさんある。(その情報を)速やかに救急隊が得られるのは、有用性が高い」と話す。 4月1日、実証事業初日。訪ねたのは、救急要請が集まる消防司令センター。 119番通報を受けた際に、マイナカードの用意を促すなど、徹底していた。 しかし、この日救急要請を受けたうち、マイナンバーを携帯していた人はほとんどいなかった。 一方、救急隊ではマイナカードを患者から受け取り、タブレットに読み込むものの、画面にはエラーが。実はマイナカードに、保険証のひも付けがされていなかったのだ。 実証事業初日は、マイナカードを携帯していない、していても紐付けができていないなどの課題が見つかった。 4月下旬、実証事業を始めて3週間が経過した平塚市。この日、救急要請があったのは、激しい腰痛で立てなくなった一人暮らしの女性だ。女性宅を訪れたケアマネージャーが救急車を呼んだ。救急隊員が呼びかけるが、認知症があるようではっきりと答えることができない。この女性はマイナ保険証を持っていたため、タブレットで情報を読み取ると、すぐにかかりつけの病院が判明。迅速に搬送することができた。 同じ頃、「平塚市民病院」。こちらに、マイナ救急で対応した患者が運ばれてきた。 救急隊員は、病院側にマイナ保険証で読み取った薬などの情報を伝えようとするが…、ここでも、新たな課題が見えてきた。今年秋から本格実装が始まるマイナ救急の効果と課題はいかに…。 マイナカードは「消滅可能性自治体」の救世主となるか? 消滅可能性自治体の一つに数えられている富山・朝日町。去年は人口1万人を割り切るなど、人口減少・高齢化が進んでいる町だ。 実はそんな朝日町で、起死回生の策として「マイナカード」を活用していた。 2024年1月、朝日町では、マイナカードを活用した新たな行政サービス「LoCoPi(ロコピ)」をスタートさせた。公民館や商業施設など、市内28カ所に設置した端末にマイナカードをかざすとポイントがもらえ、町民の約4分の1が使っている。 集めたポイントは、年に4回行われる抽選会で使用。景品には、焼き物から農産物まで町の特産品がそろっている。 なぜこのようなことができるのかというと、実はマイナカードには自治体などが自由に活用することができる“空き容量”があるからだ。 朝日町では、カードをタッチした日時のデータを蓄積し、住民がどこの施設をよく利用しているのかを把握。効率的な人の配置や予算配分などにつなげている。 他にも、小学生などが登下校の際に端末にカード(※紛失防止のためにマイナカードと紐づけたこども専用カードを配布)をかざすと保護者に連絡が届く「見守りサービス」を始開始。さらに災害時に避難所でマイナカードをかざすと受付ができるサービス(開発中)などを地方創生の事業を模索していた「博報堂」とタッグを組み、挑戦してきた。 この運営を担当するのは、朝日町役場 みんなで未来!課の寺崎 壮さん。この町で生まれ育ち、25年間、町のために働いてきた。「朝日町は人口減少と高齢化が進んでいて、役場職員の数も減っている中で、今までの住民サービスを低下させずに何かできないかと考えた。住民が等しく持っているものを上手に使う、それがマイナカードだった」と言う。 背景にあるのは、約83パーセントという、富山県内トップクラスの高いマイナカード保有率。 実は3年前は県内最下位だったというが、職員たちが全ての家を訪問し、マイナンバーカードの説明をして登録を促し、マイナカード活用の土台を作った。 そして今まさに挑んでいるのが、マイナカードが“地域通貨”として使える「あさひまちコイン」だ。マイナカードに現金をチャージして支払いに使えるのは、日本初のサービス。 実は朝日町、自治体内で回るお金の割合が近隣に比べて低く、所得の約半分が町の外に流れていた。そこで、地元でしか使えない「あさひまちコイン」を広め、町にお金を落としてもらおうというのだ。 そして2025年2月「あさひまちコイン」の利用者を増やすため、寺崎さんは、期間限定でチャージした金額に10パーセントを上乗せするキャンペーンを打ち出すという。1万円チャージすると1万1000円分になる。町の予算を使った大盤振る舞いで、期間中に5500万円分チャージしてもらうのが目標だ。ところがキャンペーン開始後、町の人が一番集まるという地元のショッピングセンターで町の人の反応を聞くと、「あさひまちコインは使っていない」「落としたら危ない」などの声が…この現状に寺崎さんは、ある店舗に望みをかけていたが…。 果たしてマイナカードを使い、町でお金を使ってもらうことができるのか?——。 この放送が見たい方は「テレ東BIZ」へ!