2025年5月中旬、都内を走る特別なタクシーがSNSで大きな注目を集めた。わずか7台しか存在せず、滅多に乗車できない。運良く乗ることができれば、この奇跡的な出会いを祝福する「記念乗車証」をドライバーからもらえる。 このタクシーは、日本交通が導入する「幸運のタクシー」。SNSでは、喜ぶ声を乗客が投稿している。「幸せな気持ち」「良い事ありそう」などと好評のようだ。どのような経緯で始めたのか。どのような狙いがあるのか。同社に詳しい話を聞いた。 「素敵な出会いがたくさん訪れますように」 5月中旬に注目を集めた理由は、2人の芸能人が「幸運のタクシー」に乗ったとXに投稿したことだ。俳優・佐野勇斗さんが11日、NEWSの加藤シゲアキさんが19日、それぞれ記念乗車証の写真を投稿。出会える確率の低さに驚く声がファンから寄せられた。 乗車証の表には、おしゃれなデザインで5000分の1と書かれている。裏には、次のように書かれている。 「ご乗車いただいたタクシーは日本交通5000台のうち7台しかない桜色の行灯(あんどん)が付いています。まさに奇跡の出会い、幸運の"桜にN"です。これからのあなたの人生にも素敵な出会いがたくさん訪れますように」 佐野さんや加藤さん以外にも、幸運のタクシーに乗ったことを報告する芸能人の投稿は過去にも話題になっていた。また、運良く乗車できた一般の乗客も、喜びの声とともに乗車証をSNSに投稿している。 21日に取材に応じた日本交通広報室の担当者によると、この車両を導入したのは12年8月。東京ハイヤー・タクシー協会が「東京観光タクシードライバー認定制度」を開始したことを機に始めたという。 担当者は、この特別なタクシーについて次のように話す。 「タクシーは人と人が出会うことを演出する乗り物です。偶然出会うことの喜びを感じていただきたいなという思いがあります」 指定して呼ぶことはできない仕組み、それでもこうすれば見分けられる 幸運のタクシーは、東京23区・武蔵野市・三鷹市を走っている。偶然出会うことを重視しているため、この車両を指定して呼ぶことはできない仕組みになっている。しかし、他のタクシーと見分ける特徴もある。それは、車体上部に付いている「行灯」だ。 日本交通の行灯にデザインされている桜のマークが「桜色(ピンク色)」であれば、幸運のタクシー。桜色(ピンク色)以外には、一般乗務員が運転する「青色」のものと、社内の一定の基準を満たした優良乗務員が運転する「金色」のものがある。 しかし、見分け方が分かっても、滅多に出会えない。乗車証には「日本交通5000台のうち7台」とあるが、取材した22日の時点では、約5900台のうち7台になっていると担当者は話す。 さらに、これらの地域には約4万台のタクシーが走っているとし、「アマチュアゴルフのホールインワン」と同じくらいの確率なのだという。 SNSでは好評の幸運のタクシー。利用者からは実際どのような声があるのか。オリジナルデザインの記念乗車証を褒めてもらえることがあると、担当者。乗務員の接客を褒める声もあるという。 「接客時の乗務員の気遣いなどが『とても心地よかった』という声を頂きました。その他にも、乗務員から『お客様から喜んでもらえるので、モチベーションになる』という反応もありました」 日本交通では、目的地・経路などの確認や、シートベルトや忘れ物などの声がけなど、安全な運行に関わる声かけ以外は、乗務員が乗客に不必要に話しかけることを禁止している。乗客にとって、タクシーの車内は移動するプライベートな空間だと認識し、安全で快適な空間を提供することを重視しているためだという。 しかし幸運のタクシーでは、乗務員が降車時に「幸運のタクシー」の説明とともに記念乗車証を手渡す。「最初は怪訝な顔をされるらしいのですが、乗車証を受け取って説明を聞いた後は、偶然出会えた幸運に驚き、行灯を確認して感激していただくなどの反応をしていただけるようです」と担当者は語った。 現在のところ、「幸運のタクシー」に関する車両の増加や新しいキャンペーンなどは特に予定していないが、社内の体制を鑑みながら検討して参りたい、としている。