神戸の大学生、小溝幸音さん(20)。話し言葉が滑らかに出ない発話障害「吃音」があります。そんな小溝さんの夢は「小学校の先生」になること。“吃音があるからこそ先生になる”挑戦に密着しました。 「大勢の前や緊張する場面で吃音が出る」 今年2月、神戸市の大学で行われた模擬授業、「号令に時間がかかる教室」。内容は言葉が滑らかに出ない発話障害「吃音」についてです。吃音がある若者の夢を支援する団体が主催していて、教員を目指す大学生らが”先生”として参加しています。 (小溝幸音さん)「この話し方は普通の話し方だと思っていたのですが、周りからすると違うんだよって言われたときはショックでした」 大学3年生の小溝幸音さん(20)。小学校の教員を目指していて、SNSでこの団体を知り、参加しました。小溝さんは淡路島の実家から神戸の大学に通っています。講義での発表など緊張する場面で吃音が出るといいます。 (小溝幸音さん)「私は大勢の前とか緊張する場面で(吃音が)出るけど、逆に家族の前とか緊張していないときのほうがいっぱい出る人もいるので、人それぞれです」 一対一で話すときやリラックスしている場面だと吃音はほとんど出ません。 (小溝幸音さん)「一番言いにくいのは『き』とか、カ行サ行タ行に母音のイとウが入っているのが言いにくい。幸音(ゆきね)は言いにくいので名前は?って聞かれたら小溝ですって言うことが多いです」 恩師の言葉「吃音があるからできることもある」 100人に1人の割合で発症すると言われる吃音。「あああ、あのね」という風に言葉が連発したり、「あーーーのね」という風に最初の言葉が伸びたりと、人によって症状は様々です。 小溝さんは言葉を話し始めたころから吃音の症状がありました。中学生になりクラスメイトに吃音のことを打ち明けますが、吃音をマネされたりからかわれたりし、次第に隠すようになったといいます。 転機は高校時代。小溝さんの吃音に気づいていたバレー部の顧問からの進路についてのアドバイスでした。 (小溝幸音さん)「部活の顧問の先生に進路を相談していて、そのときに『小学校の先生いけるけどな』って言ってくれて、『吃音があるからこそできることもあるよ』っていうひと言もあって。吃音があるから先生になって、吃音がある子たちやほかの障がいのある子たちの支えになりたいって思いました」 母・京子さんは小学校教諭です。小溝さんも小さいころは「学校の先生になりたい」と思っていましたが、大勢の前で話すときなどに吃音が強く出るため、いつしか諦めていました。京子さんは娘の決断を応援しています。 (母・京子さん)「先生の大変さはわかってるから、先生かあと思いながら。でも合うなと思ってたので、それはずっと言ってて、絶対に先生合うでって」 (小溝幸音さん)「吃音があるから障がいがある子たちに寄り添える先生になれるかなって」 (母・京子さん)「そうやな、自分もあるからな、しんどかったとき」 (小溝幸音さん)「体験談をもとにしゃべれるかなって」 大学の友人や一緒に頑張れる仲間の応援が力に 教員を目指して大学に進学した小溝さん。友人が困ったときは力になると声をかけてくれたことで、吃音を隠すのはやめました。 (友人)「必死に吃音と闘ってる姿をよく見てたけど、カミングアウトされてからはそういうのも全然気にせずしゃべってて、笑顔が増えたなって思います」 もっと多くの人に吃音について理解してもらいたいと思うようになったころ、出会ったのが「号令に時間がかかる教室」でした。吃音がある教員志望の大学生らが、”先生”として授業を行い、参加者に吃音についての理解を深めてもらいます。さらに人前で話す経験を積むことで教員になることへの緊張や不安を和らげます。 小溝さんはこれまでに2回参加していますが、1人で50分間の授業を担当するのは今回が初めてです。 (森田実玖さん)「(授業のしかたで)1個面白いなと思ったのが、(全国の吃音者の数が)120万人っていうのがどれくらいの数かを入れる」 (小溝幸音さん)「前に大阪(の人口)で例えたりしていましたよね」 同じ教員を目指し吃音がある森田さんから授業のコツを教わります。 (小溝幸音さん)「吃音があるから教師ちょっとなって思ったところもあったので、一緒に頑張れる仲間としてうれしい」 (森田実玖さん)「教育実習とかで噛んじゃったとか失敗したとか言っている子がいる中で、やっぱりちょっと違うじゃないですか。その中で一緒の悩みも言えるし、すごく心強い」 「笑顔で楽しく授業したい」50分の授業をやり遂げ自信に そして本番当日を迎えました。 (小溝幸音さん)「吃音で私たちだけじゃなくていろんな人がしんどい思いをしているので、いろんな吃音の方がいることを知ってもらえたらうれしいです」 生徒として参加するのは現役の教員や吃音の当事者たちです。 (小溝幸音さん)「みなさん本日はお集まりいただきありがとうございます。2時間目を担当する小溝幸音です。よろしくお願いします」 大勢の人の前で話すときに吃音の症状が出やすい小溝さん。緊張しているようです。 (小溝幸音さん)「私の目標は小学校の先生になって、周りとの違いに悩む児童の支えになること。また、自分の個性、周りの友達の個性を尊重できるような環境をつくることです」 授業では、自身の体験した出来事を挙げながら吃音のある人とどのように接すればいいかを話すことにしました。 (小溝幸音さん)「(部活などで)お前なんで声出さへんねやって怒られたこともありました。怒られたことでまた今度も怒られるんじゃないかなという怖さから、余計に声が出なくなる悪循環が引き起こりました。私は出さなかったのではなく、出せなかったということを知ってほしいなと思います」 (小溝幸音さん)「話をしているときに吃音が出たとき、吃音が出ても(話し終わるまで)最後まで待ってほしいという人もいます。また吃音が出て周りの人に待ってもらうのが申し訳ないということから、どういうことが言いたいのか、わかったら代わりに言ってほしいという人もいます。私は吃音が出ても最後まで待ってほしいです。このように吃音者の中でもしてほしい対応は異なるため、その人に合った対応をする必要があります」 50分にわたる授業が終わりました。参加者は… (現役教員)「一人ひとりそれぞれ支援してほしい、フォローしてほしいことが違うっていうのも知ることができたので、どうしてほしいっていうのも保護者の方とか本人と話をしながら、コミュニケーションを取りながら進めていけたらなと。吃音があるお子さん生徒さんにとっては、安心できる先生になってくれると思います」 (吃音がある中学生)「(吃音を)知ってもらったほうが、吃音があっても普通に接してくれると思うから、楽になると思う。高校生になったら絶対に参加しようと思いました、先生側で」 授業をやり遂げた小溝さん。少し教壇に立つ自信がついたようです。 (小溝幸音さん)「ずっと緊張してたんですけど、始まってみると意外とあっという間で、私がしゃべってるときに吃音が出てしまっても笑顔でうなずきながら聞いてくれて、不安やなって思うところもあったけど、お客さんの様子とか対応とか含めて楽しかったです。きょうみたいな感じで笑顔で楽しく授業したいなって思います」