こんな職場は新入社員がいきなり逃げ出す!「退職代行」を使われる「ダメな会社」の特徴と防止策

近年、利用者が急増している退職代行サービス。いまでは入社間もない新入社員が利用することも珍しくはない。前編記事では、広告制作会社に入社した2人の新入社員が、上司の理不尽な指示と際限なく増える雑務によって心身ともに追い詰められていくまでを紹介した。 本記事では社員が退職代行を使う理由、退職代行を利用されやすい企業の特徴、同期に退職代行を先に利用されたA川さんの気になるその後などを、社会保険労務士の木村政美氏がお伝えする。 本記事の登場人物 A木さん:22歳。 都内の大学を卒業後、甲社に新卒入社した新入社員。コピーライターを目指し、広告制作会社に就職。上司であるC山課長や先輩からの厳しい指示や雑務、同僚の退職代行利用などに直面し、精神的に追い詰められている。 B川さん:22歳。 都内の大学を卒業後、甲社に新卒入社した新入社員。A木さんと同じくコピーライターを目指しており、おとなしい性格。職場の雰囲気に圧倒され、退職代行を利用して退職した。 C山さん:35歳。 甲社のネット広告課長で、A木さんとB川さんの直属の上司。新入社員に対して高圧的で、嫌味を言うなど厳しい態度をとる。 D田部長:45歳。 甲社の人事・総務部長。B川さんの退職代行利用について驚きつつも、「根性がない」と突き放すなど、A木さんの訴えにも冷たい態度をとった。 退職代行の意味と誕生の背景 退職代行とは、労働者本人に代わって弁護士や代行業者が会社に退職の意思を伝えるサービスをいう。2000年代後半から2010年代初頭にかけて本格的に提供を開始後、2010年代の中盤以降急速に普及し、現在も利用者は増加している。 退職代行が広まった理由は、「職場では協調性が重視されること」「年功序列制度により、勤続年数が長いほど昇進しやすい傾向があること」「多くの企業は終身雇用を前提とし、一度入社すると長く働くことが期待されていること」などの日本特有の職場文化や雇用の仕組みにより、退職の意思表示に心理的な負担を感じる人が多いことがあげられる。 ちなみに欧米諸国などでは、キャリアアップや賃金アップのための転職が一般的であること、契約期間や労働条件が明確であり、退職する場合は合意されたルールに基づいて行うことで日本と比較して退職することへの心理的負担が軽い。退職代行の需要はほとんどなく、日本特有の退職事情から誕生したサービスだと考えられる。 退職代行はどのくらい利用されているのか 株式会社マイナビが発表した「退職代行サービスに関する調査レポート(企業・個人)」によると、直近1年間(2023年6月以後)に転職した人で退職代行を利用した個人は16.6%である。(年齢別で分けると20代が18.6%、30代が17.6%、40代が17.3%、50代が4.4%) 今後退職代行を利用したい個人は20.1%、直近1年間で退職代行を利用した個人に限ると74.2%が「今後も利用したい」と回答。また、2024年1月から6月に退職代行を利用して退職した社員がいる企業は23.2%であり、年度別では2021年16.3%、2022年19.5%、2023年19.9%と年々増加している。 (対象は2023年6月以降の直近1年間に転職した個人と、2024年1〜7月に中途採用を行った企業) 以上のことから言えるのは、 (1)退職代行の利用者は年々増加傾向にあること。 (2)年代が若いほど利用割合が高いこと。 (3)利用者の多くがサービスの内容に満足し、今後も利用したいと考えていること。 があげられる。 退職代行サービスへの満足度が高いと、SNSや口コミなどを通じて認知度が上がり、利用者の増加に繋がるだろう。 辞める社員はなぜ退職代行を使うのか 先に掲載したマイナビの調査によると、退職代行を利用した理由として「退職を引き留められた(引き留められそう):40.7%」「自分から退職を言い出せる環境ではない:32.4%」「退職を伝えた後トラブルになりそう:23.7%」「いちはやく退職する必要がある:22.4%」「退職のやりとりや手続きが面倒:13.8%」「退職理由を考えたり伝えるのが面倒:13.4%」の順になった。 つまり退職時のストレスや手続きの煩わしさを軽減し、会社と関わりを最小限にしたい人が多いことがわかる。また、すでに転職先が決まっているなどの事情で退職を急ぐケースもあり、転職が一般化していることを裏付けている。 ブラック企業やパワハラに直面しているなど自らが直接退職の意思表示をすることが困難な場合、退職代行の利用は必要な選択肢のひとつとなるだろう。 退職代行を利用されやすい企業の特徴 退職代行が利用されやすい企業にはおもに以下の特徴がある。 (1)ブラック企業である 長時間労働、残業代の未払い、パワハラなどが横行している。 (2)職場のコミュニケーションが不足している 部下が上司に対して意見を言えない、新入社員が場に溶け込みにくい雰囲気があるなど。 (3)雇用契約内容と実態に違いがある 採用時に労働条件や仕事の内容が十分に説明されていない場合も含まれる。 甲社の場合、長時間の過重労働に加えて、特に問題なのは新入社員に対するC山課長や先輩社員の態度にパワハラの様子がある上に、A木さんの相談を受け付けないD田部長の姿勢も重なり、意見交換や相談がしにくい職場環境だということだ。つまり深刻なコミュニケーション不足であり、この状態が続けば更に退職代行を利用する社員が増えるかもしれない。 社員が退職代行を利用した場合のデメリット 退職代行を利用した場合、企業にはどのようなデメリットが生じるのか。 (1)コミュニケーションが取れなくなる 退職代行を利用した時点で、会社が本人と直接話や交渉を希望しても拒否されることが多い。物品の返還など本人との連絡が必要であれば、退職代行業者に伝言を依頼することになる。退職の撤回や退職日の延長、業務の引継ぎなど会社側の条件を受け入れる可能性はかなり低い。 (2)職場の信頼関係が低下する 他の社員が「退職代行を使わないと辞められない」と感じた場合、今後退職代行を利用されるケースが増える恐れがある。 (3)業務への悪影響が出る 退職者からの引き継ぎがないことで業務の停滞や、残された社員への負担増加を招きやすく、職場の業績や生産性、モチベーションの低下に繋がる。最悪、業務過多に陥った社員が退職することもあり得る。 退職代行を利用された場合の対応 退職代行を利用された場合、その意思表示が法律(民法第627条第1項など)を順守している限り原則拒否はできない。企業が取る対応を簡潔にまとめると次のようになる。 (1)状況の確認 退職代行業者からの連絡内容を把握し、社員から正式に依頼を受けているかを確認する。(社員の委任状や契約書などの提示を求める)詐欺や嫌がらせ目的の場合があるため代行業者の身元確認も行う。 (2)退職届の提出を依頼する 退職の手続きとして書面での退職届を提出するよう依頼する。退職届を受領した後退職の手続きを行い、社内での手続きが完了した時点で本人に伝える。 (3)貸出品の返却を依頼する 仕事用のPCやスマートフォン、各種資料類、社員証など会社からの貸出品の返却を依頼する。本人に持参してもらうのは難しいと思われるので、宅配便などを手配して返送してもらう。特に、会社の機密情報や個人情報の漏えいにつながる可能性のあるものは、返却を徹底する必要がある。 (2)(3)は直接本人に依頼してもいいが、直接の連絡を拒否されることが多いので、退職代行業者を通じて依頼する。 (4)その他の注意点 ・無理に交渉を求めない:退職代行を利用する時点で、本人は会社との直接対話に応じない意思を示していると言える。 ・社員から交渉の希望があった場合:退職代行業者から退職日や退職金、未払い賃金などの交渉を持ち掛けられても安易に応じないこと。代行業者が交渉の代理人としてふさわしい立場(交渉権がある弁護士など)にあるかを確認してから対処する。 ・年次有給休暇(有休)の残日数を確認する:有休が余っている場合、本人から取得の意思表示があることが多いが、会社は拒否できない。 ・退職手続きは速やかに対応する:退職代行を利用する社員の引き留めは難しく、圧力をかけることで社内やSNSで悪評が広がるなどのトラブルが発生する恐れがある。社員の気持ちを尊重し、速やかに退職手続きを進めた方がよい。 <参考> 民法第627条第1項:雇用の期間に定めがないときは、解約(=退職)の申入れから2週間が経過すると雇用契約が終了する。 退職代行を使われないためにはどうしたらよいか 退職代行の利用有無に限らず、社員の離職を減らし、人材流出を防ぐことが必要である。方策のひとつとして、次の点を確認、実行したい。 (1)労働条件を明確にする 入社時に労働条件や仕事の内容などを明確に説明し、会社側と社員間における意識のミスマッチを防止する。 (2)職場環境を改善する 労働時間や休暇を適切に管理する、個人の能力や状況に合わせて業務を公平に分担するなど、社員が働きやすい環境を整える。 (3)職場のコミュニケーション向上に努める 社員同士が互いに意見や提案を言いやすい雰囲気を作る。 (4)新入社員に対して適切な業務指導やサポートを行う 上司との定期的な個人ミーティングやメンター制度などを活用し、新入社員の不安を軽減し、業務の進捗状況を確認しながら適切な指導やサポートを実践する。 A木さんの気になる「その後」 22時過ぎ、自宅に戻ったA木さんは、B川さんに連絡を取った。 「仕事が忙しくて電話できずにごめん」 「君に内緒で辞めた俺こそ悪かった。昨日から新しい広告制作会社で働いてて、そこの社長に聞いた話だと、甲社って、人手不足なのに甲社長がジャンジャン仕事を取ってるせいで制作サイドはバンク状態。嫌気がさして辞める人が多いそうだ。早く見切りをつけてよかったよ」 「俺も会社辞める。退職代行使いたいけどどんな感じだった?」 「A木さんは俺と違ってあのC山課長に言い返せるんだから、直接会社に退職届を出してもいいんじゃない?」 「でも、すぐに辞められるかなあ……」 「もし拒否されたら、その時は俺が利用した退職代行業者を紹介するよ」 「わかった。今すぐ退職届を書いて、明日D田部長に持っていく」 A木さんは、すっきりした気持ちで電話を切った。 *新入社員関連の社内トラブル記事をさらに読む→28歳主任が絶句…「反抗的な新入社員」の初任給が自分より高いことが発覚「会社辞めちゃおうかな」 【さらに読む】28歳主任が絶句…「反抗的な新入社員」の初任給が自分より高いことが発覚「会社辞めちゃおうかな」

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