まさかのダウン…井上尚弥の防衛戦、父・真吾氏はどう見たか

5月4日、スーパーバンタム級の4団体統一王座の防衛戦がアメリカ・ラスヴェガスで行われました。プロボクシングの井上尚弥選手が、アメリカのラモン・カルデナス選手に8ラウンド、テクニカルノックアウト勝ちし、4団体統一チャンピオンとして4回目の防衛に成功しました。 井上尚弥選手の父親兼専属トレーナーであり、『努力は天才に勝る!』の著者である井上真吾氏へのインタビューを前後編に分けてお届けします。【前編】 カルデナスに対する事前評価 ——今回は久しぶりにアメリカでの試合となりましたが、アメリカにはいつ入られたのでしょうか。 井上真吾(以下真吾):4月23日に日本を出ました(試合は現地時間の5月5日)。 ——ラスヴェガスでの環境はいかがでしたか? 日本よりも試合前のイベントが多く、忙しそうに見えましたが? 真吾:そこはプロとしてしょうがないこととして割り切ってたんで、それでどうこうということはなかったです。イベントも、長くやるものではないですから。だから普段のルーティンが乱されるようなことはなかった。 練習もトップランクのジムを貸し切りにしてくれたので、普段通りにできました。食事も料理をするひとが一緒に来てくれてその人に作っていただいたので、まったく問題なかったです。ですからストレスになるような要素は一つもなかった。 ——今回の対戦相手、カルデナスに対して、事前にはどのような評価だったのでしょうか? 真吾:ジャブがいいなと思いました。なので、まずはジャブを極力もらわないように。ジャブをもらわなければ、あとは通常通りで問題ないと。 ただ、今まで対戦した中で、今回が一番、尚弥がジャブをもらったと思うんです。映像で見ていた以上に踏み込むがよくジャブが伸びてきた。まずこちらがジャブを当てることで主導権を握るのがいつものやり方ですが、それが今回は、若干うまくはまらなくて、ちょっとイヤだなと思いました。 自分が懸念していたことが現実になったといいますか。もともとカルデナスがいいジャブを持っていたところに、尚弥もラスベガスだというので若干、前掛かりになっていた。それでこれまで以上にジャブをもらってしまった。パンチも硬く、パンチ力もかなりありました。ですから第1ラウンドが終わったときにはちょっとこわいなと思いました。 現場が凍りついたダウン ——それで、放送の音声にも入っていましたが、「右のガードを締めてね」とおっしゃったのですね。 真吾:尚の打ち終わりにフルスイングで返すパンチを狙っているのは感じていたので、ガードは深くというのは念を押していました。 ただ、ダウンを奪ったカルデナスの左は、狙って打ったというよりは、ポジションを移動するときに感覚で振ったのが「バチーン!」とドンピシャで当たったということじゃないかと思うんです。ただパンチはしっかり当たっていたのでダメージはあったと思います。 ——ダウンの少し前に鼻血を出しました。珍しいなと思いましたが、あれは何を受けたのでしょうか? 真吾:自分にもちょっとわからなくて、もしかしたら返り血かなとも思っていました。 ——めったにないことなので、いつもよりパンチを受けているのかなと少し不安になりましたが、セコンドから見ているとそこまででもなかった? 真吾:いや、思いのほかジャブをもらっているなとは感じていました。 ——ダウン直後にラウンド終了になりましたが、尚弥さんがコーナーに戻ってこられたときにはどんな様子でしたか? 真吾:記憶は「バチーン!」と飛んでいるはずなんです。それで戻ってきたときに自分が「大丈夫か、大丈夫か?」と聞くと、尚弥が「あれ、いま2ラウンドだよね?」と確認したんです。間違いなく意識は飛んでいるんです。 ただ足腰はしっかりしていたので、体に効いているということはなかった。それで、「カバーをしっかり上げて丁寧に、丁寧に」と指示をして、第3ラウンドには修正できた。 ——ということは、第3ラウンドは防御に徹しろとか、そういうことではなかった? 真吾:そういうことではなかったです。基本的には、戦っている尚弥の考えに任せていました。 ——つまり、あのダウンでもそこまでの危機感はなかった? 真吾:いや、凍り付きましたよ! それはもう現場では。ルイス・ネリのときよりもダメージがあるなと思いましたから。 ——ということは、その瞬間には最悪の事態も頭を過ぎった? 真吾:というより「これで負けにさせるわけにはいかない」という思いです。ただコーナーに戻ってきた尚の受け答えがしっかりしていたので、そこまでのことにはならなかった。 でもまた同じパンチを何発ももらったらこわいので、まずは「もらっちゃダメだよ」「カバーをしっかりして隙を作らないように」と伝えました。そこは修正できたんで、その後も危ないパンチはありましたが、ダウンに繋がるようなダメージを受けることはなかった。 「カルデナス選手は映像で見たよりも強かった」 ——失礼な言い方になるかもしれませんが、対戦相手に対する周囲の評価が戦前、低かったので、陣営に「これは行けるでしょ?」的な空気があったりはしなかったでしょうか? 真吾:(質問にあきれて)陣営としてそんな気持ちでいたら、とっくの昔に足をすくわれてますよ。ゆっても相手も世界1位ですよ! たしかに周りの人たちにはそういう評価があったかも知れません。でも自分たちはそんな心がけでは練習、挑まないんで。 スタッフもみんな同じ感覚で同じ方向を見てるんで、そんな緩んだ態度を見せる者は身内には一人もいません。 ただ、実際に戦ってみると、カルデナス選手は映像で見たよりも強かった。人生を賭けて挑んできているんだなと感じました。だから最後の最後までまったくあきらめていなかった。 ——われわれ一般ファンには、戦前、カルデナスは名前のない選手として、ちょっと格下感がありました。その選手にダウンを奪われたのはショックでした。 真吾:でもそれがボクシングの現実ですよ。自分としては、ここでまた一つの課題が出たことは、かえってよかったと思います。次の試合に向けて修正していけばいいので。 ボクシングに完成形はないんです。 * 【後編】〈井上尚弥が「新たなフェーズ」へ…父でありトレーナーでもある真吾氏と次戦に向けてはじめた「新たな試み」〉はこちら 【つづきを読む】井上尚弥が「新たなフェーズ」へ…父でありトレーナーでもある真吾氏と次戦に向けてはじめた「新たな試み」

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