「尋ねて、聴く」。たったそれだけの行為なのに、時には相手を委縮させてしまったり、反発を招いたりしてしまう。だが、良い質問は部下の潜在的な能力を引き出し、チームの総合力を高め、組織を劇的に改善していく。 「あ、俺もやってるかも…」 リーダーがやりがちな「能力を抑圧する4つの質問」 世界で活躍するトップリーダーたちは、質問をどう使いこなしているのか。実際の声を紹介しよう。(抜粋はすべて『世界最高の質問術 一流のビジネスリーダー45人が実践する人を動かす「問いかけ」の極意』マイケル・J・マーコード、ボブ・ティード著、黒輪篤嗣訳より) *** 相手がこちらの必要としている情報を提供しようとしてくれない。自分のビジョンがチームのメンバーに理解されているかどうかが不安。上司がほんとうはどう考えているのかが気になる。 「この会社は答えではなく、問いで営まれています」エリック・シュミット(グーグル元会長兼CEO) (画像出典:"google" by feliperivera is licensed under CC BY 2.0. To view a copy of this license, visit https://creativecommons.org/licenses/by/2.0/?ref=openverse.) そんなとき、質問によってそれを明らかにしようと考えたことはあるだろうか。 いうまでもなく、質問をすれば、情報を得られる。しかし質問によってできることは、ほかにもたくさんある。 世の賢いリーダーたちはメンバーの意欲向上にも、チームワークの改善にも、画期的なアイデアや常識にとらわれない発想の促進にも、部下に権限を与えてその能力を引き出すエンパワーメントにも、顧客との関係の構築にも、問題解決にも、リーダーシップの強化にも、組織やコミュニティーの変革にも、質問を使っている。 最近の研究や数々の企業の事例からは、傑出した成功を収めているリーダーほど、質問を使って部下を率いていること、より頻繁に質問していることがますますはっきりしつつある。成功している有能なリーダーたちは、質問をしたり、されたりするための環境をみずから作り出しているのだ。 適切で効果的な質問こそが、個人を変え、チームを変え、組織を変える──。「深い熟考を促す質問」「ゆるい尋ね方」「賛成できない話にどう対応すべきか」など、局面ごとの具体例を丁寧に紹介。30年以上に及ぶリーダー育成の研究と実践、そして世界のトップへのインタビューから導き出した「完全無欠の質問術」 『世界最高の質問術 一流のビジネスリーダー45人が実践する人を動かす「問いかけ」の極意』 リーダーシップ育成機関の世界的権威、センター・フォー・クリエイティブ・リーダーシップ(CCL)が200人ほどの重役を対象に行った調査では、重役として成功できるかどうかは、どれだけ頻繁に質問するか、どれだけ部下に質問をさせられるかに左右されるという結果が出ている。 成功したリーダーたちの次の言葉を熟読玩味していただきたい。 チャド・ホリデイ(デュポン元会長兼CEO)「誰かに質問されると、わたしは目が覚めるんです。別の視点に立たされます。わたしはいつも同じことを心がけています。それは質問するということです。相手の熱意のほどや、関心のありか、聞く耳を持っているかどうかを見きわめるまでは、こちらの意見はめったにいいません。そういう点がはっきりしないうちは、何もしようがないからです。質問をしなければ、状況や問題を甘く見てしまったり、肝心な点を見落としたりしかねません」 マイケル・デル(デル創業者)「数多くの質問をすることで、新しいアイデアへの新しい扉が開かれます。ひいては、それが競争力を高めることにつながります。[…]ですから、あらゆるレベルで、情報が自由に行き交うようにすることが肝心なのです」 ペンティ・シダンマンラカ(ノキア元人事部長)「質問によって率いることは、わたしにとってリーダーシップの欠かせない一部です。リーダーシップとは、わたしの考えでは、指図することではなく、意欲をかき立て、それまで知らなかった新しい場所を示すことだからです」 エリック・シュミット(グーグル元会長兼CEO)「この会社は答えではなく、問いで営まれています」 ロバート・ホフマン(ノバルティス組織開発部長)「質問することで、わたしはだいぶ変わりました。以前よりどっしり構えられるようになり、ぴりぴりしなくなりました。会話でも、思いつきで話さなくてはならないような状況でも、つねに答えを持ち合わせていないといけないというプレッシャーはもう感じません。おかげで、円滑にコミュニケーションを図れるようになりました。特に、聴く、説得するといったスキルが高まったと実感しています」 これらのリーダーは質問の驚くべき力に気づいた者たちだ。質問はわたしたちを目覚めさせてくれる。新しい発想を引き出してくれる。新しい視点や方法を教えてくれる。自分はすべてを知っているわけではないのだと認めざるを得なくしてくれる。質問には、人や、組織や、コミュニティーを大きく成長させる効果がある。 もちろん、質問するリーダーはたくさんいる。しかし、たいていは次のような「能力を抑圧する」質問しかしていない。 ・なぜ予定より遅れているのか。 ・誰が遅れているのか。 ・この計画の何がいけないのか。 ・それは誰の発案か。 わたしたちは往々にして、「能力を引き出す(エンパワーメント)」質問ではなく、「能力を抑圧する(ディスエンパワーメント)」質問をしてしまう。それらは責任を追及するばかりで、情報を求めるほんとうの質問になっていない。 また、ある答えを言わせようとしているのが見え見えの質問をすることも多い。「まさか反対はしないよね」とか、「チームの一員として行動してくれるよね」といったものだ。 つまり、問題は、単に質問の数が足りないということではない。適切ではない質問をしばしばしていることが問題なのだ。わたしたちがする質問は得てして、正直な答えや有益な答えを引き出せるものになっていない。多くのリーダーは、質問への答えをどう聴くのが効果的であるかも知らない。質問しやすい雰囲気を作ることもしていない。 新しい次元のリーダーシップ 質問で率いるリーダーはビジネスを成功に導くだけでなく、働きやすい職場環境も築く。 質問を使えば、リーダーは部下の能力を真に引き出して、組織を変えられる。世の中には、質問の力を知らず、むだに重圧にさいなまれ、年じゅう怒っているリーダーがめずらしくない。 誰もがもっと質問しなくてはいけないこと、リーダーであればなおさらであることはもはや明白だ。わたしたちは部下やチームや組織、さらには自分自身の成長を助ける質問をもっとする必要がある。今の世界で質問は成功に欠かせないものになっている。 無能なリーダーはほとんど質問しない。自問することもない。一方、有能なリーダーは頻繁に質問する。優れたリーダーほど、いい質問をする。逆にいえば、いい質問を心がけることで、優れたリーダーになれるということだ! 【著者・訳者プロフィール】 【著】マイケル・J・マーコード(J.Marquardt,Michael) ジョージ・ワシントン大学名誉教授。リーダーシップ、グローバルチーム、アクションラーニングをテーマにした27冊の著書がある。 【著】ボブ・ティード(Tiede,Bob) 190カ国以上のリーダーがフォローするブログ、LeadingWithQuestions.comのCEO。世界的なキリスト教宣教団体であるCruの米国リーダーシップ開発チームのメンバーでもある。『Great Leaders Ask Questions』など5冊の人気書籍の著者。 【訳】黒輪篤嗣(クロワ・アツシ) 翻訳家。上智大学文学部哲学科卒業。ノンフィクションの翻訳を幅広く手がける。主な訳書に『世界を変えた8つの企業』(東洋経済新報社)、『問いこそが答えだ! 正しく問う力が仕事と人生の視界を開く』(光文社)、『哲学の技法 世界の見方を変える思想の歴史』(河出書房新社)、『宇宙の覇者 ベゾス vs マスク』(新潮社)などがある。 デイリー新潮編集部