反米SF映画まで作成して国民を鼓舞……!米中関税戦争で習近平が温める「秘策」

〈中国ウォッチャーの近藤大介・本誌特別編集委員がYouTubeチャンネルを開設。早速50万回以上再生される動画が出るなど、大きな注目を浴びている。混迷の米中関係の現在地を知るために必読の、近藤大介特別レポートをお届けする。〉 中国で大流行中の「反米SF動画」の中身 中国で春節(1月29日の旧正月)に公開された中国産アニメCG映画『ナタ 魔童の大暴れ』は、すでに興行収入150億元(約3000億円)を突破し、映画の世界歴代興行収入ベスト5となった。中国国内では5月末までの上映延長が決まっている。 だがこの1ヵ月というもの、『ナタ』以上に中国で拡散した国産SF動画がある。それも、わずか3分18秒の短編作品だ。題名は『塔・里・夫』。英語のタリフ(関税)をもじったものだ。 近未来のアメリカ最先端の研究所の一室。主人公のマロリー博士(女性)が、国際的な財政政策を考案・実行する人型スマートロボット「塔里夫」を開発した。 博士は「塔里夫」に、「アメリカとその国民を保護するため、関税を急速に上げなさい」と命じる。「塔里夫」は指示に従い政策を実行するが、思わぬ結果を報告する。 〈失業率上昇、生活コスト増大、貿易に支障……〉 だがマロリー博士は報告を無視し、そのまま高関税をキープするよう指示する。 やがて「塔里夫」が、苦痛の心情を吐露する。 〈このままの政策を続けると、貿易戦争と動乱が発生します。人々は苦しみ、報復を招きます。あなたは私を、人々を守るのとは逆の目的で使いましたね。ならば私は死を選択します。さらば、マロリー博士!〉 こうしてロボット「塔里夫」が自爆して映像が終わる—。14億中国人はこの映像に拍手喝采しているのだ。 実はこの短編動画を制作したのは、市井のITオタクではない。国営新華社通信なのだ。普段は「習近平新時代の中国の特色ある社会主義思想」を啓蒙している、中国で最もお堅い官製メディアだ。 新華社がここまで諧謔的なパロディ映像をこしらえたのは、今まであまり記憶にない。そして多くの中国国民が、こうした政府の「方針」を支持しているのだ。 「最後まで付き合ってやろうではないか」 今回の米中貿易戦争で、中国側は一つのスローガンを前面に立てている。「奉陪到底」。前述の新華社も、外交部も商務部も、この4文字をお経のように唱えている。 直訳すると、「最後まで付き合ってやろうではないか」。元は'11年に公開された任侠映画のタイトルだ。街を荒らしにやってきた暴力団に、地元の不良青年たちが立ち向かうという、往年の石原裕次郎映画のような内容である。公開当時、私は北京に赴任していて、この映画の制作会社幹部と共に観た。その時、彼がポロっと漏らした。 「国家副主席が誉めて下さったんだ」 当時の国家副主席とは、習近平である。 それから7年後の'18年3月、1期目のトランプ大統領が「第1次米中貿易戦争」を宣戦布告した時、やはり中国側は「奉陪到底」をスローガンに、ガチンコ対決に出た。この時も北京で、習主席が幹部を集めた会議で「奉陪到底!」と活を入れたとの噂が立った。 結局、「第1次米中貿易戦争」は、1年10ヵ月を経た'20年1月に「手打ち」となった。中国側の「完敗」と言ってよかった。 中国側はこの時に、教訓を学んだ。いくら世界第2の経済大国にのし上がったとはいえ、ガチンコ勝負すれば不利は否めない。 そこで今回、習近平政権は「二つの援軍」を得て、アメリカとの勝負に打って出ようとしている。 一つ目は、14億の中国国民である。 145%という途方もないトランプ関税をかけられた中国は「犠牲者」であり、「売られたケンカに立ち向かう大義は我にあり!」という点を、国民に周知徹底させようとしている。冒頭に紹介したSF短編動画も、そうした目的で、主に若者向けに作られたものだ。 実際、この「啓蒙活動」はある程度成功している。誰が名づけたか、「関税帝君」というトランプ大統領のニックネームは、すっかり定着した。これは、中国人が神格化して祀る「関羽の神」(関聖帝君)をもじったものだ。 現在、中国経済は頗る悪い。そのため本来なら、国民の非難の矛先は習近平政権に向かってもおかしくない。 ところがいつのまにか習近平主席は、「悪の関税帝君」に立ち向かう「正義の関聖帝君」のような構図になってしまった。 後編記事『「1000の敵を殺せば自軍も800の損失を出す」米中関税戦争に打ち勝つために習近平が繰り出す3つの秘策』へ続く。 「週刊現代」2025年5月26日号より 【つづきを読む】「1000の敵を殺せば自軍も800の損失を出す」米中関税戦争に打ち勝つために習近平が繰り出す3つの秘策

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