【解説】ドクターヘリ指針が初改定 南海トラフ地震への備え 災害時に命をつなげ

医師を救急現場にいち早く連れていき、機内で早期に初期治療を行いながら、重篤な患者を医療機関へ搬送する「ドクターヘリ」。現在、全国に57機が配備され、平時、災害を問わず、稼働している。去年の能登半島地震では、あわせて84人の患者を搬送。数々の災害での経験を経て、有効的な活用は進んできている。 厚生労働省は、これまで、熊本地震後(2016年4月)に大規模災害時におけるドクターヘリの運用指針を定めていたが、それ以降の大災害時の教訓を踏まえ、初めて指針の改定を今年3月末に行った。 今回の改定のポイントは二つ。 1.全国のドクターヘリの運用を差配する部署の新設 2.平時からの体制整備 厚生労働省地域医療計画課は「今回の改定によって、タイムロスが減り、より早く患者を搬送できるようになる」と話す。なぜ、このような改定を行ったのか、そこには次のような背景がある。 1つ目の改定点は、現在想定されている南海トラフ地震や首都直下型地震など超大型の地震への備えだ。 これまでの運用指針では、被災地が単一都道府県の場合、その被災地が属する全国10のブロックに分かれた地方のドクターヘリが被災地に応援に入る決まりになっていて、南海トラフ級に比べて被害エリアが限定的だった能登半島地震の際も、中部地方ブロックのドクターヘリが石川県に応援に向かうだけで完結した。しかし、被災地が複数の都道府県にまたがる場合、一つの地方ブロックのドクターヘリだけでは機体数が足りず、全国規模での応援派遣が必要になってくる。 そこで、厚生労働省は、DMAT(災害派遣医療チーム)事務局内に、全国規模の運用調整に専従であたる「ドクターヘリ支援本部」を新たに設置する方針を示した。支援本部では、被災地の被害状況に応じて、地方ブロックの枠組みに関係なく、全国のドクターヘリを被災した複数の都道府県に割り振り、派遣させる連絡を担わせることにした。 この点について、災害医療が専門の鳥取大学の本間正人教授は次のように話し、期待を示した。 鳥取大学 本間正人教授 「これまでなかった全国規模でのドクターヘリの具体的なオペレーションをする仕組みができ、長期にわたってドクターヘリの円滑な活用が可能になる。ドクターヘリが全国の都道府県から確実に派遣ができ、被災地で効率的に活用できるためのベースができた。」 ■ルールの未整備がヘリ運航の妨げに しかし、この新しいオペレーションをするにあたって、越えなければならない課題がある。長年、災害時のドクターヘリの運航調整にあたってきた、日本医科大学千葉北総病院の本村友一医師は、次のように指摘する。 日本医科大学千葉北総病院 本村友一医師 「全国的に給油場所の設定も、被災地外から応援に駆け付けるドクターヘリが駐機できる場所も決まっていない」 また、被災地の病院からドクターヘリ離着陸場所までの搬送方法が決まっていないのも課題の一つだ。福岡県済生会福岡総合病院の久城正紀医師は、次のように危惧する。 福岡県済生会福岡総合病院 久城正紀医師 「被災地の病院にヘリポートがない場合、ヘリの離着陸場所をどこにするのか、病院から離着陸場所までどの機関がどのような方法でどのようなルートで搬送するのかなど、患者を搬送するための一連のルールが決められておらず、災害救助に関係する各機関との調整に手間取って、搬送に時間がかかってしまうことがある」 ■大切なのは平時からの備え 2つ目の改定点は、こうした課題克服のため、各都道府県に対し、平時からの体制整備に言及している。具体的には、他地域から派遣される複数のヘリが集まれる離着陸場所の確保や給油場所の指定、燃料などの確保に向けた取り組みについて、あらかじめ関係機関と調整して、都道府県が定める地域防災計画などへ反映しておくことなどが盛り込まれた。 さらに、被災地外からより速やかにドクターヘリが被災地に派遣できるよう、近接する都道府県間で相互応援協定を結んでおくよう、求めている。この点について、本村医師も久城医師も、「今回の改定でもっとも重要な点」だと強調する。 ■いざという時に動けるか、それでも残る現場の不安 また、改定によって新たな仕組みや取り決めができたとしても、発災時に、安全で効率的にドクターヘリを運航させるためには、普段からの関係機関との連携や準備が必要になってくる。 災害時には、ヘリコプターを使用して災害対応にあたる警察・消防・自衛隊・海上保安庁・国土交通省との間で、各機関のヘリの飛行空域や活動内容を情報共有、調整して、ドクターヘリが運航できる仕組みがすでに存在している。 それにも関わらず、久城医師によると、過去の大規模災害時には、自治体をはじめ各機関が、どのように情報共有や運航調整したらよいか経験値が不十分で、コミュニケーションがうまくとれず、各機関の初動が混乱したこともあったという。こうした苦い経験から「今後は、ドクターヘリの運航に欠かせない、他の機関と合同で実践的な訓練を行っておくことや、人材の育成が必要になってくる」と訴える。 鳥取大学の本間教授も「災害時のドクターヘリ運航に関してのルール整備や連携が不十分な自治体は依然として多い」と指摘する。 いざ災害が発生した時に、ドクターヘリの能力を最大限発揮するために、今回の改定指針に基づいた実効的な運用体制を築くための施策の具体化を都道府県や自衛隊、消防、など関係各機関と進めるとともに、予測不可能な災害への対応力強化に向けた日ごろからの協力関係の構築やスキルアップが欠かせない。

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