米中関税交渉で「トランプは勝っていた」!…習近平のメンツを立てたものの、じつは厳しい「現実の中身」

115%ずつ引き下げだが 米中関税交渉が行われ、双方の関税を115%ずつ引き下げることなどで合意されたことが報じられた。 このことを朝日新聞は、「関税戦争序盤、つまずいたトランプ政権 『正義の味方』で勝った中国」との表題を立て、米経済への悪影響が明らかになり、米側が折れざるを得なかった結果であり、関税戦争の序盤でつまずいた米国が威信を失った一方、「勝利」との見方も広がる中国は自信を深めそうだと報じた。 アメリカが負け、中国が勝ったという見方だ。 日本経済新聞も「レアアースの急所突いた中国 『巨大な勝利』の裏に毛沢東の持久戦論」との表題を立て、レアアースの生産で中国は世界シェアの6割、製錬では9割を占める中、レアアースの対米輸出規制というアメリカの急所を中国が突いた結果が今回の合意だとし、安易にアメリカに妥協しないで、長期戦で戦う姿勢を中国が示したことで、アメリカ側が折れざるをえなかったという見方を示した。 やはりアメリカが負け、中国が勝ったという見方だ。 こうした見方は、トランプが5月9日に「中国に対する関税は80%が適切だろう」とSNSに投稿していたのに、蓋を開けたら30%(ベースライン関税の10%+フェンタニルの流入防止を目的とした20%の追加関税)にとどまったところに着目しているのだろうと思う。 しかしながら私は、この見方には賛同できない。勝ち負けをつけるなら、むしろ勝者はアメリカで、敗者が中国だと見た方が適切ではないかとさえ思う。 一般には関税率が10%くらいであれば、為替の変動でもそのくらいになることはよくあることだから、まだ対応はできるだろう。 だが、関税率が30%にもなると、その苦しさは10%の時とは比較にならない。 関税率100%と比べたら、30%はかなり小さいと感じてしまうかもしれないが、30%の関税を掛けられても競争上の優位を占めるというのは、甚だ難しいと言わざるをえないのだ。30%で輸出ができなくなるとすれば、関税がそれ以上のどの水準になったところで、実質的な意味はないだろう。 しかもアメリカは、通商拡大法232条に基づき、鉄鋼・アルミニウム製品・自動車・自動車部品に対して25%の関税をかけるとしながら、今回の関税交渉ではこの関税を撤廃していない。 平均関税率は39% さらにアメリカは通商法301条に基づき、やはり一部の中国原産品に対しては別途に関税をかけている。例えばEVに対しては100%、太陽光電池、注射器・注射針、半導体については50%だ。 鉄鋼・アルミについては通商301条によっても25%の関税がかけられているので、通商拡大法232条による関税も加えると、関税率は50%となる。 ベースライン関税の10%とフェンタニルの流入防止を目的とした20%の追加関税の対象にはならないようだが、それでも50%の関税率は非常に厳しいものだと言えるだろう。 EVは自動車の枠内ではあるが、通商拡大法232条に基づく25%の関税の対象外とされる。さらにベースライン関税の10%とフェンタニルの流入防止を目的とした20%の追加関税の対象にもならないようだが、それでも関税率100%というのは、極めて厳しい関税だ。 こうしたことを含めた、中国製品に対する平均関税率は、ウォール・ストリート・ジャーナルの報道によれば、39%だとのことだ。 125%だとか145%だとかという関税率からすれば、まだかなりましに見えるだろうが、これだけ高い関税率になると、中国製品の対米輸出はかなり厳しいものにならざるをえない。 対米輸出を考えている企業は、製造拠点を中国から別の場所に移転を考えるレベルの関税だと見るべきだ。 次に中国がアメリカに課している貿易制限について見てみよう。 アメリカ製品に対する関税率は10%に引き下げられた。先にも考えたように、30%の関税になると輸出はかなり苦しくなるが、10%の関税であればまだ耐えられる範囲だろう。 中国はアメリカに対してレアアースの事実上の輸出禁止を打ち出していたが、これが今回撤廃された。これはアメリカには大朗報だろう。 中国は大豆に対する15%の関税を維持している模様だが、アメリカ産大豆の輸入を止める動きはやめることにした。15%の関税はアメリカにとって小さいものではないが、まだ耐えられる痛みだろう。 他方で、アメリカが行ってきたNVIDIAなどの高性能AI向け半導体の中国への輸出禁止は、そのまま続けられることになっていて、撤廃はされていない。こうした点でも、アメリカの方が実利がある一方で、中国には実利がないのだ。 フェンタニルでの中国の譲歩 さて、もう一つ注目したいのが、合成麻薬フェンタニルに関する問題である。 中国はフェンタニルの原料をカナダやメキシコに輸出し、カナダやメキシコではこれに基づいてフェンタニルを合成してアメリカに密輸してきた。この結果、実に多くのアメリカ人が廃人となり、今やフェンタニルは18歳から45歳のアメリカ人の死因の第1位となっている。これほど深刻な影響をアメリカ社会に与えているのだ。 この問題を終わらせたいアメリカ側にすれば、何としてでもフェンタニルの取り締まりを中国側にさせたいのだが、中国はフェンタニルの取り締まりについて、長年「やる」と言いながら、ずっと真っ当な対応を取らずに来た。事実上泳がせてきたと見られても仕方ないだろう。 だが今回は、トランプが事前にとてつもない関税を吹っ掛けたことが功を奏して、中国側がかなり前向きな姿勢を示したようだ。 ベッセント米財務長官は「私にとってうれしい驚きだったのは、米国でのフェンタニル危機に対する、中国の関与のレベルの高さだった」と語っている。 このフェンタニル問題については、おそらく中国はカナダやメキシコからも様々な苦情をもらっているのではないかと思う。カナダやメキシコもフェンタニルに関して20%の追加関税を掛けられているからだ。 もちろん最終的には蓋を開けて見ないとわからないが、仮にこれでフェンタニル問題が解決するのであれば、トランプの関税交渉は大成功だったということになる。 また解決しなければ、中国に対する関税は現状維持どころか、再び引き上げられることになるかもしれない。 小口荷物価格への影響は大きいまま さて、中国から郵便で送られる800ドル以下の荷物については、トランプ政権は荷物の価値の120%、もしくは1個当たり最低100ドル(6月以降は200ドル)を課税するとしていた。 それが今回の関税交渉を通じて、荷物の価値に対する関税は120%とされていたのを54%まで引き下げるとし、1個当たりの最低関税の100ドルが6月以降も続くことになった。 これについてアメリカが妥協したと言えば間違っているわけではないが、これは実質的には妥協と言えるほどのものなのだろうか。 例えば、10ドル(1500円程度)の商品を中国から輸入した時には、荷物の価値の54%が関税だということからすると、5.4ドルの関税ということになるが、1個当たりの関税は最低100ドルとなっているので、実際には5.4ドルではなく100ドルの関税がかかることになる。 そうすると、10ドルの商品なのに、輸入段階で110ドル、つまり11倍の価格になるということが起こるのだ。 交渉前の段階では、6月以降は1個当たりの最低関税額が200ドルに上がるとされていたので、10ドルの商品が21倍の210ドルになることになっていた。これが6月になっても110ドルでよくなったんだなんて話になっているのだが、210ドルだろうが110ドルだろうが、もともと10ドルのものだったら、絶対に買わないのではないか。 ではもっと高額の800ドルのものを輸入した時を考えてみよう。 この場合には以前の方針では120%の関税だったので、960ドルの関税がかかったことになる。だが今回の交渉を受けて、54%の関税に引き下げられたので、432ドルの関税にとどまることになる。 そうすると、120%の関税の時には、800ドルのものが1760ドルになったのだが、54%の関税になったことで1232ドルにまで下がったということになる。 だが、バイデン政権の時には800ドルで買えたものだったのだ。それが1760ドルにならずに1232ドルに下がったんだよと言われて、買う気になるだろうか。 値段は1.5倍以上上がっているのだ。 従って、この小口の取引においては、アメリカから関税について緩和処置があった、アメリカは妥協を強いられたと言ってみても、中国から輸出するのは極めて困難になったのは変わりないだろう。 中国のメンツを立てたが現実は厳しい中身 トランプは、一見ではアメリカ側が大きな妥協を強いられたかのように見えるようにして、習近平・中国のメンツを立てている。 だが、実質的にはアメリカから中国への輸出のダメージを最小限にとどめながら、中国からアメリカへの輸出にはかなり大きなダメージが加わることに成功したと見る方が、正しいのではないか。 さて、アメリカは、中国のファーウェイ製のAI半導体「Ascend(アセンド)」について、米国製技術がかなり使われていて、米国の輸出管理規則に違反するから、この半導体を使った商品を使うことは、世界中のどこであっても許さないとの方針を示した。 他方、アメリカのAI半導体が中国AIモデルの学習・推論に使用されることに伴う潜在的影響を考慮して、この規制を強化する姿勢も示している。 バイデン政権は表面的には中国に対して厳しそうな姿勢を示しながら、中国への抜け穴を色々と用意していた政権だったが、こういった点でもトランプ政権は、中国に対して甘い姿勢は見せていない。 この厳しいあり方が現実のトランプ政権の対中姿勢なのだ。 【米中関税戦争】トランプ自滅…それでも「習近平の大逆転勝利」にすることが出来ない中国が抱える「深刻な事情」

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