映画「翔んで埼玉」でも有名になった、旧浦和市と旧大宮市の因縁が、今度はトレーディングカードゲームになった。ともに埼玉県さいたま市を成す地域だが、他県民どころか、同じ埼玉県民でも「どうでもいい」この話。だが、当事者たちの間には複雑な感情が今も渦巻いているらしい。そんな“文化”がカードゲームになった今回の企画、なんと世界大会も計画されているという。 【写真】初回セットはほぼ即完売の異例の人気…実際のゲームプレイの様子 ほか 構想3年 初回1,000セットはほぼ即完 4月下旬に発売されたそのカードゲームの名は「偏愛伝説カードバトル さいたま伝」。手がけたのはさいたま市のファッションビル運営会社「アルシェ」の中島祥雄社長だ。過去には全国各地のあるあるネタや知る人ぞ知る名店などを「ご当地ガチャ」化した実績の持ち主だが、今回のカードゲーム化の構想には多くの時間を要したという。 浦和VS大宮の因縁がカードに…「偏愛伝説カードバトル さいたま伝」 「ご当地ガチャは1年で形になったのですが、このカードゲームは3年かかりました。ゲーム制作集団『PANTS』とタッグを組み、実際にあるスポットや名物、飲食店、文化などをカード化。浦和と大宮の両エリアの魅力を楽しく再発見しながら、本格的に遊べるのがウリです」 価格は税込み2,530円とこちらも本格派のお値段ながら、ロフトやヨドバシカメラ各店、埼玉県内の書店などで発売されると、初回の1,000セットは発売と同時にほぼ売り切れ。追加生産を急いでいるという。 カードに描かれたネタに思わず… ゲームは、市民を“生産”し、土地に定住させる形で進められる。鉄道博物館を有する大宮を「鉄の遺跡」、浦和レッズでおなじみの浦和を「赤の遺跡」、そして浦和と大宮に挟まれ映画内で「すっこんでろ!」と虐げられた与野を「中央平野」などとして、全8エリアのうち4つを取れば勝ちとなる陣取り型だ。 大宮デッキ、浦和デッキともに45枚ずつあり、それぞれのネタが思わず笑いを誘う。たとえば「浦和の民の誇り」カードに描かれるのは、モザイクのかかったうすぼんやりとした大型ビル。「某高級百貨店」と説明されているが、JR浦和駅を降り立った経験のある人なら「あれじゃん」と容易に察しがつく。大宮の霊験あらたかな氷川神社、浦和グルメ代表の「うなぎ」のほか、映画で有名になった「そこらへんの草」に至るまで、地元ネタが満載だ。 「『埼玉は何もない』と自虐的に語る一方で、浦和と大宮の争いになると途端に燃えてくる——という住民性があります。マウントの取り合いは地元愛の裏返しですから、文化と捉えています。カード化にあたり、関係機関やお店には許可や公認を得ています。『浦和の民の誇り』カードのモザイクの百貨店は、お店自体は企画に協力的だったものの、本部には企画が通らないということでこの形にしました(笑)」(中島氏) さいたま市は冷や冷や? 2001年5月に合併し、まもなく四半世紀を迎えようとしているさいたま市。だが市役所などでは、浦和と大宮の“争い”をなかったことにしようとする空気が感じられるという。こうした風潮に中島社長は異を唱える。 「浦和と大宮のライバル関係も、さいたま市の大切な魅力の一つ。だから地元の人に話を聞くと、いろんなエピソードが出てくるんです。そういう文化を風化させたくない。ライバル関係を気軽に言えなくなると陰湿にもなってしまいかねない。他県にも同じような構図ってありますよね」 長野県の長野市と松本市、静岡県の静岡市と浜松市など、県内のライバル関係は珍しくない。とはいえ、同じ自治体の中で火花を散らす構図は稀だろう。それを文化として語り継ごうとするのは一つの知恵と言えるかもしれない。 マニアックさに拍車も? 好評を得て、早くも追加パックの発売を模索している。 「政治がらみの話や、サポーターが熱くなりすぎるサッカーチームなど、ホントにイジっちゃいけないところ、イジっても笑えない部分は避けつつ、地元の有名なおじさんやもっとディープなネタをカード化したい。それと、同じくさいたま市となった旧与野市や旧岩槻市の扱いはどうするか、など考えています。まだ時期は決まっていませんが、まずはスターターパックでの世界大会を開催しようと考えています」 地味な印象を持たれがちな埼玉県に、こんなどうでもいい争いがある。カードゲームの世界大会で雌雄を決することもアリなのかもしれない。 デイリー新潮編集部