道路交通法施行規則の改正に伴い、４月から乗用車のマニュアル（ＭＴ）免許の取得課程が大きく変更された。 　新カリキュラムでは、ＭＴ免許でも教習のほとんどをオートマチック（ＡＴ）車で行い、ＭＴ車での教習は公道では実施しない。現時点で福島県内で新カリキュラムを導入している自動車教習所はなく、関係者からは「ＭＴ車の習得時間が短すぎる」と懸念の声が上がる。（重本和） ４時限のみ 　ＭＴ免許の旧カリキュラムでは、追加教習がない場合で３４時限の教習をほぼすべてＭＴ車で行っている。新カリキュラムでは、３１時限をＡＴ車で行い、ＭＴ車を運転するのは４時限で済む。さらにＭＴ車の教習は教習所内の走行にとどまり、外の路上を運転することはない。 　変更の背景には、ＭＴ免許を取得する人の減少がある。警察庁によると、２０２３年に普通免許を取得した約１１６万人のうち、７割弱にあたる約７８万人がＡＴ車限定の免許を取得していた。ＡＴ車の普及で、教習に使うＭＴ車の確保も難しくなっているという。 　ただ、「当分の間」は経過措置が取られており、新旧どちらの教習カリキュラムにするかは各教習所が選択できる。県警運転免許課によると、県内で新カリキュラムを導入する教習所はまだ出ていない。 　「県内ではまだまだＭＴ車の需要は高い。新カリキュラムでは充実した講習時間が取れない」。そう指摘するのは、石川自動車教習所（福島県石川町）の矢内孝史専務だ。同教習所では教習生の４割がＭＴ免許を取得する。理由の半数程度が「家にあるＭＴ車の軽トラックを農作業や運搬などで運転するため」だといい、当面は旧カリキュラムを維持する考えだ。 　ＭＴ車では、速度に合わせてギアを操作したり、停止する際にクラッチペダルを踏んだりするなど、ＡＴ車に比べて必要な操作が多い。常交自動車学校（同県いわき市）の担当者は「新カリキュラムはＭＴ車の習得時間が短い。たった４時限では公道を走れるレベルにはなれない」と懸念している。 　新カリキュラムは全国的にもまだ浸透していない。合宿免許の仲介サイトを開設する東京都の運営会社によると、提携する約１００校のうち、新カリキュラムに移行している教習所はないという。担当者は「教習生はＭＴ車の運転をプロに長時間教えてもらえることを期待している。新カリキュラムに移行するメリットがない」と話す。 教習所負担大きく 　教習所の金銭的な負担も大きい。新カリキュラムでは、ＡＴ車を多くそろえなければならず、石川自動車教習所では、新カリキュラムへの移行にＡＴ車を３台購入する必要があり、約７５０万円ほどの費用がかかるという。年間売り上げの１割近くに相当し、矢内専務は「本格的に新カリキュラムに移行すると、特に小規模な教習所は補助金などがないと厳しい」と困惑する。 　ＭＴ車の安全運転に詳しい自動車ジャーナリストの西村直人さんは「マニュアル操作の習得を４時限の教習で終えるのは難しいが、一方でＡＴ車の操作に慣れることで教習がスムーズになるメリットもある。教習所それぞれのニーズに合わせるためにも移行期間は１０年や２０年といった十分な時間が用意されるべきだ」と指摘した。