学歴と能力は関係ないのに…学歴が高い「普通」の人が陥ってしまう思い込み

人生において自分自身を「特別な存在だ」と思うか、あるいは「思っていたより普通かもしれない」と思うか。 「特別でなければならない」という考えを持っている人は、常に他者と比較している。典型的な例の一つが「学歴」を基準に考えることだ。 アドラー心理学の第一人者で哲学者の岸見一郎氏が「特別になろうとしないが、同じでもない」生き方を探った新著 『「普通」につけるくすり』 (サンマーク出版)より一部抜粋、再構成してお届けする。 見かけの因果律 同僚や後輩が仕事で自分よりもいい結果を出したときに、「自分のほうが高学歴なので有能だと思っていたのにそうではなかった」「自分は案外普通なのかもしれない」と思うような経験をしても、そのことを認めたくない人もいるでしょう。 高学歴にこだわる人は、自分が本当に優れているとは信じられていないように見えます。これを劣等感と言うと、抵抗する人は多いと思いますが、劣等感は仕事に取り組むときにいわばブレーキをかけている要因です。それを取り除けば、仕事で今以上にいい結果を出せることを見ていきます。 アドラーは「見かけの因果律」という言葉を使います。これは、本当は因果関係がないところに、因果関係があると考えたい人がいるという意味です。首尾よくいい結果を出せたときも、反対に出せなかったときにも、そのことの原因を本来、因果関係のないところに求めることはよくあります。 学歴は能力を示す指標ですが、学歴と能力に因果関係があると考えることは見かけの因果律の例です。そのように考える人は、子どもの頃から有名大学に入ろうと受験勉強に励みます。有名大学に入れば有能だと思われると信じているからです。 子どもが自分の意思で中高一貫校に入ろうと思うことは普通ないでしょう。子どもをそのように思わせるのは、「将来成功するためには有名大学に入らなければならず、そのためには中高一貫校に入るべきだ」と考える親です。親に説得されて受験勉強をし、大学に入った人は、学歴は自分が有能であることを証明する証だと考えるようになります。 学歴と能力の間に因果関係はない しかし、学歴が能力を示す一つの指標だとしても、大学を卒業したことと能力の間に因果関係があるかといえばありません。このように書くと、学歴は少なくとも努力したことと能力の間に因果関係がある証と考える人はいるかもしれませんが、努力して難関大学に合格したことは、「過去」に努力したということでしかありません。 過去に努力したこと、及びその指標としての学歴と「今」仕事ができることの間に因果関係を見出すのは難しいでしょう。学歴が大学を卒業した時点での能力についての評価であるとしても、その後も努力を続けているかを学歴は明らかにしません。 難関の試験に合格したということが本当に有能であることの証になるかも疑問です。試験は客観的に能力を評価するために必要と考えられていますが、試験でいい点数を取れなかったとしても能力が低いとはいえませんし、反対に、いい成績を取ったからといって有能であるともいえません。能力を一度の試験で判定することは困難であり、有能だからといってどんな試験でも常にいい点数を取ることはできません。 学歴と能力の間に因果関係があると見なしたい人にはわけがあります。いい結果を出せなかったときに、もしも自分が卒業した大学よりもいい大学を出ていればいい結果を出せたはずだと、今となってはどうすることもできない学歴に原因を求め、可能性の中に生きたいのです。 また、いい結果を出せなかったとしても、「いい大学を出ているので有能であることは間違いなく、今回の失敗は何かの間違いだ」「運が悪かったのだ」と考え、起きた現実を受け入れようとしない人もいるでしょう。しかし、この学歴と能力の間にあるように見える因果関係はあくまでも「見かけ」だけのもので、実際には根拠のない思い込みでしかありません。 学歴は属性でしかない 学歴は「属性」でしかありません。属性というのは、たとえば、「あの人は賢い」と言うときの「賢さ」です。しかし、これは文字通り、「人に属するもの」であって、その人自身ではありません。帽子を脱いでも、あるいは別の帽子を被っても、人が変わるわけではありません。どの大学を卒業したかは、その人の属性の一つでしかありません。 この属性は一般的なもので、同じ属性を他の人も持っていることは多々あります。他方、「個性」は属性で説明し尽くすことはできません。今問題にしている学歴という属性に自分を合わせることは、自分で自分の個性を失くすことに他なりません。就活をする若い人が、会社の求める「人材」になろうとするのと同じです。 あるいは、自分自身ではなく、卒業した大学の名声の力を借りてどの大学を出ているかを人に言うことで、その大学を卒業した人という枠組みの中に自分を当てはめることになります。なぜそのようなことをするのか。自信がないからです。自分は学歴という属性でしか認められないと思っているのです。 初対面のときに履歴書を読み上げるような自己紹介をする人がいます。そのような人には、私が知りたいのは学歴や職歴ではないと言いたくなります。学歴や職歴を聞いた私に感嘆されたいのかもしれませんが、私のようにそれを聞いても何とも思わない人がいれば落胆するでしょうし、国内では通用しても、海外では卒業した大学名を聞いても相手が知らないこともあるでしょう。 【さらに読む】『優れていることを装ってしまう…「優越コンプレックス」の人が陥る考え方と対処法』 【後編を読む】優れていることを装ってしまう…「優越コンプレックス」の人が陥る考え方と対処法

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