大幅減益を見込むトヨタの秘策か…インドネシア巨大財閥と拡大を狙う「地産地消ビジネス」

トランプ関税の影響で自動車業界の先行き不透明感がいっそう増している。業績見通しを撤回する海外メーカーもあるなか、トヨタは2026年3月期の連結純利益が前期比35%減の3兆1000億円になる見通しだと発表した。多摩大学特別招聘教授の真壁昭夫氏が、トヨタの今後の戦略を解説する。(全2回の1回目) 増収減益だったトヨタ トヨタ自動車が5月8日に発表した2025年3月期決算は増収減益だった。 売上高は前期比6.5%増の48兆367億円、営業利益は同10.4%減の4兆7955億円だった。最終利益は同3.6%減の4兆7650億円となった。トヨタの減益は、わが国製造業の収益状況を象徴する事例といえるだろう。2025年3月期、わが国の製造業企業の純利益は全体で2年ぶりの減益(5月9日)だった。 中国経済の減速、BYDやファーウェイによる電動車や“ソフトウェア・ディファインド・ビークル”の開発加速、さらにはトランプ関税とトヨタを取り巻く事業環境は厳しい。その中で、トヨタは今後も安定した収益構造を確立すべく事業運営体制の改革を進めている。 改革の一つの取り組みとして、内外の非自動車分野の有力企業との連携を増やしている。 ハードウェアからソフトウェアまで、開発や生産を自社で完結する事業体制は転換点を迎えた。世界最大の自動車メーカーであるトヨタですら、自動車の制御や車内装備を支える人工知能(AI)、アルゴリズムの開発を単独で優位に進めることは難しくなっている。そうした事態に対して、国内外の有力企業との連携を進めることは相応の説得力がある。 有力企業との連携戦略が、同社の高い成長につながるか否か不透明な部分はある。台湾の鴻海精密工業(ホンハイ)と三菱自動車の連携にあるように、自動車業界にも水平分業の波は押し寄せている。世界最大の自動車メーカーであるトヨタでさえ、競争力の維持は容易ではないはずだ。 トヨタが見せた「覚悟」 足許、トヨタを取り巻く事業環境の不透明感は高まっている。 今年3月期の連結販売台数(レクサス含む)は1027万4000台と前年度から0.3%減少した。地域別にみると、米国、中国、欧州事業が減益につながった。米国では一時期ほど個人消費に勢いが出づらくなっている。中国経済は不動産バブル崩壊によりかなり厳しい。欧州経済では、ドイツが3年連続でマイナス成長に転落する恐れもある。 2026年3月期の業績見通し(連結ベース)に関して、トヨタは純利益が前期比35%減の3兆1000億円になりそうだと発表した。この見通しは、市場予想(4兆1452億円)を下回った。近年のトヨタの業績見通しを振り返っても、今回ほど市場予想を下回ったケースはあまり見られなかった。 経営陣は、事業環境の厳しさが今後高まると考えているはずだ。 何よりも業績に重大なインパクトをもたらすのは、米トランプ政権の輸入車に対する関税だ。2025年4〜5月だけでトヨタの営業利益は、米国の関税政策によって1800億円程度下振れるようだ。トランプ関税によって米国の景気後退とインフレ懸念の再燃が同時に進行し、個人消費が急速に減少するリスクも上昇傾向と考えられる。 また、トヨタは2026年3月期の前提為替レートを1ドル=145円、前期の153円から円高方向に修正した。円高もトヨタの収益減少要因になる。先行きの不確実性が高まっている中、米欧では業績見通しを撤回する自動車メーカーも相次いでいる。 そうした中でも通期見通しを公表したところに、トヨタの覚悟が見て取れた。 拡大を狙うVC事業 今回の決算関連資料の中で、トヨタは短期・中長期の時間軸に分けた世界戦略を明確に示した。 まず、短期的な方策として、トヨタが重視するのがVC=バリュー・チェーンを一段と強固にすることだ。ここでいうバリュー・チェーンとは、自社の顧客が、他社の自動車に乗り換えないよう、密接な関係、信頼感を醸成して、付加価値をより効率的に実現する事業運営体制と定義できる。 トヨタのバリュー・チェーン事業は、主に3つの分野から成る。メンテナンス・サービス、コネクテッド技術、中古車販売だ。 想定されるのは、センサーやIoT関連の技術を駆使して、顧客に適切なメンテナンス(タイヤやオイル、バッテリーの交換)を能動的に提案し、収益獲得の領域を広げることだ。それとセットで金融サービスを提供することも想定される。 メンテンナンスで顧客との接触機会を増やすことは、買い替え時期の積極的提案を行い、需要を増やすことにも寄与する可能性は高い。 トヨタは、米国と中国、欧州との貿易戦争の影響も可能な限り抑える必要がある。そのため、中古車事業の重要性は高まる。その国や地域で流通した自動車を、当該市場で中古車として再販することができれば、理論的に関税の影響は回避しやすくなるはずだ。 インドネシアの中古車販売業者、アストラ・デジタル・モービルの株式を取得したのは、関税の影響を回避しつつ地産地消体制に磨きをかける取り組みの一つといえる。なお、同社を傘下に置くアストラ・インターナショナルは、インドネシアで一際大きな存在感を放つ巨大コングロマリッドだ。 こうした取り組みにより、2026年3月期の営業利益計画にしめる金融やバリュー・チェーン事業の規模は、新車販売事業を上回る見通しだ。 一方、中長期的な成長戦略として、トヨタはエンジン車、ハイブリッド車(HV)、プラグインハイブリッド車(PHV)、EV、燃料電池車(FCV)、さらにはSDVをラインナップにそろえる“全方位型”の戦略を重視している。 つづく記事〈トヨタが“組み立て屋”にならないために…《全方位戦略》の微修正に見える「王者の危機感」〉で、トヨタの全方位戦略のこれからを解説する。 【つづきを読む】トヨタが“組み立て屋”にならないために…《全方位戦略》の微修正に見える「王者の危機感」

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