40年前の科学万博、1万個超実るトマトで世界を驚かせた企業が再び…今度はプラ製品からガス生み出す

 たった1個のタネが大きく育ち、1万個以上のトマトの実をつけた——。  40年前に茨城県で開かれたつくば科学万博では、大阪の中小企業が開発した型破りの栽培システムが注目を集めた。「食料危機を救う切り札」として熱い視線を浴びたが、ブームは長続きしなかった。開発企業は地球規模の課題にチャレンジするため、今夏、本業のプラスチック事業で再び大阪・関西万博に臨む。(貞広慎太朗) 技術を発信  「『びっくり現象』を一目見ようと多くの人が集まり、問い合わせの電話が鳴りやまなかった」  「トマトの木」を出展した大阪府高槻市の製造業「協和」の野沢重晴社長(77)は、1985年3月から約半年間開かれたつくば科学万博をこう振り返る。  53年に設立された同社の本業はプラスチック事業だ。しかし、大学で農業土木を学んだ初代社長が「地球規模の問題に取り組みたい」として、新たな植物栽培システムの研究に着手した。  野沢さんによると、トマトは通常の栽培方法だと1株20〜30個程度の実しかならない。土が根の成長を「阻害」していると考え、根が伸び伸びと育つように水中に解き放つことにした。  ミソは、酸素や肥料を含んだ水を常にポンプで供給させる点だ。縦横無尽に伸びた根の表面がいつも栄養に触れることで、大量の実をつけさせることに成功した。  つくば科学万博には日本政府の依頼で出展し、昭和天皇も見学した。最終的につけた実の数は1万3312個。特殊な肥料や種子は使用していないが、来場者からは「バイオテクノロジーで品種改良したのでは」と驚きの声が上がった。  展示責任者として携わった野沢さんは「植物が持つ生命の力強さを引き出す技術を世界に発信できた」と胸を張る。 成長と縮小  万博後数年間は、全国から注文が舞い込み、年間の販売数は70〜90件に上った。台湾や韓国にも輸出。一時は会社全体の売り上げの2割を超えた。  しかし、その後は先細っていく。2000年頃からは園芸大国・オランダの初期費用がより安価な栽培方法が浸透し、次第に押されていった。東日本大震災の津波で多数の農業用ハウスが倒壊し、資材価格が高騰したことも追い打ちをかけた。  現在の売り上げはピーク時の2割程度。野沢さんは「新規の販売はほぼゼロ」と肩を落とす。50人近くいた担当社員も11人に縮小した。 続けた開発  ただ、同社は環境問題の解決に貢献する製品の開発は続けてきた。約15年前からは、トウモロコシやサトウキビといった植物由来の原料を使うなどした「バイオプラスチック」製品も手がけている。こうした素材で作られたカップやボトルは、廃棄後も環境への負荷が小さい製品として需要が高まりつつある。  大阪・関西万博では、大阪ガスなどと共同の取り組みを紹介する。バイオプラスチック製品を熱で溶かし、微生物の働きで発酵させ、メタンガスを生み出す技術だ。このメタンガスを家庭用のガスとして再利用するのは世界初という。  再び出展するのは、万博には業界を超え、社会にインパクトを与える力があると信じているからだ。  野沢さんは「つくば万博のときは、問い合わせの電話でのどがかれるほど忙しかった。今回の万博でも環境問題の解決に向けて一石を投じたい」と語る。 つくば万博に刺激され宇宙へ  つくば科学万博は、宇宙航空研究開発機構(JAXA)で宇宙開発を支える山方健士さん(52)にも影響を与えた。  当時12歳の小学生だった。万博会場では、ピアノを弾くロボットが動いていた。見る角度によってガリレオやニュートンなど科学史上の偉人の顔が変わるオブジェもあった。目の前に広がる「近未来」に心を奪われた。  その後、子どもたちが宇宙について学習する日本宇宙少年団(東京)に所属し、「これから人類が宇宙に出て行く。自分もその一角を担いたい」という思いが芽生えた。  現在は米国に駐在し、国際宇宙ステーションに滞在する日本人宇宙飛行士のサポートに取り組む。  AI(人工知能)など最先端の技術が展示される大阪・関西万博について「『すごいなあ』だけではなく、この技術をどうすれば未来の生活に生かすことができるか想像してほしい。もっと科学が好きになるはず」と語った。

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