川崎の女性死体遺棄 Googleマップでは署の名称が一時「臨港クズ警察署」に

 それはDVやストーカー被害なのか痴話げんかなのか、確かに判別は難しい。だが、社会の治安を維持する役割がある警察には、一般市民よりも多くの具体例に遭遇しているのだから、より適切な危機回避対応を期待する。その期待を下回ったとき、二度と同じ事が起きないように、私たちが期待するのは経緯の解明と説明だろう。ライターの宮添優氏が、川崎市で起きた女性死体遺棄事件と元交際相手の白井秀征容疑者逮捕をめぐり、混乱と緊張が高まる事件発生現場周辺についてレポートする。 【写真】送検のため神奈川県警本部を出る容疑者  * * * 「市民のことなんか全く気にしない。これだけ助けを求めても何ともならなかった。本当に悔しい」  神奈川県川崎市の民家から20歳女性の遺体が見つかり、神奈川県警は死体遺棄容疑で元交際相手の男を逮捕した。最悪の結末を迎え、被害者の家族らと一緒に行方を探したり、SNSで情報を発信してきたという知人女性は、筆者の取材に静かに警察への怒りを滲ませた。なぜ、警察を非難する言葉が出てくるのか。 機動隊を外に待たせるほど緊張  4月30日夜に民家で遺体が発見されると、報道各社は誰かが号令を出したかのように、一斉に事件を報じ始めた。さらに、遺族が報道陣の前で盛んに訴えたことから、警察発表と遺族コメントには相当の乖離があることが明るみに出た。なぜ、これほど隔たりがあるのか、民放キー局の社会部デスクが声をひそめて言う。 「約1か月前、テレビや新聞などのマスコミに被害者のご家族から情報提供があり、各社が取材に取り掛かろうとしました。取材のセオリーとして、まず確かに事件が存在しているのか警察に確認するのが普通の方法で、その後に現場取材も始めます。それに従って各社が神奈川県警に取材をしましたが、事件性はないのではないか、といった返答ばかり。その結果、ほとんどの社が取材をやめてしまった。ところが、県警から急に”事件が動く”と連絡が来て、各社慌てて現場に記者やカメラマンを急行させました。そんななか唯一、フジテレビだけが家族にずっと密着取材をしていたそうで、他社が知らない情報をいち早く報じていました」(キー局社会部デスク)  事件発覚後、警察の対応にどうしても納得がいかない被害者の家族や知人らが、事件を管轄する臨港警察署前に集まり、抗議の声をあげた。さらに、臨港署の建物内に関係者が押しかけ、職員に詰め寄る様子などがSNSでライブ配信もされた。 「この時、神奈川県警は機動隊を外に待たせていたほど緊張が高まっていました。県警職員の中には、今回の対応について”批判されても仕方がない”と漏らす人もいて、通常なら身内をかばうのが当たり前なのにと驚きました。事件の原因究明とは別のところで、県警は相当神経質になっています」(キー局社会部デスク)  こうした警察への抗議行動は、SNS上でも賛否両論だった。確かに、警察の対応がもっと早く適切だったら、このような事件はあり得なかったかもしれない。とはいえ、ストーカーの言動は狡猾で残忍だ。絶対的に正しい対処法というものはない事に加え、遺族側の行為も「やりすぎだ」といった指摘も相次いでいる。さらに、別の懸念も残ったと指摘するのは、大手紙警察担当記者。 「被害者と元交際相手は付き合ったり別れたりをくり返しており、警察としても、対応に苦慮した面はあると思います。ただ、事件性はないという警察の説明を鵜呑みにして、よく確認しないまま我々も動かなかった。そうして、誰もが見過ごすうちに、最悪の結末を迎えた。警察権力を信じ、彼らにぶら下がるような姿勢であった我々マスコミとしても、反省すべき点は非常に多いのです」(大手紙警察担当記者) Googleマップで「臨港クズ警察署」に  この事件が大きく報じられるようになってから、SNSでは事件と関係者の属性を無理やりに関連づけるような言説もあらわれ、被害者の尊厳が傷つけられる歪んだ空間が生まれている。逮捕された容疑者と面識があるという、川崎エリアで活動する現役の音楽関係者の男性は、そうしたネットでの誹謗中傷も把握しており、事件に関する報道をくまなくチェックした上で、こう断言する。 「ここら(事件現場周辺)は、確かに治安も良くないです。ヤンキーも多いし、子供が少しヤンチャでやらかすくらいは当たり前という雰囲気もあって、僕も若い頃に何度か警察の世話になってます。  彼女の家族は必死に警察を頼って、何度も助けを求めています。正直、川崎のヤンキーの痴話話だろうと蔑ろにされた、という気しかしません。川崎のヤンチャな連中にしてみれば、本当にやばいとなった時に警察から無視された、対応してくれなかったという経験はいくらでもある。臨港署に対しては、本当にムカつく、頭にくる、なくなってほしいと思いますし”臨港クズ署”に”返し(仕返し)”をするぞと息巻く若い連中もいます」(被害者、被疑者を知る音楽関係者の男性)  それから間もなく、Googleマップ上に記された「臨港警察署」の名称が、何者かによって「臨港クズ警察署」と改変されていた(現在は修正済み)。怒りに震える関係者なのか、事件をニュースで知っているだけの一般人、それとも愉快犯的な第三者の犯行かは不明だが、神奈川県警の対応に不満を持つ人は、想像以上に多いかもしれない。前出、警察担当記者が続ける。 「神奈川県では過去に何件も、全国ニュースになるようなストーカー殺人事件が起きています。そのたびに法律の不備が指摘されたり、警察の対応が問われる経緯が明るみに出ました。そういったこともあって、また神奈川県警か、という声は内外から噴出しています。そもそも、今回逮捕された容疑者の居場所について、県警はマスコミ向けに”居場所は把握している”とか”コンタクトもとっている”と、あとから知れば”嘘っぽい”話を出していた。事実は、すでにその頃、男は姉のいるアメリカに国外脱出していたのですが、これも被害者の親族が男の親族に”カマ”をかけたことで偶然、判明しています。こうした事実がどんどん報じられ、神奈川県警の信用が落ち続けているのは確かです」(大手紙警察担当記者)  被害者が判明し容疑者も逮捕された。これまでに容疑者が「ストーカー行為」を認めたり、容疑者の家族が「(被害者を)殺してしまったかもしれない」と警察に告げていた事実も発覚している。こうした現状を受け、全国の警察を管理する警察庁が、神奈川県警の一連の対応について問題がなかったか、検証チームを立ち上げるとも報じられた。  なぜ容疑者は犯行に及ぶことができたのか、事前に止められる可能性はなかったのか、詳しい経緯の解明が待たれる。繰り返されるDVやストーカー被害について、どのような対応が有効なのか。誰でも被害者になる可能性があるし、身近な人が加害者になるかもしれない。そして、その人がどんな仕事をしていても、どんな育ちや暮らしだろうと、危害を加えられてよいなどという理屈はないはずだ。誰もが穏やかな生活を送ることができるように、もう一度、真剣に社会全体で考える必要があるのではないか。

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