《キョロ充からリア充へ?》玉木雄一郎代表、国民民主党躍進の背景に「なぜか目立つところにいる天性の才能」

 仕事や学業、交友関係などリアルが充実していることを指すネットスラング「リア充」に憧れ、常に周りを気にしてキョロキョロしているが、なんだか馴染めずにいる人のことを「キョロ充」と呼ぶ。入学して間もない大学生などに使われることが多かったが、徐々に学生以外にも使われるようになった言葉だ。国民民主党の玉木雄一郎代表を一年生議員の当時から取材してきたライターの小川裕夫氏が、初印象時に受け取った「キョロ充」ぶりから現在までを振り返りレポートする。 【写真】アムロ・レイのコスプレ姿で握手する玉木氏  * * *  2024年10月15日に投開票された衆議院議員選挙は自民党・公明党が大敗を喫し、衆議院で過半数を割り込んで少数与党となった一方で、玉木雄一郎代表が率いる国民民主党は7から28へと議席を4倍に増やした。元は同じ党から分かれた立憲民主党と区別しづらいと指摘されがちだった同党は、”対決より解決”や”手取りを増やす”を掲げて選挙を戦い、異なる支持層を形成。自民党支持層をも取り込み、選挙から半年が経過した現在も強い人気を誇っている。  そのままの勢いで参議院議選挙に臨もうと、国民民主党は多くの候補者擁立に動く。今回の選挙で争われる東京選挙区の定数は6だが、2024年の東京都知事選へ出馬した蓮舫氏が失職した欠員を補充する選挙も併せて行われるため7人を選出する合併選挙となる。国民民主党は東京選挙区で2人の候補者を擁立する予定にしており、前回は同選挙区へ立候補がなかったことを思うと、かなり強気の姿勢だ。  参院選でも自公が苦戦することは誰の目にも明らかなため、永田町では選挙後に国民民主党を与党へ引き入れるという風聞が絶えない。国民民主党が与党入りするとしたら、玉木雄一郎議員が首相に就くことも大いに考えられる。一年生議員の当時から取材で接する機会があった筆者が知る、一年生議員だった当時から現在までの玉木氏と国民民主党について改めて振り返ってみたい。 旧・国民民主党から新・国民民主党へ  国民民主党は短期間で一気に支持を拡大したが、その歩みは決して順調ではなかった。現在の国民民主党は2018年に結党されたばかりの新しい政党で、その源流は民主党にある。その民主党は2009年に自民党から政権を奪還。しかし、わずか3年弱で自民党に政権を返上することになる。  その後に民主党は迷走を続け、民主党議員たちも離散集合を繰り返した。2016年に維新の党と合流したことで党名を民進党へと改め、新たな船出とした。しかし、翌2017年には前原誠司代表(当時)が解党を電撃発表する。  前原代表が解党を決断した理由は、きたる衆院選を民進党のまま戦うことは厳しいとの判断だった。そこで、2016年に都知事に就任した小池百合子氏に協力を求めた。  小池都知事は地域政党・都民ファーストの会を立ち上げて都政運営にあたっていたが、国政進出にあたり2017年に希望の党を設立。民進党も出馬予定の全候補が希望の党へと合流することになっていた。ところが、合流する候補者の少なくないメンバーが安全保障政策や憲法に対する考え方が異なることを問われた小池都知事が「もちろん『排除』します」と応じた。「排除」発言に反発した人たちが離れ枝野幸男議員を中心に立憲民主党を立ち上げ、一部の議員は立憲から出馬。これらの騒動で希望の党は勢いにブレーキがかかってしまい、衆院選では惨敗を喫した。  こうした経緯をたどって、再び希望の党から分離したのが最初の国民民主党だ。このとき誕生した国民民主党は代表に玉木氏を選出したが、現行の小選挙区制は小政党が不利になるため、立憲との再合流を求める声も根強かった。これらを踏まえて2020年には立憲民主党が解党し、それまでとは別の新しい立憲民主党を立ち上げるという形式を踏むことで半数以上の国民民主党議員が新・立憲民主党に合流した。  多くの議員が立憲へ合流したのち、国民民主党もいったん解党した。そして新・立憲民主党に合流しなかった議員らによって新・国民民主党を立ち上げることになった。発足にあたり、玉木氏が引き続き代表に就き、参議院の榛葉賀津也議員が幹事長という新体制が取られた。 玉木雄一郎代表の巧みなたちまわり  同じ代表、同じ名前で二度目に発足した国民民主党は当初、その複雑な成り立ちや所属議員が少数ということもあって、永田町における影響力は小さかった。  党としての弱さは選挙でも如実に反映されていた。例えば、発足してから初めての国政選挙として臨んだ2021年の衆院選は選挙前8議席から11へと増えたものの、擁立した候補者は27名で、半数以上が落選している。そして2022年の参院選では、議席を7から5へと減らし、非改選と合わせても10議席にとどまっている。  議席数以上に、国民民主党の限界を表していたのが東京選挙区だった。前述した議席を減らした2022年の参院選では、同選挙区で候補者を立てることができなかった。もっとも、協力関係にあったファーストの会から荒木千陽氏が出馬しているので、共倒れを防ぐために擁立を見送ったという解釈も成り立つ。だが、今夏の参院選では2人も擁立する予定なのだから、それらを考慮すれば独自候補者を擁立できなかったと考えるのが自然だろう。  また、2024年4月に実施された東京15区の衆院補欠選挙でも、国民民主党が東京の選挙に弱いことを露呈してしまった。この補選は無所属で出馬した乙武洋匡候補(国民民主党、都民ファーストの会推薦)を小池都知事が全面的に支援したことが話題になったが、落選。当選した立憲民主党公認の酒井菜摘氏とはダブルスコア以上の票差をつけられている。  このように長らく支持が伸び悩んでいた国民民主党は、事態を打開しようと様々な試みを続けた。  2024年7月に実施された東京都知事選で165万票を獲得するという予想外の躍進をとげた石丸伸二・元安芸高田市長に玉木代表が接近しはじめたときは、その大胆さに驚かされた。  言うまでもなく、石丸氏は小池都知事と争った間柄であり、端的に言えば政敵でもある。玉木代表は小池都知事との関係を強化していた一方で、石丸氏とネット番組で共演するなど仲を深めていった。  そして、きわめつきが2024年10月26日、衆院選の最終日だった。玉木代表は選挙戦のマイク納めを東京駅前で予定していたが、到着が遅れていた。そのため、開始時刻になっても街頭演説は始まらなかった。そこに、たまたま通りがかった石丸氏が街宣車に登壇してマイクを握るというハプニングが起きる。  どういった経緯で石丸氏が街宣車の上でマイクを握ったのかは定かになっていないが、政党人だったら選挙戦最終日に公党の選挙カーに乗せることがどういった意味を含むのかを理解しているはずだ。国民民主党が石丸人気にあやかろうとしていたことは否めない。  これまで共闘関係にあった小池都知事は選挙戦を通じて国民民主党候補者の応援に入らなかったが、公明党の候補者を中心に応援演説に駆け回っていた。だからといって、都知事と国民民主党の縁が切れてしまったのかというと、そうでもないのが不思議なところで、玉木代表は都知事という巨大権力の座を争った小池・石丸の2人と距離を同時に縮めるという離れ業をこなした。その結果、支持を急拡大させることに成功した。  もちろん、そこには国民民主党が実直に訴え続けてきた”対決より解決””手取りを増やす”という政策が評価された面もある。ただ、それ以上に玉木代表の立ち回り方が巧みだったことが大きいと言わざるを得ない。 「なぜか目立つところにいる」天性の才能  筆者は玉木代表が1年生議員だった2009年から氏を取材してきたが、玉木氏はよく言えば「スター性がある」、悪く言えば「キョロ充」といった印象を強く抱かせる政治家だった。  その一端を初めて感じたのは、2010年10月に実施された事業仕分け第3弾のときだった。事業仕分けで報道陣がカメラを向けたのは枝野幸男議員や蓮舫議員(当時)だったが、一年生議員だった玉木氏も仕分け人として議論に参加し作業後のカコミ取材などを積極的にこなしていた。  当時の玉木氏は一年生議員ということもあり、テレビ・新聞の扱いは大きくない。カコミ取材において、テレビクルーが取り囲むようなことはなく、写真もペン記者がついでといった感じで手持ちのコンパクトカメラで撮影するぐらいだった。  そんな注目されていない玉木氏を、筆者は間近で撮り続けた。距離の近さを警戒されたのか、元テレビプロデューサーだった玉木事務所の公設秘書に呼び止められて「まだ(玉木は)大物じゃないですから、お手柔らかに」と軽く牽制されている。  蛇足になるが、後に民進党の政調会長として時の人となり、今夏の参院選では国民民主党から出馬報道が出ている山尾(菅野)志桜里氏も2010年10月に実施された事業仕分けに参加している。しかし、玉木氏のようにカコミ取材を受けることはなかった。  玉木氏は一年生議員の頃から、「なぜか目立つところにいる」という天性の才能を発揮した。もしかしたら本人は無自覚なのかもしれないし、綿密な計算に基づいているのかもしれない。どちらなのかは筆者には計りかねるところだが、いずれにしても目立つ場所にいるという嗅覚によって国民民主党の存在感が周知されようになっている。  国民民主党の人気上昇には、榛葉賀津也幹事長のキャラクターという要因もあるだろう。榛葉幹事長は多趣味で、プロレスや野球、講談などに造詣が深いだけでなく、ヤギの飼育といった国会議員らしからぬ一面もある。定例会見で記者とのやりとりは堅苦しさがない親しみやすさがあり、ネットにあげられる動画は政治コンテンツというよりもエンタメ動画といった趣すらある。このようにSNSで拡散された大衆人気が国民民主党躍進の大きな力となったのは間違いないだろう。だが、玉木代表が小池・石丸両氏といった党外に頼ったことで得られた力は無視できない。  衆院選大勝直後に醜聞をスクープされるなど、脇の甘さから玉木代表はリア充になりきれていない。さらに、最近の玉木代表はSNSのチェックを日課とし、掲げる政策がSNSに右往左往されている点もキョロ充感を強く抱かせる。  6月に投開票される東京都議選は参院選の前哨戦と位置付けられており、国民民主党は多くの立候補予定者をすでに発表している。当然ながら小池都知事が率いる都民ファースト、石丸氏が立ち上げた再生の道が擁立する候補者たちとは全面的に激突することになる。  これまではキョロ充として立ち回って人気を獲得してきた玉木代表だが、都議選と参院選は小池・石丸人気にあやかれない。都議選と参院選は、玉木氏がキョロ充感を払拭できるか否かを問われる選挙でもある。

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