人気怪談師によるライブが盛況「リアルさに魅了される読者が多い」

 怪談がひそかなブームとなっている。  人気怪談師によるライブが盛況で、怪談に特化した文庫本も定期刊行されている。その背景には、動画投稿サイト「ユーチューブ」の活用や、先行き不透明な世相があった。 コロナ以降 動画投稿やライブ活況  「ちょっと、いわく付きのお話をしようと思います」  3月、東京・歌舞伎町のビルにある怪談ライブバー「スリラーナイト歌舞伎町店」。暗い店内で、赤紫の照明に照らされた怪談師の村上ロックさん(46)がゆっくりと話し始めた。  物語は40代男性から聞いた「変な体験」を語るという形で始まる。男性が都内の新築マンションに引っ越して数日すると、部屋で奇妙な現象が起き始める。50年近く更地だった土地に建ったマンションにはある因縁があり——。その後の背筋が凍る展開と巧みな話芸に引き込まれ、思わず悲鳴が上がる。  同店は、お酒を飲みながら怪談を気軽に楽しめるのが売りだ。店内には西洋人形や骸骨といった不気味な小物が飾られ、雰囲気を醸し出す。ライブで怪談を聞きたいという客で、連日にぎわい、「すごい体験ができた」と好評を博している。  「売れない役者」だったという村上さんが怪談師になったのは2014年。人気のきっかけは、コロナ禍の21年に始めたユーチューブでの配信だ。村上さんは、「反響はすごく、コロナが明けた途端に店が混み出した」と振り返る。今では各地から依頼が来る、引っ張りだこの怪談師だ。  出版界でも怪談が盛り上がっている。出版社「竹書房」は、自らの体験や体験者から聞いた話をもとにつづられた怪談に特化した「竹書房怪談文庫」を月5冊刊行している。小川頼子・副編集長によると、コロナ禍以降に動画投稿や怪談会などが盛り上がったという。小川さんは、「体験者が実在し、リアリティーがあり、本物感に魅了される読者が多い」と人気の理由を語る。 戦乱から太平の世 江戸期に文化定着  怪談の歴史は古く、平安時代の「今昔物語集」にも収められている。怪談文化が花開いたのは江戸時代になってからだ。江戸の風聞などを基にした「四谷怪談」などが歌舞伎の演目となり、庶民に親しまれるようになった。  怪談に詳しい国学院大の飯倉義之教授(民俗学)によると、中世は、戦乱や疫病で人の死が身近だったが、戦がなくなった天下太平の時代になると、死は少し遠い存在となった。そのため、死と関連する怪談を怖がるようになり、逆に娯楽として楽しまれるようになったという。飯倉教授は「戦乱の時代に怪談ははやらない。差し迫った身の危険がなくなったからこそ楽しめるようになった」と指摘する。  四谷怪談に代表される江戸期の怪談は、虐げられた女性が幽霊となり、権力を持つ男性をたたる話が多い。飯倉教授は「江戸時代後期の社会は安定していた反面、閉塞(へいそく)感があり、庶民は将来に不安を抱えていた。その不満や不安を怪談で発散しようとしていた」と解説する。 90年代「実話もの」  不安を怪談で紛らわすという心情は今も同じかもしれない。  怪談研究家の吉田悠軌さん(44)によると、最近のブームは1990年代に端緒があるという。90年代に「学校の怪談」が書籍や映画でヒットし、体験を基にした「実話怪談」が登場し、主流となっていった。バブル経済崩壊で将来に不安を持つ社会と怪談のヒットは重なる。吉田さんは、「怪談は不思議で不安定な世界をそのまま語るもの。だからこそ不安定な世相とマッチして、人々に共感されやすい」と話し、「今ある世界がすべてではなく、別の世界もあるかもしれないというロマンを感じさせてくれる」と魅力を語る。

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