日本歌謡史に名を刻む中森明菜が１９８２年のデビュー以来、初めて野外フェスティバルの舞台に立った。 　伝説の歌をよみがえらせたステージは、まさに「事件」だった。 　２０１０年からの休止期間以降、近年徐々に活動を再開させている中森。今回は中森に楽曲を提供していた小室哲哉からの誘いに応え、彼がプロデュースするステージに２日間にわたり出演した。 　注目の初日、８６年の代表曲「ＤＥＳＩＲＥ—情熱—」で幕を開けた。アップヘアに黒を基調としたシックな衣装で登場すると会場に大きな歓声が沸き起こる。 　間髪を入れず耳に届いたのは、陰影をたたえたあの歌声だった。深みと艶（つや）のある中低音を生かした歌唱とともに、視線や指先まで計算された表現で、独自の世界を構築していく。時折目を閉じ歌に没入する姿は女王の風格を感じさせた。 　ＭＣでは「生きてたぞ！」と笑いを誘い、会場を和ませる一幕も。続いて小室が９０年代に作編曲した「ＭＯＯＮＬＩＧＨＴ　ＳＨＡＤＯＷ〜月に吠（ほ）えろ」「愛撫（あいぶ）」を披露し、深い歌世界に観客をいざなった。最後の「ＴＡＴＴＯＯ」（８８年）では、時になまめかしく体を揺らしながら、耽美（たんび）で退廃的な世界観を濃密に描き、観客の熱狂は最高潮に達した。 　深々と一礼した中森に、小室は「ここからスタートしてください」とエールを送った。２日目のステージは髪を下ろし、よりリラックスした表情と歌唱を披露。ジャズやブルースも似合いそうな声の深まりは表現の成熟を感じさせ、本格的な復帰への一歩を印象付けた。 　ほかに、テクノユニットの電気グルーヴや大分発のロックバンドＳＩＸ　ＬＯＵＮＧＥらも会場を沸かせた中、初日は氷川きよし＋ＫＩＩＮＡ．も登場。ラップやダンスが印象的な小室とのコラボ曲「Ｐａｒｔｙ　ｏｆ　Ｍｏｎｓｔｅｒｓ」を披露した。原点の演歌を大切にしながら、自ら信じる道で新境地を開く姿が鮮烈な光を放っていた。（北川洋平） 　——４月１９、２０日、大分市・大分スポーツ公園。